第9話
「もっとすごい魔法が使えたらよかったのに…。」
レティシアは家にある布製品を片っ端から洗濯していた。
それももう終わってしまいそうだった。
浄化の魔法が使えるようになったレティシアは毎日洗濯を任されていた。
家の中の掃除もしたのだが、一度きれいにするとしばらく汚れることはなかった。ケリーが言うには魔力のベールができて汚れにくくなったのではないか、ということだった。
たくさん役に立ちたいと願うレティシアだったが、他にみんなの役にたちそうな魔法が使えるわけではなかった。
狩りに行くカイとツキは時々、切り傷くらいは作ってくるが怪我をするほどではなかった。
それもこれもツキの使う魔法が強力で、やられる前にほとんど倒してしまうからだという。
肉や毛皮をどこかに売りに行くこともないので、必要な分しか狩りをしない。
ツキには少し物足りなさを感じる毎日だった。
「もっとドカーンとかやりたいんでしょ。」
退屈そうにしているツキを見て、レティシアはニヤニヤしながら言った。
「べつに、そうじゃないけど。」
ツキはプイッと横を向いた。
「あのね、私いいことを考えたんだ。」
「レティ、何?」
夕食の準備を手伝っていたルルが振り返ってレティシアを見た。
「えっとね、町に行こうと思います!」
レティシアは立ち上がりドヤ顔でそう言った。
「町が遠いって話したわよね?」
ルルは期待はずれと言わんばかりに前を向いて野菜の皮を剥きだした。
「ツキの魔法でね、あ、私も手伝えたら手伝いたいと思ってるんだけどね、ツキみたいにできないから役に立たないかもしれないけどね…。えっと、山の麓からね、トンネルを町の方に真っ直ぐ掘ったらどうかなって思ったの。」
「トンネルって何?」
今度は料理をしていたケリーが手を止めて振り返った。
「トンネルって言うのは、穴を掘って作る道のことだよ。ぐるっと回ると遠いけど、真っ直ぐなら近いでしょ?」
「あぁ、坑道とか洞穴みたいなものね。」
ルルは作業をしながら「なるほど」と頷いた。
「それは、いいかもしれないな。ツキは土魔法が使えるから、できそうだな!」
黙って聞いていたカイが突然立ち上がり目を輝かせた。
「でしょ!きっとツキならできるよね!」
みんなの視線がツキに集まった。
「できると思うけど。やる?」
「うん!!」
レティシアはツキに抱きついた。
「よし!それじゃあ明日からさっそくやってみよう!」
カイは腕を振り上げた。レティシアも真似をして、それを見てツキも真似をした。
ケリーは「仲良しね。」と嬉しそうにそれを見ていた。
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「はい、お昼ご飯。」
ケリーは蒸した芋と干し肉を持たせてくれた。
《パンが食べたい…。絶対に町に行かなくては!》
家の畑には小麦がない。米もないから主食は芋類である。
家畜からミルクがとれないからバターなんかもない。
前世の記憶があるからだろうが、この世界の食事には飽きてしまっていた。
「心配だから私も行くわ!」
ルルは自分にはできることがないと言っていたがしっかり準備をして待っていた。
こうして4人は山の麓へと向かうことになった。
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家から山の麓へは歩いて30分ほどだった。
散歩をするにはちょうどいい距離だとレティシアは思った。
ルルは歩きながら食べられる草やキノコを教えてくれた。
「すぐいっぱいになっちゃうね。」
レティシアは草やキノコでいっぱいになってきたカバンを叩いた。
「だから採るのは帰り道がいいって言ったのに。」
ルルはヤレヤレという顔をした。
「アイテムボックスみたいなカバンがあればいいのに。こう、見た目は普通だけど中はとっても広くてたくさんの物を入れておけるみたいなやつ。」
レティシアは某アニメの四次元ポケットを思い浮かべた。
「あぁ、それなら魔導具であるらしいよ。とても高価だから金持ちの貴族じゃないと買えないみたいだけどね。」
カイは貴族が嫌いなようで、いつも貴族の話をするときには酸っぱいものを食べた時のような顔をしていた。
「あるんだ!!いつか買えるといいな!」
レティシアは目を輝かせた。
ツキは「たくさん入るようにしたらいいの?」と言って、レティシアのカバンを持ち上げた。
カバンは一瞬光ったが特に変わった様子はなかった。
「これでたくさん入ると思うよ。」
ツキはそう言ってニコッと笑った。
「えー?!本当?!」
レティシアは歩くのを止めてそこら辺に転がっていた石や枝をカバンに詰めだした。
カイとルルも「まさかね」と言いながらレティシアを見守った。
「すごい!!たくさん入るし、全然重くない!!」
レティシアは驚いてカバンの中に顔を突っ込んだ。
「レティ!!カバンの中に入らないでよ?」
ルルは心配そうにレティシアの腕を掴んだ。
カバンから顔を出すと「中に石も枝もあった!まだまだ入りそう!」と喜んだ。
半信半疑だったカイもレティシアの真似をしてカバンに頭を突っ込んだ。
「本当だ!ツキは魔導具も作れるのか!!」
ルルも「本当なの?」と同じようにカバンの中を見た。
「すごいわ…。私のカバンもやってくれるかしら?」
そうしてルルとカイのカバンも某アニメに出てきそうなアイテムボックスとなった。
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山の麓につくとカイは地図を出してどこをどう掘るのがいいか悩みだした。
「こんな地図だけじゃ今どこにいるのかもわからんなぁ。」
「空を飛べたら向こうの町が見えるのかな。」
レティシアはなんの気なしにそう言ったが、みんなは一斉にツキを見た。
「まさか飛べたりしないわよね?さすがにね?」
ルルは冗談ぽくツキに向かってそう言った。
「どうかな。飛んだことはないけど。」
ツキはそう言うと顔を上げて空を見た。
するとすごいスピードで空へと飛んでいってしまった。
3人は驚いてただ空を見た。
いつの間にかツキの姿が豆粒くらいになっていた。
「ツキってばなんでもできちゃうね。」
レティシアが感心していると、「風魔法を応用して飛ぶ人がいるから言ってみたんだけどね。」と、ルルが苦笑いをしていた。
ツキはあっという間に降りてきた。
「町はこの方角だった。ここをまっすぐ掘れば良さそう。」
ツキは方角を指差した。カイは地面に矢印を描いた。
「よし、それじゃあやってみるか!ツキ、土魔法でやってみてくれるか。」
カイは目を輝かせていた。何かロマンのようなものを感じていたのだろう。
ツキは山肌に向かって指をくるくると回した。
崖の状態だった山肌に穴が開いた。そしてメリメリと音を立てて穴は奥へ奥へと進んでいった。
あっという間にこちら側に土の山が出来た。
ツキはその作業が楽しいらしく、ニコニコで穴を掘り続けた。
手伝いをしたいというレティシアだったが、まるで出番がなかった。
横で「がんばれぇ」と応援するだけだった。
そして1時間もたたないうちに穴の向こうに光が見えた。
「開通したね!すごいよツキ!!」
レティシアは大喜びでツキに飛びついた。
「歩きやすいようにするのと、崩れないようにしないと。」
カイはトンネルの入口から覗きこんでそう言った。
レティシアは前世の記憶の坑道を思い出していた。
何かの映画で見ただけだからうろ覚えだったが、坑道の中は木材で補強されていた気がする。
「こんな感じで木でね。」
レティシアは地面に絵を描いてツキに説明した。
ツキは「木材ね」と言うとどこかに行ってしまった。
ルルはお昼ご飯の準備を始めた。
数時間で山を貫通させるというすごいことを成したのにみんなそんなに驚いていないことにレティシアは驚いた。
前世ではトンネル工事といえば何年もかかるし、重機やら爆破やら、何人もの人の労力が必要な作業である。
魔法はすごいが、その魔法でやることにはそんなに驚かない。この世界での魔法とはそういう認識なんだろうとレティシアは思った。
ドサドサとツキは丸太を飛ばしてきた。
「こんな感じかな?」
風魔法とは便利なものらしい。切ったり飛ばしたりできる。
「すごいね!ツキ!」
「昼ご飯を食べたらその木材で補強しよう。」
カイはツキの頭をなでて「えらいぞ」と言った。
ツキは嬉しそうに目を細めた。
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