49.妹の真実・前編
妹がやって来て一週間。彼女のことは主にメリとルッツが面倒を見てくれている。
二人ともなかなか厳しいようで、イナは私やクレスと顔を合わせると泣きついてきていたけれど、最近は諦めたのか、少しは精神が鍛えられたのか、そんなこともなくなってきている。
生きていくためには、自分で何とかしなければならないということを妹には知ってほしい。
最初は掃除の仕事に文句を言って三日で投げ出したのだけど、その後は厩舎で馬の世話を手伝っている。それはなんとか続いているようだ。
なんでも初日にいきなり倒れたという話だけど、厩舎係のルッツの話ではその後復活して自らで掃除を買ってでたのだとか。
ルッツはまだ十六歳なのにとても立派だ。クレスはルッツが幼い頃から可愛がっていたようで、信頼関係が厚い。
ルッツは馬が大好きで、人間の女性にはあまり興味が無いらしいからイナの罠にもかかっていないのだろう。良かった。
妹が少しは成長していると期待したいところだ。
「――そうか、ルッツに扱かれているのか」
「そうみたい。でも今まで周りは年上ばかりだったから、同い年の男の子なんて、あの子には新鮮でいいかもしれないわ」
就寝前にクレスの部屋でこうしてまったりと話をするのが最近の日課になっている。
クレスは今日も私の隣に座っていて、蜂蜜入りの紅茶を飲んでいた。
ちなみにお酒は入っていない。
「クレス、本当にありがとう。あの子をこの屋敷に置いてくれて」
「いや、俺は使用人を一人雇っただけだ。君こそ大丈夫か? 俺がいない時間に困ったことは起きていないか?」
「大丈夫。メリとルッツのおかげで、私は全然手を焼いていないわ。まぁたまに顔を合わせると助けてほしそうに目で訴えてくるけれど」
「ははっ、君の凄さを実感しているだろうな」
クレスは私が許すのならイナをここに置いていいと言ってくれた。
とても我が儘な妹だから、迷惑をかけてしまうかもしれないと伝えたけれど、クレスも、メリも、嫌な顔をせずに受け入れてくれた。
この屋敷の人たちは本当にいい人ばかりね。
「……おいで、ルビナ」
クレスはふと物思いげに私を見つめると、こちらに体を向けて手を広げてきた。
今日はお酒は飲んでいないはずだけど……。
「……」
はにかんで待っているクレスに、おずおずと、ゆっくり体を移動させて彼の胸の中に身を寄せる。すると私の身体を捕まえるようにぎゅっと抱きしめられた。
そのまま優しく頭を撫でられて、額にキスが送られる。
一瞬にして甘い雰囲気が辺りを立ち込めていき、鼓動がドキドキと速まっていく。
もう何度も口づけを交わしたけれど、未だに緊張する。
クレスからもどこか緊張感のようなものを感じた。でもそれは、これからキスでもしようかという緊張感ではない気がして、私の心を一瞬冷静にさせた。
なんとなくだけど、クレスは私に話したいことがあるのではないかと感じたのだ。
そしてそれは少し言い難いことで、私が傷ついてしまうようなことなのかもしれない……。
だからこうして、先に私を安心させようとしているのかも――。
「クレス」
「――ルビナ、イナちゃんのことで話がある」
やっぱり。だけどその話って、イナに関することなの?
「またイナが何か迷惑をかけた?」
「いや……そうではない」
彼の顔が見えるように胸に埋めていた顔を持ち上げると、クレスは言いづらそうに視線を下げた。
何かしら。でもきっとまた何かやらかしたんだろう。クレスがこんなに言いづらそうにしてるということは、余程のことかもしれない。
「クレス、話してくれる?」
「君も気づいていない……いや、忘れてしまっていることだ」
忘れている? 何かしら? イナに何かお願いしなければいけない仕事があったかしら。
「というか、あれは本人にも自覚がないのかもしれないな……」
イナに罪の意識がないのはいつものことだけど、なんだか今回は本当に深刻そうね。
「だがこのままにはできない」
「なぁに、クレス……教えて?」
「少しショックを受けるぞ」
「……ええ」
クレスは真剣味を帯びた瞳を私に向けていた。
ショックを受けること? イナが無意識にとんでもないことをやらかしたの?
私が忘れてしまっていることって、何かしら――。
少しはマシになったと思っていたのに。やっぱりそう簡単には変わらないのね。
「彼女は――」
そう思って内心でため息をついたけど、クレスから語られた話に、私は耳を疑った。
長くなったので2つに分けます。続きもすぐ更新します!




