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第76話

レティシアが目を開けるとそこには広い空間があった。

ゴツゴツとした岩肌の感触がある。

暗くて何もない空間だった。


レティシアはカバンの中を確かめた。

ツキのペンダントも金のブローチも確かに入っている。

さっきのはなんだったのだろうか?レティシアは夢でも見ていたのかと思った。

《今はツキを探さないと》


レティシアは暗い空間を進んだ。向こう側に何かが見えるからだ。

近づくとそれがまた扉だと気がついた。

レティシアは迷うことなくそれを開けた。


その先にはツキがいた。

檻のようなものに閉じ込められ、倒れていた。

「ツキ!!?」

レティシアは叫びそこへ駆け寄った。


ツキは手錠をされていた。きっと魔法が使えなくなる魔導具だろう。

檻には出入りできるような扉がついていない。

ツキを入れから鉄格子で囲ったとしか思えない。


ツキはいくら呼んでも返事がなかった。

ケンはパタパタと飛びながらツキの手錠を外そうと試みた。

しかしうまくいかないようだった。

「ちょっと行ってくる!」

ケンはそう言って鉄格子の中へとするりと入った。

「ギャッ」という短い鳴き声のあと、ケンはその場にボタリと落ちた。

「ケン?!」

ケンは呼んでもピクリともしなかった。


レティシアは鉄格子の間に手を入れてケンを引き戻そうとした。

しかし見えない壁があるようで少しも中に入れることができなかった。

「なにこれ…」


レティシアは目の前に倒れているツキとケンを眺めることしかできなかった。

中をよく見るともう一人倒れているのがわかった。

それはどうやら男性で、ボロボロの姿の大人で、年齢まではわからない。

その人も全く動かずにそこに倒れていた。


この場所には入ってきた扉とこの檻しかない。

岩を削って作ったような空間で他に人もいない。

レティシアはぐるっと部屋の中を歩いたが特に何かがあるわけでもなかった。


やるべきことがあるのに、やり方がわからない。

助けてくれる人なんていない。

自分ががんばらないといけなくて、わかっているのにうまくできない。


レティシアの中でまた考えてもいなかった感情が溢れてきた。

困難なことばかりなのに誰も助けてくれない。

どうして自分ばかりこんなつらい目にあわないといけないんだろう。


レティシアはその場に崩れ落ちた。

自分はなんのために存在してるのだろうか。

答えの出ない質問が頭の中を支配するようだった。

そして逃げ出したくなって、消えてしまいたくなった。


────


どのくらいの時間がたったのだろう。

レティシアはそこで眠ってしまっていたことに気がついた。

やらないといけないことが明らかに目の前にあるのに、どうしていいのかわからなくて考えるのをやめてしまった。


ただ目の前にある光景を眺めることしかできなかった。

ツキもケンもその後ろで倒れてる謎の男もピクリとも動かない。

みんな死んでしまったのかもしれないとレティシアは思った。


できないことから逃げる。そして誰かにどうにかしてもらう。そんな人生だったように思う。

いつも誰かが助けてくれていた。

それは前世もこの世界に来てからも同じだった。


一人では何もできない。

どうしようもなく弱く、どうしようもなく無意味な存在だ。


涙も出なかった。

こんな状況の今でさえ、ツキが動き出してなんとかしてくれるのではないかと期待している。


どうしようもない他力本願のポンコツ野郎だ。


わかっているのに何もしない。

いや、できない。

そうやって諦めて、言い訳をして、自分は悪くないと正当化でもするようにもっともらしい言葉を並べ立てる。


レティシアのカバンから黒いモヤモヤが出てきた。

レティシアはびっくりしてカバンの中を見た。


モヤモヤはペンダントから流れ出てくるようだった。

この中の存在が膨れ上がったら出てきてしまうとアルフォーレが言っていた気がする。


レティシアは自分の頬を叩いた。

何度も何度も叩いた。

これは自分の負の感情をこのペンダントに注いでいるのだと気がついた。

せっかくツキが捕まえてくれたのに、自分が逃がすようなことをしていいわけがない。


ツキを守るって決めたのに。


レティシアはまだ何になりたいのかわからない。

しかしやりたいことは決まっていた。


ツキを守るんだ。


レティシアは立ち上がった。

そして黒いモヤモヤを出すペンダントを握りしめた。

モヤモヤは止まり、中の黒い渦は小さくなったように見える。

黒い渦はまるで反抗しているかのようにバチバチと中で暴れている。


「お前なんかいらない」


レティシアの頭の中に直接誰かが話しかける。


「早く消えてしまえ」


レティシアはその言葉に負けそうになった。

消えた方が楽だと思う。

できないことをどうにかしようと努力するのはとても大変なことだ。


レティシアは負けそうな気持ちを奮い立たせた。

頭を横に振り、ペンダントを握る手に力を込めた。


「負けない!!私はツキを守るんだ!!」


ペンダントは光を帯びた。そしてレティシアに握りつぶされて粉々になった。黒い渦はシュッといって消えてしまった。


そのままレティシアはツキのいる檻の前に来た。

両手を見えない壁に当てる。

「ツキを返せ!!ここを開けろ!!!」


見えない壁はガラスが割れるかのようにバキバキといって崩れ落ちるようだった。

さっきまで掴むこともできなかった檻の金属でできた棒を握る。それも光ったかと思うとシュッと消えてしまった。


レティシアは優しくケンを拾い上げた。

ケンは声を出せないようだったが目をパチパチさせてレティシアを見ていた。

レティシアはケンをそっとカバンの中に入れた。


ツキは倒れたまま動かない。

レティシアはツキを起こそうと地面に膝をつけた。

「何だお前は!!そこで何をしてる?」

後ろから男の声が響いた。


レティシアはその男をギロリと睨んだ。

白髪混じりの初老の男だった。片手に長い杖を持っている。

「お前も魔族か?」

男もレティシアを睨みつけた。


「だったらどうだって言うの?」

レティシアは無表情のまま男に向かってそう言った。

男はすぐに杖の先をレティシアに向けた。

何かを詠唱しているようだった。

レティシアはそれをただ見ていた。

男の杖から何か光るものが飛んできた。


レティシアはそれを右手で受け止めると握りつぶして光を消した。

男は「光属性が効かないのか?」と驚き、恐怖の表情をうかべた。


「それが光属性の魔法だって言うの?」

レティシアは男を見下すように見て鼻で笑った。

そして両手を合わせて目を閉じた。

レティシアの手には大きな光の玉ができていた。


レティシアはそれを男に向かって放とうとした。

男は恐怖で身動きが取れずにいた。


その時、レティシアは足首を誰かに掴まれた。

目線だけを足元にやるとさっきまで動きもしなかったツキがレティシアの足首まで手を伸ばしていたのだ。

「レティ…。ダメだよ…。」

ツキは消えそうな声を振り絞ってそう言ってニコッと笑った。そして次の瞬間またバタリと倒れて動かなくなった。


レティシアの両手からは光の玉が消えていた。

男は「ごめんなさい。もうしません。許して下さい。」を繰り返していた。


レティシアは深呼吸をした。

今の自分は自分ではない気がしたのだ。

あのペンダントの黒い渦が自分の中に入ってしまったのではないかと思った。


レティシアは浄化の魔法を自分にかけた。

それが男にも効果があったのか、男は変な呻き声をあげたかと思ったらその場に倒れた。


レティシアは自分の体が軽くなった感覚があった。

「ツキ?!」

レティシアはすぐにツキに回復魔法をかけた。

ツキはゆっくりと目を開けた。


「レティ…。」

「大丈夫?すぐに家に帰ろう。」

レティシアは檻の中からツキを引っ張り出した。

そしてケンを大きくしてぐったりとしているツキを背負ってもらった。


檻の中から低い苦しそうな声がした。

レティシアはその存在をすっかり忘れていた。すぐに彼の元に行くとボロボロの体を起こそうとしていた。

レティシアはすぐにその人に回復魔法をかけた。

「あり…がと…う…」

ボソボソの声でそれだけを言って、その人は笑顔を見せようとしていたがうまくいかないようだった。


「あの、私たち行かないと。あなたもさっきの男に捕まったの?」

レティシアが聞くと男は首を傾げた。

檻の外に視線をやるとさっきまでいた初老の男は消えていた。いつの間にか逃げてしまったようだった。

レティシアは少し悩み、この男も連れて帰ることにした。


────


ケンに手伝ってもらい、なんとか出口へと続く階段まで来た。

ボロボロの男は回復魔法で元気になったが、筋肉が衰えているようでヨロヨロとしていた。

レティシアはそんな彼を支えて階段を上がった。


外はすっかり明るくなっていた。

男はその眩しさにめまいを起こしたようですぐに座り込んでしまった。

ツキは魔力が空っぽになっているようで動くのもしんどそうだった。


「レティ、ペンダントに息を吹きかけろ!」

ケンは太い声でレティシアに向かってそう言った。

レティシアはおそるおそるペンダントの石に息を吹き入れた。

プーーという音が鳴り響き、ケンはさらに大きくなった。


ケンはドヤ顔でレティシアを見た。

レティシアは「ありがとう」と言ってツキの隣にヨロヨロの男を乗せ、二人を掴むようにして時分も乗り込んだ。


ケンは三人を乗せて空へと舞い上がった。

そしてすごいスピードで北に向かった。


────


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