35.通じ合う想い2
しばらくの間、夢中でルビナと口づけを交わし合った。
彼女に好きだと言われ、俺の理性は崩壊しかけた。
ルビナがまさか俺のことを好きでいてくれたなんて。
夢のような時間に、これが現実であるのだと身体に刻み込むように彼女を抱きしめ、その温もりを噛み締めた。
うっすらまぶたを持ち上げれば視線の先に彼女がいつも寝ているベッドが映る。
熱くなる身体が、このまま彼女をそこへ運んでしまえと訴えてくる。
だが、それはダメだ。
ケジメをきちんとつけてからでないと、ただ彼女を不安にさせてしまう。
「……ん」
「……っ、ルビナ、聞いてくれ」
唇を離し、頭を落ち着かせて彼女の肩に手を置く。
「……うん」
「俺は、このままでは従妹のマルギットと婚約させられる」
「……うん」
「だが俺は君と結婚したい」
「……嬉しい」
「だから、なんとかする。何年かかろうと、父を説得してみせる」
メリにでも聞いていたのか、マルギットのことはすんなりと理解しているようだ。
ルビナは「私も協力するわ」と言って熱を持った顔で微笑んだ。
「ありがとう」
彼女の小さな手を握り、この決意を改めて伝えるよう、琥珀色の瞳を真摯に見つめた。
彼女も俺のことを想ってくれていたなんて、とても驚いたが本当に嬉しかった。
彼女と結婚するためならば、俺は努力を惜しまない。できることはなんでもやるつもりだ。
最悪、侯爵家から縁を切ってでも――。
「傷が……」
そう考えていると、ルビナが俺の頬に手を伸ばした。そこは、先程ワルターがナイフを振るった際に少しだけ切れてしまっていた。
まぁ、この程度はかすり傷なのだが。
「ルビナ?」
「……大丈夫」
どうしたのだろう。大した傷ではないのに、彼女はとても真剣にそこに目をやり、手のひらに意識を集中させているように感じる。
「……」
ほわん、と温かいものを感じた。
ルビナの手の熱にしては、少し違和感がある。
これはまるで、魔法の類に似ている――。
「うん、綺麗に治った」
「……」
手を離すと、ルビナは満足そうに頷いた。
何が起きたのかと、自分の頬に触れ、傷が無くなっていることに気がついた。
「ルビナ……君は今、何を……」
「黙っていたんだけど、実は私にも少しだけ魔力があるの」
「…………なんだって?」
照れくさそうに告げられた言葉に、俺は息を飲む。
今、なんと言った?
「そんなに大したものじゃないから、魔導騎士様には恥ずかしくて言えなかったんだけど。あと母が、あまり人には言うなって」
「君は魔法が使えるのか!? 魔力を持っているのか!?」
「え、ええ……、でもそんなに大したものでは……」
「ああ……なんということだ」
肯定してみせたルビナに、俺の体からたちまち力が抜けていく。
なぜ、それを早く言わない……?
まさか、知らないのか……?
「クレス? どうしたの、」
「……いや、まさか……そんなことって……」
どうして俺がこんなに驚いているのかわからないと言うような顔をするルビナに、やはり知らないのだろうと理解する。
「そうか、ルビナも魔法が使えるのか……なんだよ……っ、はは、はははは――!」
「……クレス? おかしくなってしまったの?」
今まで散々悩んできたというのに。
神もなかなか意地が悪いな。いや、ここは素直に感謝しておこう。
まさかルビナが魔力持ちだったなんて。それならば俺たちの結婚にはなんの障害もないだろう。従妹と結婚するよりも、血が遠いルビナの方が良いに決まっている。
父も納得してくれるはずだ。
俺の気が狂ったとでも思ったのか、少し引いた様子で見つめてくるルビナは、まだ状況を理解していないようだ。意味のないことを悩んでいたことがおかしくて、俺は右手で自らの顔を覆って笑ってしまった。
「ねぇ、クレス……大丈夫?」
「いや、すまん。嬉しくて……」
「何がそんなに嬉しいの?」
「君は知らなかったんだな」
「何を?」
「俺が従妹のマルギットと結婚するのは、彼女が魔力持ちだからだ」
ふぅ、と深く息を吐き、そろそろこの喜ばしい状況を彼女にも教えて一緒にこの幸せを噛み締めることにする。
「それはなんとなく聞いたけど……。伯爵令嬢だし、強い魔導師なんでしょう?」
「この国には魔法を使える者が少ないだろ? だから、魔力持ち同士が結婚して、その力を引き継ぐ子を産ませるというのが望まれている。家柄よりも、魔力があるかどうかの方が重視される。特にうちのような力のある家はな」
「え……、それじゃあ」
「ああ、もちろん従妹なんかより、血の遠い君の方が俺の相手には好まれる。それに君は貴族だ。なんの問題もない! ああ、マルギットなら大丈夫。未婚で男の魔力持ちは他にもいるから、彼女にはすぐ別の婚約者ができるよ」
「それじゃあ、私たちは……!」
「ルビナ・アイマーン」
ようやくルビナがその意味を理解し、徐々に顔を綻ばせていった。
そこで俺は、真剣に彼女に向き合い、跪いて手を取った。
「俺と結婚してほしい」
真っ直ぐに彼女の美しい瞳を見つめて、堂々と愛を乞う。
こうできる日が思ったよりも早く訪れたことに、やはり神に感謝しよう。
ルビナも俺を見つめ返して一瞬ピクっと肩を揺らすと、瞳をくにゃりと細め、とても嬉しそうに微笑んだ。
「よろしくお願いします。クレス――!」
そのまま手の甲に口づけようと思ったのに、耐えかねたように彼女の腕が俺に絡みついてきて、その勢いで俺は尻を突いてしまった。
「ありがとう、クレス。大好きよ」
「俺もだ、ルビナ。愛している」
いまいち男として格好がつかないなと自嘲しつつも、ぎゅっと可愛く抱きついてくるルビナの背中に手を回し、優しく撫でながらこのぬくもりが自分のものになる喜びを深く深く、胸に刻んだ。
第一章完結です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
めでたく、くっつきました。
おめでとうー!と思っていただけましたら、☆☆☆☆☆を塗りつぶして二人に祝福の評価をお願いします!!
二章は婚約者編です。いちゃらぶが増えています(*^^*)
妹ちゃんのその後やクレスの婚約者候補だった従妹も出てきます!
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