第10話
トンネル工事を初めて半日、すでに穴自体は開通している。
レティシアは前世で観たアニメを思い出していた。
《チート能力で異世界開拓!みたいなタイトルをつけたらいいわね》
魔法はすごいものだから、大抵のことが起こってもそんなに驚かないルル親子。
二人はレティシアの案通りにトンネルの入口付近を木材で補強し始めた。
「ツルハシと一緒にノコギリも持ってきてよかったな!」
カイは楽しそうに木材を加工して組み立てていった。
「中はどんな感じなんだろう?真っ暗で何も見えないね。」
遠くに向こうに開いた出口がぼんやりと光って見える。
ルルはレティシアを抱いて城から逃げたあの日のことを思い出していた。そしてハンナのことも思い出して少し切なくなった。
あれからハンナの噂を聞いていない。隣国まで行って調べることは不可能ではなかった。しかし幼いレティシアを置いて行くことも、連れて一緒に行くことも考えられなかった。
カイは入口を作り終え、太めの枝の先に布を巻きつけた。
「ツキ、この先っちょに火をつけてくれるか。」
カイが1番ツキと一緒に行動している。ツキの魔法について1番知っているのはカイだった。
ツキは嬉しそうにカイの注文をこなしていく。
ツキは父親を知らないと言っていた。きっとカイが父親みたいで褒められたりするのが嬉しいのだろう。
「よし、みんなで探検だ!」
「おー!!」
カイはたいまつを手にトンネルの中に入って行った。
ツキの魔法の形なのかトンネルの中は円の筒状になっているようだった。
大きさは横に二人並んで歩けるくらいで、大きなカイでも頭をぶつけずに歩けるくらいだった。
荷車が通りやすいようにもう少し地面を整備したほうがいいねと話しているとルルが叫んだ。
「お父さん!!これ見て!!」
ルルが指をさしたところの岩の色が黒っぽくなっていた。
「これは…鉄か?!」
カイも興奮していた。
この世界でも鉄はメジャーな金属の一つだった。
加工するには技術や道具が必要だったが、その道の人のところに持っていけばある程度のお金になる。
カイは少し悩んで、「向こう側の出口を隠してくる」と言って走っていってしまった。
たいまつがなくなって暗くなってしまった。
「ここで光魔法の出番ですね!」
レティシアは光の玉を出して浮き上がらせた。
トンネルの中はキラキラと輝いた。
「レティ、上手になったね!」
「えへへ」
レティシアは日々の鍛錬で魔力操作が上達していた。
「この鉄を掘りたいね。」
ルルは黒い塊をペチペチと叩きながら首を傾げた。そしてカイの持ってきたツルハシで叩いてみた。
大きな塊がゴロッと落ちた。
「鉄なら私にも採れそうだわ!」
ルルは大喜びでツルハシを振り回した。
レティシアとツキは転がってきた鉄の塊を拾い集め、カバンに詰め込んだ。
ほどなくしてカイが戻ってきた。
「このトンネルのことはしばらく俺たちだけの秘密にしておこう。町の連中に知られたら金の亡者たちがやって来て争いになりかねん。」
3人は「わかった」と言って頷いた。
4人はしばらく鉄の採掘に夢中になった。
ツキも魔法で鉄を取り出すのを手伝った。
ルルが「ちょっと疲れたね。」と言って、みんなは外が真っ暗なのに気がついた。
「お母さんが心配しちゃうね!!」
「急いで帰ろう!」
4人はまた明日来ることにして道具をそのままにして帰った。
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「迎えに行こうか悩んでいたところよ!」
ケリーはプンプンだったが鉄を見るとすぐに許してくれた。
「すごいわね!こんな塊見たことないわ!」
ケリーは「新しい鍋もほしいわ」と、ウキウキしていた。
「町に行けたらそれを売っていろいろ買おう。」
夕食では何がほしいかという話題で盛り上がった。
ツキは「欲しいなら出してあげるのに」と思ったが言わなかった。
レティシアからその力はあまり使わないほうがいいと言われていた。
「早く町に行ってみたいな。」
レティシアはパンやクッキーを思い浮かべてよだれを垂らした。
ルルはそれを拭きながら「美味しいものを想像したんでしょ」と言ってクスクス笑った。
その日はみんな疲れていて、ぐっすりと眠れた。
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翌日、ケリーは野営でもするかのような用意をしていた。
「今日は私も行って、近くで料理をするわ!」
昨日の疲れも吹き飛んだようで、みんな元気だった。
レティシアはこっそりカイとルルに回復魔法をかけていた。かけていなかったらきっと二人ともひどい筋肉痛になっていただろう。
ツキはそれに気がついているようでレティシアと目を合わせてクスッと笑った。「ひみつね」と小声で言うとツキは小さく頷いた。
5人の足取りは軽く、まるでピクニックにでも行くようだった。
ツキのおかげで荷物はすべてカバンに入り、重さも感じない。不思議なことに大きな丸太や岩まで吸い込まれるようにカバンの中に収納された。
取り出すときも、欲しいものを思い浮かべるとそれをつかむことができた。
レティシアにはどういう仕組みなのか全くわからなかった。ルルは「そういうものよ」と言うだけだったので、レティシアも「そういうもの」として受け入れた。
ケリーも「私のもお願い」と、ツキにこっそり頼んでいた。これでみんな荷物の持ち運びの心配がなくなった。
アイテムボックスはとても高価な魔導具で持っているのは金持ちの貴族や商人くらいだった。
どうやら魔導具として加工するのがとても難しいらしい。
空間を作り出すわけだからそれにも納得してしまう。
カイは「安易にカバンの秘密をバラさないこと」とみんなに釘を刺した。
みんなはあっという間にトンネルの入口に到着した。
レティシアはすぐにトンネルの中に光の玉を出した。「きれいね」と、ケリーはレティシアの頭を撫でた。
レティシアは役に立っている感じがしてとても嬉しかった。
カイはすぐに「向こう側の様子を見てくる」と言ってたいまつを片手に奥へと走っていった。
ルルは「掘るぞー!」と楽しそうに鉄の鉱脈まで出かけて行った。
レティシアとツキは違う場所を探検することにした。
「色の違う石があるね。」
ツキがそれをみつけると「銅みたいな色だね」とレティシアが言った。
「銅って金属?」
「そうだよ。5円玉とか銅でできていたでしょ?」
レティシアはなんの気なしに前世での話をした。
「あ、あれね。」
ツキはそう言って銅の塊を掘り出した。レティシアはなぜかその言い方に違和感を感じた。
《ツキの前世はもしかしたら小さな子供で終わったのかもしれない》
前世での話をすると、わかっているようでわかっていないことが少なくなかった。
勉強が得意ではなかったのだろうと思ったが、そもそも勉強していないのかもしれないと気がついてしまったのだ。
あまり触れてはいけない気がしたレティシアは前世での話をあまりしないほうがいいと思った。
カイはニコニコで戻ってきた。
「向こう側に人間の形跡はまったくなかったよ。あっち側の人も山の方へはあまり来ないらしいな。まぁ、出口は崖の途中みたいなところだしな。」
どうやらこちら側と向こうでは標高が違うようだった。
入口が元々、高い場所にあるらしい。
「カイ!これ見て!」
レティシアはドヤ顔でカイに銅の塊を見せた。
「あぁ、それもあったのか。それは柔らかいからあまり高くは売れないな。他の金属と混ぜないと使い物にならんらしい。」
レティシアは少しがっかりした。この世界では強度のある金属が価値がありそうだった。
「ツキ!次を探すよ!」
レティシアは鼻息を荒くしてツキの手を引っ張って行った。
「あまり遠くまで行かないでよ!お母さんが外でご飯の支度してたから!」
ルルは汗を流しながら鉄を掘っていた。とても楽しそうだった。
「はーい!」
二人はいい返事をしてトンネルを進んだ。
「ダイヤモンドとかあればいいのに。」
レティシアはブツブツとつぶやきながら歩いていた。
某ゲームを思い出していたのである。
「アレはもっと地下深く掘らないとだめか…。」
ブツブツ言うレティシアを見てツキは首を傾げていた。
「下に掘ればいいの?」
ツキがそう言うとレティシアはビクッとした。
「ごめん!独り言!!地下なんて掘ってマグマでも出てきたら大変!」
「マグマ?」
「すんごく熱くてぶくぶく燃えている何かのことだよ。」
レティシアもマグマが何でできているのか知らなかった。
「ふーん。」
ツキは興味なさそうに返事をした。
「道沿いには何もないね。」
二人は岩の壁を観察するのに飽きてきていた。
「ご飯を食べようー!」
ルルの声が聞こえてきて二人は「はーい!」とすぐに入口の方へと戻った。
外に出るとケリーが具だくさんのスープを作ってくれていた。
ルルはどれだけの鉄を採掘したかと自慢をしていた。
「レティたちは何かみつけた?」
「うん、銅をみつけたけど価値はあまりないって。」
「そっか。他にも何かみつかるといいね。」
当初の町へ行くためにトンネルを掘るという目的をみんな忘れていた。
それくらい採掘は楽しいものだった。
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