第8話
「レティのこれ、いいね。」
ツキはレティシアの首にかかっているペンダントを指差した。
「これね、魔力持ちだってわからなくする魔導具なんだって。」
レティシアはツキにも買ってもらいたかったが、この近くには町も村も何もない。
山脈の向こうに行くか、陥落した城の方へ戻って隣町まで行くかしかない。
「いつか町に行ったら探そう…ね??」
レティシアが気を使ってそう言うと、なぜかツキの手にはペンダントがあった。
レティシアはいつの間に盗られたのだろうと自分の首元を見た。
レティシアのペンダントはそのままそこにある。
「ツキ?どこにあったの?ツキもルルにもらったの?」
「えっと…。」
ツキはなんだかモジモジとしてハッキリ言わなかった。
レティシアはツキの持っていたペンダントを近くでよく見たがレティシアのものと全く同じに見えた。
「実は…。私にもよくわからないんだけど…。欲しいと強く願ったら出てくるの…。」
ツキは申し訳ないという雰囲気でそう言った。
「出てくるって??どこから???」
レティシアは混乱した。
「どこだろう…。でも必要なものはどこからか出てくるの。」
ツキは生まれてからレティシアに会うまでの生活の話をポツポツと話し始めた。
ツキが言うには生まれてからすぐに一人ぼっちだったということ。
しかしお腹が空けば食べ物や飲み物が出てきたし、着替えや住む小屋も願ったら出てきたのだという。
魔物に襲われそうになっても、生まれたばかりの頃から襲われる前に勝手に倒れてくれたと言う。
とても信じられないような話だった。
《すごいわ!これがチート能力ってやつなのね!》
レティシアは目を輝かせてツキの話を聞いた。
「変だよね…。こんなことできる人、見たことないもん…。私ってバケモノか何かなのかな…。」
「そうね!きっとこの世界でもほとんどいないと思うわ!」
「嫌いに…なった…?」
ツキは暗い顔つきになっていた。
「えぇ?まさかそんなことあるわけないじゃない!!でもそうね、この世界の人たちには信じられないと思うの。異端なものとして見られてしまうかもしれないわ。だからしばらくは秘密にしておきましょう。」
「わかった。」
ツキはレティシアが受け入れてくれたことが嬉しかった。
「えっと…。もしかして…、家とか畑も…?」
「実はそうなの。あの時は同じ家しか思い浮かべられなくて…。急いで中身だけ荒れた感じにしたんだよね…。ほら、空き家だってハッキリわかったほうがいいかなと思って…。」
ツキはそう言ってクスッと笑った。
「ツキはとんでもないチート能力持ちだわ!!」
「チート?」
首を傾げるツキの両手を取ってレティシアはくるくると回りだした。
二人はなんだか楽しくなって大笑いをした。
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「むやみやたらと物を出さないこと。」
「わかった。」
レティシアは頭をフル回転させて前世の記憶と照らし合わせた。
チート能力を全開で突き進むのもいいが、まだその時ではない気がしている。
《せめて私がツキを守れるくらいの魔法を使えたらいいのに…》
レティシアはまだ魔法を自由に使えないでいた。
ルルと三人で畑の野菜の手入れをしていると遠くからヨロヨロと歩いてくるカイの姿が目に入った。
「お父さん?!」
ルルはすぐに駆け寄った。
「すまん…。急に魔物が出てきてな…。相撃ちになっちまった…。」
カイは何かに刺されたようで腹部から出血していた。
「お母さん!!どうしよう!!」
パニックになるルルの元にケリーが駆けつけた。
「とりあえず家まで運びましょう。」
ケリーは落ち着いて見えたが顔が真っ青だった。
カイはケリーとルルに抱えられ、家の中のベットに寝かされた。
服をめくると血が流れてきた。
「とりあえず押さえるよ!」
ケリーはきれいな布で傷を圧迫した。
レティシアは祈ることしかできなかった。
《神様でも悪魔でも魔王でもなんでもいいからカイを助けてください!!》
するとレティシアの両手が光り輝いた。
部屋の中が光で満たされキラキラと輝いた。
そしてカイの傷へと光が集まった。驚いたケリーは手を離してしまった。
押さえていた布がぽとりと床に落ちた。
「傷が!塞がっていく!!」
ルルは驚いて叫び、レティシアを見た。
レティシアは放心状態でそこに立っていた。
《今、私の中から何かが出てきた》
レティシアはそれが何かわからなかったが、カイの傷を治したという自覚があった。
「どうなってるんだ?」
さっきまで青白い顔をして唸っでいたカイが起き上がった。
ケリーはすぐにカイに抱きつき、「よかった!」と何度も言った。
「レティ!あなた、光属性の魔法が使えるのね!!」
ルルは思わずレティシアに抱きついた。
「そうみたい。」
レティシアはなんだか恥ずかしそうに、エヘヘと笑った。
魔導書で何度も見た光属性のページにはこう書かれていた。
『光属性は浄化や回復に特化した貴重な属性である』
攻撃魔法はそんなに得意ではないが、防御や回復ができる唯一の属性だった。
元の家に結界を張ってくれたのも光属性持ちの魔法師の成したものだった。
「私にはできないみたい。レティ、すごいね。」
ツキはどうやら光属性を持っていないようだった。
みんながレティシアを褒めて、そして喜んだ。
レティシアもやっと恩返しができそうでとても嬉しかった。
「でもどうやって発動したのかもわからないし、今やろうと思ってもできないや…。」
レティシアがそう言うと、みんなは一瞬静かになった。
「焦らなくていいよ!魔法が使えるってわかっただけでもすごい進歩だよ!」
ルルは大喜びだった。カイが元気になったことも嬉しかったが、何よりも信じていたことが現実になったことが嬉しかった。
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翌日、カイは相撃ちになった魔物を回収しに行くと言った。
ツキは見事な攻撃魔法を見せ、「一緒に行く」と言った。
もちろんレティシアもそう言ったがカイは「ツキだけ」と言って二人で行ってしまった。
結果は予想できていたが少し寂しかった。
そんなレティシアにルルは気を使って「何か魔法が使えないか試してみよう」と言ってくれた。
「浄化魔法が使えるとしたら、洗濯もできるってことよね。」
ルルは汚れた布をレティシアの前に出した。
「やってみる!」
レティシアは基本に忠実に魔力を感じるところからやってみた。
ほのかに温かく、たしかにそこに存在しているのがわかる。
《あの布を浄化したい》
具体的に集中して布をみつめた。
かすかにレティシアの手のひらからキラキラしたものが出てきた。
そして布に絡みついたかと思うと、どんどん汚れが落ちていった。
「レティ!!成功よ!!!」
真っ白になった布をひらひらさせてルルはピョンピョンと跳ねて喜んだ。
レティシアは白くなった布を受け取り、まじまじとみつめた。
「やった…。やっと。」
レティシアはポロポロと涙をこぼした。
今まで何をやってもうまくいかなかった。
諦めることなく、努力を続けてきた。それが今、報われたのだ。
ルルは涙を流すレティシアをぎゅっと抱きしめた。
「これからもっといろんな魔法に挑戦しようね。」
レティシアは無言で頷き、ルルの胸でしばらく泣いた。
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魔物の回収から帰ってきた二人の話をそっちのけで、ルルはレティシアの魔法の話をした。
二人とも驚き、喜んでくれた。
ケリーは二人が運んできた大きな魔物を華麗に解体した。
肉からは変な臭いがしたので食べるのはやめることにした。
毛皮は立派で見た目とちがって触り心地が良かった。
魔石と毛皮、大きな角を回収して残りはツキの火魔法で灰にしてもらい、「畑の肥料にする」とケリーは言った。
「二人が魔法で手伝ってくれてとても助かるわ!」
ケリーは二人の頭を順番に撫でてくれた。
二人は目を合わせて小さく頷き、ニコッと笑った。
二人がしたかったことがやっと実を結んだ瞬間だった。
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