第7話
「ここは多分この辺だろう。」
カイはボロボロになった地図を見せてくれた。
今いる場所からさらに進むと山脈地帯になる。
ここからでも大きな山々がそびえ立っているのがわかる。
山を越えたその先には町があるようだが、山を越えるのは険しい道のりで、山の麓をぐるっと回ろうものなら何日もかかるだろう。
この辺りに人がいないのはその立地の不便さにあるのだろう。
カイもケリーもこの土地には来たことがなかった。
家の所有者が戻ってくるかもしれないし、長居をするつもりはないとカイは言っていたが、あまりにも住んでいた家にそっくりだったものだからみんないつもの感じで過ごしてしまっていた。
雑木林はそこまで大きくないから狩りはできない。ここに棲む獣も魔物もいないからだ。
カイは山の麓の方まで行ってみると言って出かけて行った。
ケリーとルルは畑の手入れを始めた。
雑草を抜き、どこに何が植えてあるのかを把握した。
「見れば見るほど私たちの畑にそっくりね。」
ルルたちはここがどこなのかわからなくなる、今までの家なんじゃないかと錯覚してしまうと話していた。
レティシアは魔法の特訓を再開することにした。
ツキはそれを黙って見ている。
うーんと唸りながら光の玉を出しているレティシアを見て、ツキはため息をついた。
「ツキ、魔法ってねそんなに簡単なものじゃないのよ。」
レティシアは額の汗を拭きながらため息をつくツキに文句を言った。
「そうかな?」
ツキはレティシアの目の前に立つとレティシアがやっていたように手のひらの中に光の玉を作った。
そしてそれを人差し指で操った。
「光の玉で何がしたいの?」
ツキはたいくつそうにレティシアに聞いた。
レティシアは軽々とやってみせるツキを見て言葉を失っていた。
ツキは光の玉をそのまま空へ向かって飛ばした。
「ツキ、魔法が使えるの?」
レティシアは目をパチパチさせながらツキに問いかけた。
「これが魔法ってやつならそうね、使えるみたい。」
ツキがそう言うとレティシアは急いで家の中から魔導書を持ってきた。
ただならぬ様子のレティシアを見てルルは心配そうについてきた。
「レティ?どうしたの?そんなに慌てて。」
「ルル!あのね!ツキが光の玉をね、ビューンって、たぶんね、魔法師なの!」
ルルは興奮しているレティシアを見てからツキに目をやった。
「ツキ?どういうこと?」
ツキはちょっとめんどくさそうに「わかんない」と答えた。
「ツキ!さっきのやつやってみてよ!ルルにも見せてあげて!!」
レティシアがすごい勢いで言うのでツキはビクッとなった。
それからゆっくりさっきと同じように光の玉を作って空に打ち上げた。
「ツキ!本当だわ!すごいわ!お母さん来て!!」
ルルが叫ぶとケリーは慌ててやってきた。
そこにちょうど狩りから戻ったカイもやって来た。
そしてまたレティシアはツキに同じようにやるように言った。
ツキはめんどくさそうに「はい。」と光の玉を打ち上げた。
「いったいどういうことかしら?光属性って言うわけじゃないわよね?光の玉を操るって何かしら?魔力を操作してるってことなの??火や水は出せないわよね?」
ケリーは一気にまくし立て、首を傾げてツキを見た。
ツキは「ん?」とちょっと考えてから「はい。」と言って右手に炎を左手に水の玉を出した。
「えぇーー??」
三人はツキのその姿を見て驚いた。
魔導書には複数の属性の魔法を操るのは至難の業であると書いているからだった。
「まさか風魔法と土魔法は無理よね?さすがにね。」
ルルは冗談のようにツキをちらりと見て言った。
ツキは少し悩んで右手の人差し指を出し、地面に向かってくるくると回した。
すると地面は盛り上がり、小さな山ができた。
さらに大きくくるくると回すと積まれていた土が舞い上がり、小さな竜巻のようなものが出来上がった。
竜巻に向かって左手をかざすと、それは一気に燃え上がった。そしてすぐに左手を握りしめると小さな雨のようなものが炎と化した竜巻の上に降り注いだ。
三人はその光景をただみつめた。
何が目の前で起こっているのか、よくわからなくなっていた。
《アニメだとこういう子が主人公よね》
レティシアは転生したらチート能力持ちで魔王を討伐しちゃうストーリーを思い浮かべた。
そして自分はその主人公の横でトラブルを引き寄せるポンコツキャラなんだろうと変に納得した。
「ツキ、あなた…、何者なの…?」
ルルは少し怯えた表情をしていた。魔導書には複数の属性の魔法を扱える者はたまに存在するが、対角にある属性を両方使いこなすのは非常に難しいと書いていた。
火は水に弱く、風に強い。というふうに属性の中でも相性がある。
【火】 ──強→ 【風】
↑ │
強 強
│ ↓
【水】 ←強── 【土】
魔法を扱える者自体が少ないこともあるが、ツキがこの年齢で4属性の魔法を操れるのはこの世界の常識では考えられないことのようだ。
「もしかしたら大魔法師様の家系なのかもしれないな。」
カイはニヤニヤしながら嬉しそうにしている。
「最初から普通の子じゃないってお母さんはわかってたわ。」
ケリーもなぜかドヤ顔でうんうんと頷いていた。
ツキは何がすごいのかわからないという顔でみんなを見ていた。
レティシアはハッとしてツキに詰め寄った。
「ツキ!!私に魔法を教えて!!」
「教えるって言っても…、特に何かをしているわけじゃないんだよね。頭で考えたら出てくるっていうだけだもん。」
ツキは目を輝かせて詰め寄るレティシアを前に少し困惑していた。
「二人とも、魔力があるっていうことを他の人に悟られてはいけないよ。」
さっきまでニコニコしていたカイが真剣な顔をして二人の肩に手をポンと乗せた。
「はい。」
レティシアとツキは顔を見合わせて小さく頷いた。
「山の麓にはたくさん獲物がいたよ。ケリー、解体を手伝っておくれ。」
「今日はごちそうね!」
カイとケリーは『そういうこともある』という感じで受け止めたようだ。
ルルだけは違ったようで、まだツキを信じられないというような態度だった。
その日はカイが獲ってきた鶏肉に近い肉が食卓に並び、ツキの魔法のことなど気にしないという雰囲気で楽しい夕食になった─。
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「どうしてできないんだろうなぁ。」
ツキの魔法のことがわかってからの数日経ち、家の裏の木陰で魔法の特訓をしていたレティシアは疲れて芝生に横になった。
「どうして私はできるんだろう。」
ツキは水滴を人差し指で操りながらぼんやりとそう言った。
レティシアは急に起き上がり、ツキの目の前に行き、両手を取った。
「ねぇ、ココだけの話、ツキは転生してきたんでしょ?」
レティシアは真面目な顔でツキに詰め寄った。
「転生って何?」
ツキは本当にわからないという様子だった。
「えっと、前世の記憶を持ったまま生まれ変わる…みたいな。私が知っている話ならきっとそうなのよ。だって、できすぎだもの。」
レティシアがそう言うとがツキはピクッとした。
「そういう話なら、私はレティを助けるためにここに生まれてきたよ。」
ツキは何かを決心したような顔でそう答えた。
「私を助ける??前世の私を知っているの?」
眉間にシワを寄せて首を傾げるレティシアにツキはこう続けた。
「よくは知らない。でもそういう運命だって生まれたときにわかった。ずっと探していたんだよ。」
二人は手を取り合い、見つめ合ったまま沈黙した。
どういう事なのかレティシアには理解できなかった。
《よく知らない人なのに私を助ける運命?》
レティシアは自分がポンコツなのを思い出して、「考えてもわからないから、今ある事実を受け止めるね。」と言った。
努力ではどうにもならないことが世の中には多いという教訓から得た考え方である。
「うん。私もよくわからない…。でも本能でこうしたほうがいいってわかるんだ。」
二人は何も解決していないが、解決したような雰囲気を出して握手をした。
「とにかく、できることを頑張ってルルたちの役にたとう。」
「わかった。」
二人はよくわからないまま決意を新たにした。
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