54.王宮へご招待
結婚式から数日。
あの日エーリッヒ殿下に言われたとおり、私は王宮に招待されていた。
王子からの呼び出しだと思えばとても緊張するけれど、クレスもいる。
クレスはエーリッヒ殿下の友人だし、結婚したリリアン様とは幼なじみ。
だからクレスと婚約した私とも是非ゆっくり話がしたいとのことだった。
クレスは「かしこまらなくても大丈夫だから、気軽においで」なんて言っていたけれど、そういうわけにもいかない。
もしかしたら私がクレスの婚約者として相応しい相手かどうか見極めるために呼ばれたのでは……なんて深読みしてしまう。
クレスは仕事もあるからと先に屋敷を出て、私はメリにドレスの着付けとヘアセットを手伝ってもらって昼過ぎに王宮へと向かった。
結婚式の日ほどではないけれど、ちゃんと貴族令嬢に見えるようには仕上げてもらったし、今日は個人的にお呼ばれしたわけで、かしこまった場ではない。
それでもやっぱり緊張する。
色んな意味で、早くクレスに会いたい。
「あ……」
約束の時間より少し早く着いてしまったけど、お城の従者の方に案内されるまま王宮の一角を歩いていると、正面に背が高く、黒い騎士服に身を包んだ男性が目に飛び込んできた。
その瞬間、私の胸はドキリと跳ね上がった。
なにあれ……格好良い!
深みのある銀髪に、整った凛々しい顔立ち。
たぶん部下であろう騎士と何か話している。
ちゃんとした騎士モードのクレスは、思えば初めてだ。
とても真剣な顔つきで、少し近寄り難いほどに格好良い。
クレスって普段、あんな顔して働いてるの?
エーリッヒ殿下の結婚式の時も格好良かったけど、それよりもっと厳しい表情が胸に刺さる。
ギャップが……、ヤバい。
「ルビナ!」
「あ……」
お話中だから声をかけるのは控えていたら、クレスがこちらに気づいて顔を向けた。
私を視界に捉えると、すぐにいつものように顔を綻ばせてぱぁっと笑ってくれる。
だから、そのギャップは反則だって……。
「少し早く着いてしまって……」
「大丈夫だ、ちょうど俺も手が空いたところだ」
クレスが部下の方に「そういうことで、頼んだぞ」と声をかけると、私にぺこりと頭を下げて去っていった。
私も頭を下げてお見送りする。
「ちゃんと一人で来れたようだな」
「子供じゃないのだから、来れるわよ」
「そうだな」
とても嬉しそうに笑っているクレスにからかわれるようなことを言われたけど、笑顔が可愛すぎるから怒れない。
王宮内で私に会えるのが、そんなに嬉しい?
私も騎士モードの貴方を見られて嬉しいわ。
今度はクレスの案内で庭園へと向かう。
広いお庭の草木は当然のように隅々まで綺麗に剪定されており、可愛いお花が咲いていた。
軽いお散歩気分でクレスの隣を歩く。
「そうだ、二人きりのうちに言っておこう」
「?」
心地良い天気に心穏やかに歩いていたら、ふとクレスが立ち止まって私に向き直った。
「今日のドレスもとてもよく似合っているな。本当に美しい」
「……ありがとう」
ほんのりと目の下を赤く染めて、言いながらぎゅっと手を握られる。
嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。
美しいだなんて言葉は言われ慣れていない。
「着いたよ。ここはリリアンのために作られたガーデンだ。今日は天気がいいから、ここで茶会をすることになった」
「素敵ね……」
薄い青色の薔薇と、薄紅色の薔薇はあのお二人の瞳の色とよく似ている。
この国では薔薇の花には深い意味がある。
薔薇の花を異性に贈るというのは、告白を意味しているのだ。
更に、愛する者へ自分の瞳の色の薔薇を贈って想いを告げるというのが粋らしいと、昔本で読んだ。
薔薇に色付けするのは魔導師だ。
一般庶民でも魔導師への依頼はできるけど、薔薇一本用意してもらうにもお金がかかるので、一部では憧れとされている求婚方法だ。
だけど王族となるとこんなに素敵な庭園すら作ってみせるのだから凄い。
リリアン様はこの国の女性たちの憧れに違いない。
「クレス。待たせてしまったかな」
「エーリッヒ。俺たちもちょうど今来たところだ」
声の方を振り向けば、エーリッヒ殿下がリリアン様の手を引いてやって来たところだった。
お二人は今日も美しい……。
「ご機嫌麗しく、ご挨拶申し上げます」
「ああ、そんなに堅くならなくていいよ。どうか気軽にしてほしい。なぁ、リリアン」
「そうよ。良かったら貴女と仲良くしたいと思って今日は来てもらったの。だからどうか、顔を上げて?」
「そうだぞ、ルビナ。二人とも俺の友人だ。つまりどういうことかわかるだろ?」
「……」
仲良し三人組に一気に言われて、私はそっと頭を持ち上げる。
うん……まぁ、つまり、堅くなってへこへこと機嫌を窺われるのが好きじゃないということね?
でも、王族なのだから、クレスよりも身分は上だ。それだけは肝に銘じなければ。
「ありがとうございます。エーリッヒ様、リリアン様。本日はお招きいただき大変嬉しく思います」
だから笑顔を浮かべて応えてみたら、二人もにこりと微笑んでくれた。
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