第6話
隣国の攻撃に遭い、レティシアたちは家を奪われた。
小さいけれど住心地の良い家と丹精込めて育てていた畑の野菜たちは真っ黒な灰になってしまっただろう。
ルル親子は想定していたようで新しい生活に向けて意欲的に会話をしていた。
森を抜けるまで、まる一日かかったが追ってくるものはいなかった。
王族であるレティシアが存命なのを知らなかったのだろうと結論づけた。
「とりあえずでも屋根のある場所がないとねぇ。」
空を見上げると今にも雨が降ってきそうだった。
ケリーは料理がしたいと言ったが途中で雨にやられるだろうとカイに止められていた。
森を抜けた先は道があるわけでもなく、人が住んでいる形跡もない。
なだらかな坂になっていて丘の上に大きな木が見える。
これで天気がよかったらとても美しい風景なんだろう。しかし道がないので荷車で進むのはとても大変だった。
「住むところが必要なのね…。」
レティシアとツキは荷車から降りて後ろから押していた。ツキは難しい顔をしてブツブツとつぶやいている。
「そんな簡単に空き家があるような土地じゃないわよね。人がいないのはいいのだけれど…。」
ルルは何もない草原を見渡してため息をついた。
「雨が降る前にあの大きな木のところまで行こう。多少は濡れないだろうよ。」
カイはそう言って丘の上の大樹を指差した。
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「本当に大きな木だね!」
レティシアは珍しそうに木の周りをぐるぐると回った。
カイはさっそく火を起こし、ケリーは食事の準備を始めた。
「少し周りを見てくる。」
ツキはそう言うと「一人じゃ危ないよ!」とルルが言い終わる前にどこかに行ってしまった。
「ツキってすごく動きが速いよね。」
レティシアは高い柵を飛び越えるツキの姿を思い出した。
「魔物もいないし、人間もいない。何もないから遠くまでは行かないだろうさ。この木が目印になるし迷子にはならんよ。」
カイは焚き火に拾ってきた枝を入れながら笑っていた。
レティシアは前世の世界ならありえない話だなぁとしみじみ思った。
6歳の子供が知らない土地でいなくなったら普通の親ならパニックになるだろうと─。
「ツキ!!ご飯ができたわよ!」
ケリーは鍋をおたまで叩いた。
「ただいま。」と、すぐにツキは姿を現した。
「何かいいものあった?」
ルルはからかうようにツキに聞いた。
「うん、空き家をみつけたよ。ご飯食べたらみんなで見に行こう。」
ツキはスープをふうふうとすすりながらそう答えた。
「こんなところに空き家が?奇跡みたいだな!」
カイは喜んでスープを一気に飲み干した。
一同はさっそく荷物を片付け、ツキの言う空き家を見に行くことにした。
丘の上からは見えない。
「あの木のたくさん生えてるところだよ。」
ツキは少し離れたところにある雑木林のようなところを指差した。
今居る丘からは崖になっていて真っ直ぐには行けそうにない。
「こっちから回りこんで行けるよ。」
みんなはツキのあとをついて行った。
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近くまで来ると、みんなはなぜか懐かしい気持ちになった。
小さな家に畑もある。ヤギはいないが家畜を飼えそうな小さな小屋もあった。
そこはまるで昨日燃やされてしまったあの家にそっくりだった。
「手入れされてるわね。人が住んでいるんじゃない?」
ケリーがそう言うとツキはピクッとした。
「家の中を見てくる!」
ツキはそう言うとすごいスピードで家の中へと入って行った。
「誰かいたら危ないよ!」
ルルは走って追いかけた。
「わぁ、中は荒れてるね。やっぱり空き家で間違いないよ。」
ルルは中に入ってすぐにカイたちに向かって叫んだ。
家の中も住んでいた家にそっくりだったが、埃がかぶり、クモの巣だらけだった。
「住人は野菜の種を蒔いてから居なくなったのかな?」
カイは畑に実る野菜を1つもぎ取り、においをかいだ。そしておもむろにかぶりついた。
「うん、うちの野菜くらいうまいぞ!」
「野菜は後にしましょう。雨が降ってきたし、一度みんな家の中に入りましょう。」
スコールのような土砂降りになった。
この家がなければみんなずぶ濡れになっただろう。
「まずは掃除ね。」
ケリーは荷物の中から雑巾とバケツを取り出した。
外にバケツを置き、雨水を貯めることにした。
「井戸もあったから雨が止んだら水を汲みにいきましょうね。」
そうして土砂降りの中、一同は家の掃除を始めた。
「この家、見れば見るほどあの森の家にそっくりだね。」
ルルが不思議そうに各部屋を見回ってそういった。
「もしかしたら建てた人が同じなのかもな。設計図を使いまわしたのだろうよ。」
「あぁ、なるほどね!」
ルルは妙に納得したようで掃除に戻った。
レティシアは同じ形の家が並ぶ建売住宅を思い出していた。
「家具もそのままだし、とりあえずは住めそうだな。」
見たところ食料以外の必要なものは残されているようだった。
「住んでいた人は何も持たないで出ていったのかな?」
ルルはタンスの中に衣類があるのを見て首を傾げた。
「お父さんのセーターにそっくりだわ。」
「セーターなんてどれもそんなもんでしょ。」
ケリーは気にも止めずに家の中の片付けている。
「まぁそうか。」
ルルはベットの数を数え、「レティとツキは一緒のベットでいい?」と聞いた。
二人は「うん!」「いいよ!」とにこやかに返事をした。そしてベットに飛び乗った。
埃が舞い上がり、二人はケリーに怒られた。
「掃除しないとね。」「しないとね。」二人は目を合わせてクスクスと笑っていた。
窓から日が差し込んでいた。
「雨が上がったな。」
カイは家中の窓を開けるように言った。
外は雨上がりのにおいがした。
少し涼しくて、大地が水分を吸収したような土と草のいいにおいがする。
畑の野菜たちは日差しを浴びて水滴がキラキラと光っていた。
ケリーは外に物干し竿をみつけ、丁寧に雑巾で拭き取った。
「布団を干すわよ!」
みんなは順番に布団を運んできては叩いて埃を落とした。
「清潔とまではいかないけれど十分使えそうね。」
ケリーはうんうんと頷いていた。
掃除をした空き家の中はまるで昨日まで住んでいたあの家のようだった。
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「こんな奇跡みたいなことあるのね。」
ルルは夕食のチキンを頬張りながら満足そうにそう言った。
「もしかしたらここの住人が戻ってくるかもしれないし、いつでも出られるように準備だけはしておこう。」
家の中がきれいになると、空き家だったのが不思議になり、それと同時にみんなはなんだか不安になった。
竈や暖炉用の薪も積まれている。
食料さえ確保したらこのままここで暮らせるだろう。畑には食べごろの野菜もたくさんある。
「何かの罠じゃないかしら。」
レティシアは前世の記憶にあるいろんな物語を思い出した。
「そうね、しばらくは油断しないで過ごしましょう。」
カイとケリーは隠密として暮らしていた。そういうのには慣れているのだろう。
寝る前には戸締まりをしっかりしていた。
ガッチリした鍵がついているのも前の家にそっくりだった。
「扉や窓を壊さないと中には入ってこれないよ。」
カイは子供たちを安心させるように扉を叩いてみせた。
長い移動で疲れていたみんなは早めに休むことにした。
みんな昨日はほとんど眠れていない。
「おやすみなさい。」
レティシアはツキの手を引いてベットに向かった。
二人は仲良く布団に入った。
「寝相が悪くて蹴ったりしちゃうかも?先にごめんねしておくね。」
レティシアは苦笑いをしながらツキにそう言った。
「私なら大丈夫。おやすみなさい、レティ。」
レティシアは突然現れた不思議な少女ツキのことを怪しむこともなく受け入れている自分に驚いていた。
それはルルたちも同じだった。
今までどこでどうやって生きてきて、なぜ自分たちに警告をしてくれたのか、聞きたいことは山ほどあったが誰も聞かなかった。
ただなんとなく、この不思議な少女は自分たちを必要としている。と、強く感じていた。
静かな夜だった。
何かに守られているような、そんな感じさえもした─。
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