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23.昼下がりのデート

 それから支度を整えた私とクレスは、馬車で街中へと出かけた。


 クレスは何か買いたいものでもあるのかと思ったけど、どうやらそういうわけでもないみたい。


 ウィンドウショッピングをして、私に「何か気に入ったものがあったら言ってくれ」と何度も声をかけ、キラキラした素敵な商品に目を輝かせる度に「プレゼントしようか?」と聞いてきた。


 丁重にお断りすると、少し残念そうに口を尖らせていたのが可愛くて、私はその顔を見られるだけでも十分満足だった。


 その後、「少し疲れたから休もうか!」と言いながら全然疲れた様子を見せずに足取り軽く私の手を引いて歩くクレスは、最近新しく出来たというオシャレなカフェに入った。


 もしかしたら、最初から目的はこのカフェだったのかもしれない。


「ルビナは何にする?」


 そう言いながらメニューを見せてくれるクレスは、もう注文が決まっているようだ。


「私はクレスと同じものが食べたいわ」

「そうか? では――」


 店員を呼んで、チョコレートケーキとそれに合うおすすめの紅茶を注文したクレスは、周りにもお客がいるにも関わらず楽しみであるのが隠しきれないと言うように口元を緩めている。


「ここのチョコレートケーキが美味しいと評判でね。一度食べてみたかったんだが……どうも俺みたいな男が一人では入りづらくてね」

「あら? お店側は大歓迎だったと思うけど?」


 このお店の八割は女性客だった。


 そしてクレスが入店した途端、若いご令嬢たちを中心にその視線を集めていることに、彼は気づいているだろうか。


 残念ながら女連れだけど。

 でもさすが王都にあるカフェなだけあって、お客の質が良い。


 クレスにちらちらと視線を向けてはいるけれど、キャーキャーとはしゃぐような真似はしない。


 おまけで「あの女は誰?」というような視線も私は感じるけど、敵意剥き出しで睨みつけてくるご令嬢もいない。


 こうなったらクレスのように気にしないのが一番ね……!


「お待たせいたしました」


 思ったよりも早く、テーブルにケーキと紅茶のセットが二つずつ運ばれてきた。


 うん、確かにとても美味しそう。


 ずっしりとしたしっかりめのチョコレートケーキに、クリームが添えられている。

 紅茶もとても良い香り。


 さすが王都のカフェ。


「ではいただこうか」

「ええ」


 フォークをとって、早速一口。


 口に入れた途端、カカオの香りが広がる。しっかりと重みのあるケーキだけど、噛み締めてみれば見た目ほど甘すぎず、心地よい甘さが溶けていった。

 口溶けなめらかなクリームとの相性も非常に良い。


「とても美味しいわ」

「本当だ。噂通り、美味いな」


 そう言って頬を綻ばせて、クレスはもう一口ケーキを口に運んだ。

 彼はこんなにたくましくて男らしい風貌なのに、チョコレートケーキを美味しそうに食べている姿はとても可愛くて、胸がざわついてしまう。


 きっと周りのご令嬢たちも私と同じことを思っているでしょうね。


 そう思うと、少しだけ妬ける。


「――クレス、ついているわよ」

「ん?」

「もう……」


 高位貴族様なのに、まるで無邪気な子供のよう。

 いつもはもっと上品に食事をしているのに、今日はずっとはしゃいでいるように見える。


 このカフェに来られたのがそんなに嬉しかったのかしら?


「取れたわ」

「……」


 口の横にクリームがついていることに気がついていない彼に手を伸ばし、そこをナプキンで拭ってあげる。するとクレスはぼんやりとした表情でそのまま私を見つめてきた。


「どうかした?」

「……いや、なんでもない!」


 私の問いかけにハッとして紅茶を口に含むクレスの頬が、ほんのりと赤くなっている気がした。


 少し浮かれすぎてしまったことに気がついて、恥ずかしくなったのかしら?


 年上なのに、本当に可愛いひと。


 私も口元に浮かんでしまう笑みを誤魔化すために、紅茶を一口飲み込んだ。


 丁寧に酸化発酵されたと思われる高級茶葉の良い香りが鼻から抜けていく。

 後味も良く、ケーキにとても合っている。


「……」

「……」


 ふとクレスと目が合うと、彼はまだ少し照れくさそうにはにかみながら微笑んでくれた。

 私も上品に微笑み返す。



 ……これではまるでデートだなと、素直に感じた。


 もちろんクレスはそんなつもりなんてないんだろうけど。


 街を歩いているだけで、クレスは女性たちの熱い視線を集めていた。


 それはそうよね。客観的に見ても、彼は目立つ。


 男性の平均的な身長よりも背が高くて、騎士だからしっかりと身体は鍛えられていてたくましい。


 とても綺麗な深い銀色の髪に、澄んだ青い瞳。


 凛々しく整えられた眉に、均整のとれた目鼻立ち。


 この愛らしい性格を知らなくても、見た目だけで十分すぎるほど彼は魅力的だわ。



 一体クレスの隣を並んで歩いている私は、どう見えているのかしら。


 そんなことを考えてしまった、昼下がりだった。


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