48.妹の事情5
上目遣いで可愛く声を掛けると、クレス様は簡単に頷いてくれました。
やっぱり……! 私の方が可愛いですもんね。姉がいない、今がチャンスですよ、クレス様!
ではこっちで話を聞こうか。と言うクレス様に続いて、私は応接室に入りました。
扉は閉めます。二人きりです。チャンスですよ、クレス様!
「それで、相談とは?」
クレス様は最初は怖い騎士様だと思っていましたが、ここへ来て数日を過ごすうちに、とても優しい方だということがわかりました。
特に姉への態度は腹が立ってしまうくらいに甘々です。でも、他の使用人にも優しいです。私にも優しくしてくれます。
「実は……、慣れない仕事で体中が痛くて……」
「ああ、それは大変だね」
クレス様は困ったように眉を下げました。
やっぱり姉に従っただけで、本当は可愛い私に仕事なんてさせたくないのだと思います。
ワルター様の時のように、上手くやってみせましょう!
「ですので……クレス様からお姉様に伝えていただけませんか? 私が仕事をしなくてもいいように」
向かい合って座っていたクレス様の隣に移動して、私はそのたくましい腕に自分の手を置きました。
「お願いします……」
そして瞳を潤ませて、そっと見上げます。
これでクレス様も私にメロメロになるはずです。
お父様やワルター様だけではありません。
街へ出掛けた時も、お買い物について行った時も、男の人は私が可愛くお願いすればサービスをしてくれたり、お願いを聞いてくれたりしました。
可愛く生まれた私の特権です!
「……君は」
クレス様の綺麗なブルーの瞳が私をじっと見つめています。
これは落ちましたね!
「……ああ、そうか。そういうことか」
「?」
クレス様は一人で何かを納得したように呟くと、ふぅ、と息を吐いて考え込むように眉を寄せ、口元を引き締めました。
「君は確かに可愛らしい外見をしているな」
ほら! やっぱり!
やっと私の可愛さに気づいてくれたのですね。
クレス様は今まで出会った男の人の中で一番かっこいいです。だからそんなことを言われると、私も少し照れてしまいます。
ですが――。
「だが、それだけだ」
「……えっ? どういうことですか……?」
クレス様は腕に乗っていた私の手を涼しい顔でそっと振り払いました。
なんとなく冷たい印象を受けます。
「金を払ったり化粧をしたり……他にも、どうにか化ければ誰しもある程度綺麗に取り繕うことはできる。だがそれだけではとても薄っぺらい。いつか崩れる。君は化粧をしなくても可愛いつもりでいるのだろうが……内面から湧き出てくる美しさには敵わないんだよ。だから俺は君には魅力を感じない。とてもつまらない」
「そんな……っ」
そんなことは、初めて言われました。
私に魅力を感じない? つまらない?
「君に中身を磨く気がないのなら、見せかけだけを愛してくれる男もいるだろう。ただし、君が歳をとったり、より美しい人が現れたり……それが崩れた時、簡単に目移りされてしまうだろうね」
「……」
私が歳をとる? 私より美しい人? 崩れる……?
そんなこと、考えたこともありませんでした。
「まぁキツいことを言ったけど、義兄として言わせてもらうなら……もっと自分を大切にしろということだな」
「……」
少しだけ、クレス様の表情が緩みました。
やっぱりただの意地悪な人ではないようです。
ですが、私は私のことを大切にしています。
そんなふうに言うのなら、こんな虐めみたいな仕打ちはやめてほしいと言っているのです。
私を大切にしてくれるなら、もっといい扱いにしてほしいです。
クレス様の言っていることがよくわかりません。矛盾しているように感じてしまいますが、私がおかしいのでしょうか?
「自分を安く売るな。誇りを持てるように生きろ。君は本当は自信がないんだろうな。早くに母親を亡くし、寂しかったんだろう。お姉さんに劣等感を抱えているんだな」
「そんなことは……」
続けられた言葉に、反論しようと声を上げて、はっとしました。
お姉様より、私の方が可愛いです……!
私の方が、お父様にもワルター様にも愛されていました……でも――。
「だが、本来比べる必要なんてないんだよ? ルビナはルビナで美しく、君には君の良さがあるはずなんだから」
「……」
言葉が続かない私に、クレス様は言いました。最後はとても優しい顔をしていました。
お姉様がクレス様に惚れてしまうのがわかります。
きっと本当に、心から二人は信頼し合い、愛し合っているのだろうなと、ふと心に落ちてきました。
お姉様は以前より綺麗になったような気がします。
まさか、恋をしているからですか?
あれが内側から湧き出てくる美しさだと言うのでしょうか。
……私は、ワルター様に恋をしていたでしょうか?
ワルター様が捕まってしまっても、彼より自分の今後が心配でした。
今だって、もうワルター様のことを気にかけていません。
私は、ワルター様を愛してはいなかったんだと思います。
「また辛くなったらいつでも話を聞いてあげるよ」
「……」
そう言って、クレス様は私を置いて行ってしまいました。
やっぱり、お姉様ばかりこんなに素敵な人と恋ができて、ずるいです……。
けれどなぜか、クレス様が言った言葉が、やたらと私の胸にざわざわと残りました。
私が忘れている何かを思い出させるような言葉でした。
……いいえ。忘れていることなんてありません。私は姉より可愛いです。そうです、何もありません。何も……。




