38.お酒に酔った大型犬は時々狼
いちゃラブ要注意。
クレスの胸はドクドクと熱く鼓動を刻んでいる。
これも、お酒のせい?
「……ルビナ」
そんなに見つめられては、私の方が照れてしまう。
実は私、意外とお酒には強い方。
そんなに好きというわけではないけど、あの程度のワインでは酔わない。
いつもは私が見上げる形なのに、今は膝の上にいるせいで彼に見上げられている。だから恥ずかしくなって一瞬視線を逸らすと、クレスはそれが不満だったのか、ぐっと私の頭を押さえるように自分の方へ寄せ、背筋を伸ばして顔を寄せてきた。
「……っ」
躊躇いもなく重なったクレスの唇からは、アルコールの香りが漂ってくる。
「んんっ、クレス……!」
「ルビナ……可愛い……」
ちゅっと音を立てて、唇が離れる。
左手は頭を支えながら髪を撫で、背中に回っていた右手が私の身体を撫で回すように上下に動いていて、ゾクゾクしてしまう。
クレスったら、お酒を飲んでその気になっちゃうなんて……!
普段のクレスではありえない積極的な行動に、私は翻弄されっぱなし。
このままではお酒ではなく、クレスに酔ってしまいそう。
「……」
「……っ」
クレスの顔は直視できなくて斜め下に視線を向けていたら、再び顔が寄せられた。そして今度は耳に唇を押し当てられ、ペロリと湿ったものがそこを這った。
ぞわり――と、全身が粟立つ。
「クレス、くすぐったいわ!」
「……それだけか?」
堪らず彼の肩に手を置いて離れようとしたけど、がっしりと私を捕まえている彼の大きな手がそれを許してくれない。
クレスは目の下を赤くしながらもクスクスと笑っていて、ふさふさの大きなしっぽをぴょこんと出して、楽しそうにぶんぶん振っている(ように見える)。
「え、ちょっ……!」
そしてそのまま私の体を抱き上げて立ち上がったかと思ったら、真っ直ぐベッドまで運ばれて、どさりとその上に沈められた。
「ク、クレス……?」
突然だけど、もう寝ろってことよね?
変な意味はないわよね?
もう十分イチャイチャしたから、満足したってことよね……?
「昨日は、俺が何をするかわからないと言ったのに、わかってて言ったのよーって、言ってくれた」
「……っ」
そう言いながら蕩けた瞳を私に向けて、上に覆い被さってくるクレス。
相変わらず口元には笑みが浮かんでいるけれど、どこか隙がない。逃げ場がない。さすが騎士様。
少しでもその下から出ようと動くと、すぐにそちらを塞ぐように彼の太い腕が優しく邪魔をする。
言ったけど。でもまさか、クレスがこんな急展開……。
嬉しいけど、でも、待って!
少し、彼を侮っていたかもしれない。
少なくとも今日はその覚悟をしていなかったのに。
ご両親に認めてもらえて、そんなに嬉しかったの?
お酒が入るとそういう気分になっちゃう人なの?
感情がストレートになるの?
抑えが効かなくなっちゃうの?
ドクドクと、全身が心臓になってしまったみたいに脈打つ。
蕩けた瞳でじっと私を見下ろしているクレスの顔がゆっくり落ちてきて、私はつい顔を背けてしまう。
「……っ」
今の彼はわんこの毛皮を被った狼だ。
これは、覚悟を決めなければならないのだろうか――。
そう思っていたら、クレスの身体が私を抱きしめるように密着してきて、彼のやわらかい唇が私の首筋に触れた。
びくりと身体全体が揺れて、変な汗をかく。
「クレス、ま、待って、まだその覚悟は――」
まさか……、本当にこのまま――。
彼が次にどう出るのか覚悟を決めたその時、私の耳元でクレスの大きな吐息が聞こえた。
「スー……」
「…………っ」
「……スー」
「…………っ、は?」
あまりに規則正しいその呼吸と続かない刺激に、ばっと彼の顔を窺おうと顔を向ける。
「…………クレス?」
「……んんっ」
むにゃむにゃ、うーん……スピー……。
とても幸せそうに、あまりにも可愛く。
目を閉じている彼を見て、私の体から一気に力が抜け落ちていく。
いやいやいや、ここで寝落ちって……!!
どこのヘタレよ! どんなお約束よ!!
ほっとするような、がっかりするような。
「……もうっ」
これでは一人で色々と覚悟していた私の方が恥ずかしい。
起きたら起きたで文句を言ってやればいいやと思い、少し乱暴に彼の身体を押し退けて下から這い出て、私はその大きなわんこに布団をかけた。
でもまぁ、なんというか、彼らしい。
ちょっとドキドキさせてもらったし。
クレスの割には十分頑張りました。
「んん〜……」
幸せそうな寝顔でもぞもぞと身じろぐクレスの頭をよしよし、と撫でて、私も遠慮がちにベッドに身を倒すことにした。
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