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24.クレスの事情4

 最近の俺はおかしい。


 ルビナを見ると、胸が熱くなる。

 ルビナが隣にいると、鼓動が速くなる。


 彼女のことは想ってはいけない相手だと知りながら、それでも近くにいて欲しいと願い、もっと話をしたり一緒に過ごしたいと思った。


 ワルター・スタントンがルビナに会いたいとやって来て、二人きりで話がしたいと言った時は、素直にそわそわした。

 元婚約者がルビナに何を言うのか、とても気になった。


 もしかしたら彼女を失ってその存在の大きさに気がついたのかもしれない。いや、そうだろう。そうに決まっている。

 ルビナはいい女だ。元婚約者がどれだけ馬鹿でも、さすがにこれだけ離れれば気がついてしまうに違いない。


 ルビナはあの男のことを嫌っているようだから、簡単に復縁したりはしないだろうが、もしまだ婚約解消の手続きを行っていなかったとしたら少し厄介だ。


 そうならないためにもこちらから手を回してしっかりと潰しておくべきか?

 とも考えた。


 いやしかし、俺が彼女と婚約できるわけでもないのに、エンダース侯爵の息子がそのようなことをしたと父の耳に入れば、その女は何者だと怪しまれてしまうだろうか。


 ともかく、俺は正直に言って彼に嫉妬していたのかもしれない。

 万が一にも彼女がこの屋敷からいなくなってしまうかもしれないと思ったら、とても焦った。



 だが、俺の心配を他所に彼から発せられた言葉はルビナを責めるようなものだったから、余計に腹が立った。


 あの男はルビナのことを何もわかっていない。


 荒々しい怒鳴り声に耐えかね、男を止めようとその部屋の扉の前に立つと、奴がルビナに向かって右手を振り上げているところだった。


 まさか殴る気か!?

 そう思い、咄嗟に魔法を発動させて男の動きを封じた。


 そのまま捻り上げてやろうかとも思ったが、なんとか感情を抑えて、お咎めなくお帰りいただいた。


 愚かな男だ。

 ルビナの価値に気づかず、結婚するチャンスがあったのにそれを捨てるなど、本当に愚かだ。


 自分がどれほど恵まれていたのか気づいていないのだ。その権利を、俺がどれだけ欲していると思っているんだ。



 その後せっかくの休みだということを思い出し、彼女を気晴らしに外へと誘い出した。


 思えば彼女にはろくに休日を与えていなかった。

 俺が仕事に行っている間はゆっくり休むよう言ったのに、ルビナは使用人たちと一緒に仕事をしていたりする。

 俺はそんなこと望んでいないのだが……。


 だからたまには彼女にも息抜きしてほしくて街へ出て、何かプレゼントしようと女性が好みそうな店を何軒か回った。


 ルビナは商品を見て度々目を輝かせていたが、「買ってやろうか?」と聞くと首を横に振った。


 そこまで気に入ったわけではないのだろうかと、次の店に入っても、同じ反応。


 何度かそれを繰り返したあと、どうすればルビナが喜んでくれるだろうかと考えて、思い出した。


 部下たちが話していた、最近新しくできたカフェが評判だと。

 自分の恋人がそこのチョコレートケーキをとても美味しそうに食べてくれたと。


 なるほど。と思った。

 ルビナもいつも幸せそうに食事をする。

 だからいつか彼女を連れて行ってやりたいと思っていたのだ。


 少し休もうと言って彼女の手を引き、浮き立つ気持ちを抑えながらその店へと向かった。


 その店は話に聞いていたとおり、シャレていて雰囲気の良い店だった。

 ルビナは俺と同じものを食べたいと言ったから、迷わずにチョコレートケーキとそれに合う紅茶を二つ注文した。


 運ばれてきたケーキも紅茶も、確かに美味かった。

 それにルビナがとても嬉しそうに笑っているのを見て、俺も嬉しくなった。


 彼女に見惚れている場合ではないなと、焦るようにケーキを頬張っていたら、ルビナが俺の顔を見てクスリと笑った。


〝ついてる〟とは、なんのことだろうかと彼女を見つめ返すと、ナプキンを持った彼女の手が近付いてきて、俺の口の横を拭った。


 少し腰を浮かせて前屈みになり、伸ばした右腕の服の袖を押さえるために左手を寄せたせいで、女性特有の膨らみが主張された。

 正面に座っている彼女との距離が縮まり、俺の顔に手を伸ばした彼女の色っぽい胸元と口元に、つい目をやってしまった。


 正面からその角度で近付かれると、堪らない。


 一気に身体が熱くなり、固まってしまった俺に不思議そうに声をかけてくるルビナに、ハッとして紅茶を口に運んだ。


 あり得ない……!!

 俺は何を考えているんだ……!!


 彼女は口に付いていたクリームを取ってくれただけじゃないか!


 それに、これくらいドレスを着ればよく目にするものだ。

 覚えたての子供でもあるまいし、大したことではない!


 それなのに彼女をいやらしい目で見てしまうなんて、なんて失礼な男なんだ!


 騎士の風上にも置けん!!


 精一杯自分を罵倒して、先程見た光景を頭の中から追い払おうと残りのケーキを頬張った。


 とても甘い風味が口いっぱいに広がった。



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