37.実家での夜
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「いやぁ、良かった良かった! まさか魔力持ちのお嬢さんを自力で見つけるとはな! さすが我が息子」
「本当に。それにルビナちゃん、とても可愛らしいわぁ。クレスも隅に置けないわね」
「……ありがとうございます」
私は今、エンダース侯爵家の本邸にて、クレスのご両親と共に夕食の最中である。
「怪我をしたクレスを助けたのが出会いだとか?」
「はい」
「素敵よねぇ、きっと運命が二人を導いてくれたのよ」
「魔力持ちであるのに王宮に仕えていない娘がいたとはな、本当に驚いたよ」
触れただけで壊れてしまいそうな繊細なワイングラスに注がれた高級ワインは、先程から運ばれてくる料理によって違うボトルに変わる。もちろんその都度グラスも交換されている。
その料理に合うように選ばれているのだろう。
ボトルに残っているワインは後で従者の方たちが美味しくいただくのかしら?
そして、もちろんお料理の方も前菜からどれも最高だった。
王都にあるタウンハウスの食事も十分美味しいけど、さすがは本邸の料理人……。
特に今日は張り切って用意させたのよ、とエンダース侯爵夫人……クレスのお母様は楽しげに語っていた。
「ルビナさんはどんな魔法が使えるんだい?」
「普段はあまり使うことがなかったので不慣れですが……。たとえば煎じた薬草に魔力を注ぐと傷の治りが早くなったりします。切り傷程度ならすぐに治せますし」
緊張して最初の挨拶をしたのに、クレスのご両親は思っていた以上の気さくっぷりを発揮し、こうして私にたくさん話しかけてくれる。
とにかくクレスが結婚を決めたということがとても嬉しいようだった。
「やはりあの時の薬草には君の魔力が込められていたのか」
「ええ」
「道理で早く治ったと思ったよ」
クレスも私の隣でご機嫌にワインを飲んでいる。
久しぶりに里帰りできて嬉しいのはわかるけど……お酒はあまり強い方ではないと思うから、少し心配。
「君は治癒魔法が得意なんだね。凄いなぁ」
「いいえ、本当に大したものではないのです……!」
エンダース侯爵の感心したような言葉に、私は恐縮する。
「いや、治癒魔法自体使える者が少ないものだから、とても凄いことだよ。今まで使っていなかったなんて、本当に惜しいな。私が現役だったらすぐにでも魔導師団に入れるのに」
「恐れ入ります……」
魔導師団か……。魔力を持っている者のほとんどは王宮に仕えているらしい。
私も入った方がいいのだろうか?
「それにしても、その節はクレスを助けてくれて本当にありがとう。私たちからも改めて礼を言わせてくれ」
「本当に。ありがとう、ルビナちゃん。クレスを助けたお嬢さんが魔力を持っているなんて……運命よね。クレスが惚れてしまうのもわかるわぁ」
「いいえ、当然のことですから!」
改まって二人にあの時のお礼を言われて、私は益々恐縮してしまう。お礼ならもう、たくさんいただいている。それに、あれは大事な侯爵令息にしていいものではない、手荒な治療だったと思っている……。
「――今夜はとても楽しかった。我が家だと思って、遠慮せずゆっくりしていってくれ」
「はい、ありがとうございます」
その後もしばらく食事と会話を楽しんで、その場はお開きとなった。
この屋敷の使用人の方に案内されたお風呂はとても広く、個人宅とは思えないほど豪華であった。
今回のためにクレスが新しく用意してくれた部屋着に着替えて、再び使用人の方に案内された今夜の寝室となる扉を開ける。
「え……クレス?」
その部屋には、窓辺に置かれた椅子の背もたれにだらりと座ったクレスがいた。
「ああ、ルビナ……おかえり」
「ただいま……? というか、なんでクレスが?」
よく見たらクレスは既に夜着に身を包んでいた。
もうお風呂から上がっていたようだ。
小さめのサイドテーブルには、グラスに入った琥珀色の液体。
「……まだ飲んでるの?」
「今夜はとても気分がいい」
言いながら、クレスは可愛く笑ってちょいちょいと私に手招きをした。
部屋はダウンライトのみ灯されていて、クレスを照らしているのはほとんど月明かりのみだった。
「やはり思ったとおり。とても似合っているよ」
「……ありがとう」
クレスの前まで行くと、私の両手を掴んで頭の先からつま先までを舐めるように見つめられた。
「可愛い……俺のルビナ」
「っ!」
瞳を細めてそう囁くと、くいっと手を引かれてクレスの膝の上に座らせられる。
「……クレス、やっぱり酔ってるわね?」
昨夜とはまるで別人。
同じ部屋で寝ることをあんなに照れていたのに……まさか今夜は同じ部屋なの?
頬が赤い。やっぱりクレスはお酒があまり強くないのかもしれないと思う。あの時だって、ブランデーを飲んでキスしそうになってたし。
……っていうかなにそれ? やだ、こんなに大きな図体をしているのに……。そんなの反則じゃない? 可愛すぎる。どれだけ私のツボを押さえれば気が済むのよ。
お酒が入るととても積極的になるらしい彼の普段とのギャップに、また私の胸きゅんポイントが刺激された。
「まだ髪が濡れているね」
クレスが私の頭を撫でてそう呟くと、体をふわっと暖かいものが包み込んだ。
「うん、これで良し」
「……ありがとう」
魔法で、一瞬にして乾かしてくれたのだ。
妹たちの前では使っていなかったけど、私にもこれくらいのことはできる。だけど完全には乾いていなかったみたいで、クレスが仕上げをしてくれたらしい。
「ルビナの髪はせっかくこんなに綺麗なんだから……ちゃんと手入れしてやらないと」
「……ええ」
恥ずかしげもなく熱い視線を送りながら優しく頭を撫でるクレスの胸に手を置いて、私はその距離を保っている。
クレスの心臓はドクンドクンと大きく脈打っていた。
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