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55.殿下とのお茶会

 それから紅茶と焼き菓子が用意され、私たちのお茶会は始まった。

 私が緊張していたのは最初だけで、すぐに和やかな気分になっていった。


 王子とクレスは本当に仲の良い友人だということがわかったし、クレスとリリアン妃も幼い頃から知っている仲で、ちょうどお二人が婚約した頃からクレスは王宮に出向くようになり、エーリッヒ様との仲を深めていったそう。


 二人はとても楽しそうに、それぞれ昔のクレスの話を私に聞かせてくれた。


 私の知らないクレスの話を聞けるのは純粋に楽しかった。


 だけど少しだけ、私の知らないクレスを知っている二人が羨ましいとも思った。


 クレスと出会って日の浅い私には、どうしても敵わないものがあるのだと感じてしまう。


 まぁ、だからってなんてことはないんだけど!


「それで、クレスったらあとでお父様に叱られて」

「あの時はリリアンを庇うために仕方なかったんだぞ?」

「ふふ、わかっているわ。ちゃんと感謝してる」

「わかっているなら、そこをきちんとルビナに教えてやってくれ!」


 リリアン様は、とても可愛く笑う方だった。

 女の私でも胸がきゅんとしてしまう笑顔。


 こんなに可愛らしい方を奥さんにできるなんて、幸せな王子様だなぁと、何気なくエーリッヒ様に目を向けて、私の胸はドキリと音を立てた。


「……」


 楽しそうに笑っているリリアン様とクレスに、王子はとても切なげな視線を向けていたのだ。


 どうしたんだろう、エーリッヒ様……。

 もしかして、クレスにヤキモチを焼いているのだろうか――。


 そう思って私も二人に視線を向ける。

 だけど、もちろんクレスからはリリアン様をそういう対象で見ているような空気は出ていないし、リリアン様も楽しそうではあるけど、友人以上の感情があるようには見えない……と、思う。


「そういえばあの時もクレスは私のことを庇ってくれたわよね」

「あの時? いつのことだ?」

「二人とも、ゆっくり話すのは久しぶりなのはわかるが、彼女のわからない話を長く続けるのはどうかと思うぞ?」


 すっかり盛り上がって二人の世界に入りかけていたところを、エーリッヒ様が諭すように声をかけた。

 途端、ハッとして私に顔を向ける二人。


「違うぞ、ルビナ」

「ごめんなさい、気を悪くしてしまったかしら?」


 リリアン様は慌てたようにそう言ってくれた。クレスも不安げな瞳を私に向けるけど、本当に気にしてない。私からすれば、ヤキモチを焼くとかいう次元の話ではない。


「お気遣いありがとうございます。ですがクレス様の子供時代のお話が聞けて、私も楽しいです」


 ほっとしている二人の顔を見ながら、もしかしたら私よりもエーリッヒ様の方が気にしているのではないかと考えた。



 それからもう少しクレスのこれまでのことや騎士としての活躍話を聞いて、お茶菓子を食べ終えた頃。


 エーリッヒ様がおもむろにリリアン様に何かを窺うような合図を送ると、三人は顔を合わせて頷き合った。


 なんだろうかと、私は一人で首を傾げる。


「貴女はこれからも何か仕事をし続けたいのだと聞いた。しかし女主人になる人にいつまでも使用人のようなことはさせられないとクレスから聞いている」

「はい……そうですね。でもクレス様も今すぐに爵位を継いで領地の仕事をするわけではないようですし」


 代表するように私に話すエーリッヒ様に向き合う。


「実は、リリアンの侍女を数人募集しているんだが……やってみる気はあるか?」

「え? 私がですか?」


 そして続けられた言葉に、今度はリリアン様に目を向けると、彼女はにこりと優しく微笑みかけてくれた。


「ああ。もちろんリリアン付きの侍女には元々王宮に仕えているベテランもいるが、気の置けない歳の近い者を傍に置いてやりたいんだ」

「侍女というより、私の話し相手になってほしいの。もちろん、クレスと結婚するのだから、そちらの時間を優先してくれて構わないわ。貴女の都合のいい時間に、相談役として来てほしいの」

「私なんかが……」


 エーリッヒ様に続いて、リリアン様が言う。

 クレスも私に判断を委ねるように頷いている。


 だけど私が王子妃殿下の相談役なんて、務まるのかしら……


「君なら十分にやれるだろう。大丈夫、リリアンは悪い女じゃないぞ! なぁ? ルビナを虐めたりしないだろ?」

「もう、クレスったら」


 私の心配を読み取るみたいにそう言って笑うクレス。

 本当に仲が良いのね。

 つまり、信用して良いということだ。


「……わかりました。私でよろしければ、謹んでお受けいたします」

「わぁ、良かった!」


 申し入れをお受けすると、リリアン様はとても可愛く笑ってくれた。

 本当に、花が咲いたように笑う人だ。ドキドキしてしまう。


「良かった。貴女なら俺も安心だし、まぁ部署は違うがクレスも同じ王宮内に婚約者がいて嬉しいだろ」

「む? ん、まぁ、それはそうだが、仕事だからな。それはちゃんと弁えるぞ」


 エーリッヒ様の言葉にクレスはわざとらしい咳払いをして目の下を赤らめた。


 一生懸命顔を引き締めているつもりだろうけど、口元が緩みそうになっている。可愛い。



 リリアン様は公爵令嬢というとても高位なご令嬢だけど、私と同い年でとても話しやすい雰囲気なのは確かだった。彼女が私に合わせてくれているのかもしれないけど、クレスの言うようにきっと素敵な女性なのだと思う。


 ……殿下じゃないけど、二人に少し妬けてしまうのはわかる。

 それに、この三人の中で、私がこの申し入れをお受けして一番ほっとした表情を見せたのはエーリッヒ様だった。クレスは全然気にしていないようだけど。


 もしかしたら、リリアン様はクレスのことが好きだったのではないかと思う。

 そして、エーリッヒ様はそれに気づいている。


 クレスはまったく気づいていないようだけど。


 そんな気がした。



この辺はサクサク行きたいので、できたら今夜もう一話更新します!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] |気のおける歳の近い者を傍に置いてやりたいんだ 【気遣いの必要がある】側仕えを置きたい、という意味になっていますが、それでよろしいのでしょうか王子様?
[一言] クレスとリリアンねぇ… クレスの元婚約者の妹だったりして!(笑)
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