第77話
ケンは空を飛んでいる。
いつもより大きくなったケンは背中に3人の人間を乗せていた。
いつもよりスピードが速いのは翼も大きくなったからだろう。
数時間でケンはピーツの町の外れにあるレティシアたちの家の横にゆっくりと降りた。
レティシアはすぐに二人をケンから降ろした。
そしてケンを小さくするためにペンダントの石を吸った。
1度目でいつもの大きくなったときのサイズに戻った。レティシアは2度目も同じように吸った。
ぴょろろというへんてこな音が聞こえ、ケンはいつものサイズに戻った。
まずツキをベッドまで運び、寝かせた。
そして連れてきた男もケンの魔法に手伝ってもらって家の中に入ってもらった。
男は壁にもたれて座った。
レティシアはすぐに水とパンを男に与えた。
男はそれを夢中で食べた。
髭モジャの顔でレティシアをみつめると「ありがとう」と、か細い声で言った。
レティシアはそこにもふもふのラグをひいて男に横になるように言った。
毛布を渡すと男はすぐに眠ってしまった。
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それから2日ほど、ツキも男も起きなかった。
レティシアは不安になったが二人ともしっかり呼吸をしていたのでそのまま起きるのを待った。
先にツキが目を覚ました。
「あれ?ただいま?」
ツキはまるで寝ぼけているかのようにレティシアを見てそう言った。
「おかえり!」
レティシアはすぐにツキに抱きついて喜んだ。
ツキはわけがわからないという顔をしていたが、レティシアが嬉しそうなので自分も嬉しくなった。
「ツキはね、変な男に誘拐されて檻に閉じ込められてたんだよ。」
レティシアが説明するとツキはほとんど何も覚えていなかった。
どうやら宿で眠ったまま連れて行かれ、そのまま檻の中で気を失っていたというのだ。
二人が話をしているとラグの上で寝ていた男が起き上がった。
「ここは…いったい…。」
男も混乱しているようだった。
「えっと…。私はレティでこっちはツキです。あなたはダークンという国にある農園にあった地下室の檻の中で倒れていました。何か記憶はありますか?」
「ダークン?…それは…サツロの南にある国のことかな?」
「そうです。そこに住んでいた人ですか?」
レティシアはつい連れて帰ってきてしまったが、他の国の人ならあとで送っていこうと思っていた。
「いや、私はピーツ国の魔法師です。任務でサツロ国との国境あたりに討伐に行って…。魔物を倒したはず…」
「ピーツですか?!」
レティシアは驚いた。そして何かが繋がったような気がした。
「もしかしてハンナという女の人を知っていますか?」
男はパッと明るい顔になり、「ハンナは妻です!」と言った。
「ハンナを連れてくる。」
ツキもすぐにわかったようで家を飛び出していった。
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「私の名前はフウリと言います。」
フウリは自分の頭や髭を触って驚いていた。
気を失ってからの記憶は何もないと言った。
男に連れ去られたという記憶もなかった。
家のドアがすごい勢いで開き、すごい形相のハンナがそこにいた。
「フウリ?」
ハンナはボロボロのフウリを見て固まってしまっていた。
「ハンナ?君なのか?!」
フウリは立ち上がり、フラフラとハンナの元に行き、抱きしめた。
ハンナはそのまま子供のように声を上げて泣いた。
フウリはそんなハンナを優しく受け止めた。
「どこに…いってたの…よ…」
ハンナは泣きながらフウリの胸を叩いた。
フウリは「ごめんよ、俺にもわからん」と言って苦笑いをしていた。
「お母さん?」
心配そうな顔のユウリが入ってきた。
レティシアが戻ったのを城で聞いてすぐに駆けつけたのだった。
「ユウリ…。お父さんよ…。」
ハンナは泣きながら笑顔を見せてそう言った。
ユウリは驚き、信じられないという顔のまま固まった。
「みんなびっくりだよね。わかっていることだけでもみんなで話をまとめよう。」
レティシアはみんなに椅子に座ってと言った。
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ハンナはフウリが消えたときの話をした。その時は妊婦でユウリはまだ生まれていなかったこと。
そのユウリが今は立派な15歳になったこと。
フウリはユウリをみつめて「母さんにそっくりだな」と嬉しそうに笑った。
フウリとツキの話を合わせると、あの檻の中ではお腹も好かないし、まるで時間が止まっているような空間ができていたようだった。
レティシアは自分が入れられた真っ暗で狭い空間のことを思い出した。
「檻の中に15年以上も居たというのか…。」
フウリは絶望していた。
「どうして殺されもせずにそんなに長く檻に入れられていたのかしら。」
ハンナは嬉しいのか悲しいのかわからない顔で少し混乱しているようにも見えた。
「ツキを檻に入れたあの人なんだけど…、お祭りの時に香辛料を売ってた人なんじゃないかなって。ちゃんと覚えてないから違うかもしれないけど。」
レティシアは「うーん」と思い出そうとしていたが、あの檻の前での出来事がちゃんと思い出せなかった。
「もしそうなら、魔族狩りをしてたのかも。」
ツキがそう言うとフウリはビクッと反応した。
「実は…、私の父親がどうやら魔族で…。」
フウリの話し始めたその事実はハンナも知らないようだった。
フウリの父親は人間の中に紛れ込み、人間として生活していた。
悪いこともせず、自分が魔族であるということも忘れるくらいだったそうだ。
しかしそのおかげなのかフウリには魔法の才能があった。
その魔力は飛び抜けていて、当時魔族ではないかと怪しまれたとしてもおかしくはないかもしれないと話してくれた。
ツキは悪い魔族ばかりではないという話を聞いて少し嬉しそうだった。
「もしかしたら今でも魔族の人たちが人間に紛れ込んでいるかもしれないわね。だからってそれが全部悪って言うわけじゃなくて…。人間にだって悪い人はたくさんいるもの。何もしてない魔族を排除しようとするのは間違ってるわよね!」
ハンナはテーブルをバンと叩いた。
フウリは申し訳なさそうにしていたがハンナの話を聞いて嬉しそうにした。ハンナと手を取り合い見つめあっていた。
ユウリはそんな二人に優しい眼差しを向けていた。
「奇跡みたいだよ。レティとツキは私たち家族をみつけだして会わせてくれたんだもの。」
ユウリはレティシアたちに頭を下げた。
レティシアはびっくりして「たまたまだよ」とユウリに頭を上げるように言った。
ユウリは泣きそうな顔でニコッと笑った。
レティシアはその眩しい笑顔を直視できず少し下を向いた。その時にカバンが目に入り、ツキのペンダントのことを思い出した。
「ツキ…ごめん。これ、拾ったんだけどね、なんか見てたら腹が立って…。壊しちゃったんだよね。」
レティシアは革紐だけになったペンダントをツキに渡した。
ツキは興味深そうにその紐を見た。
「レティがやっつけてくれたんだね。すごいよ!」
ツキは喜んでレティシアに抱きついた。
「やっつけたかはわからないけど、中の黒いやつは逃げてない。握り潰して消えたと思う。」
レティシアは苦笑いをしてみんなを見た。みんなは誇らしそうにレティシアを見ていた。
「さてと、フウリは髭を剃らないとね!服も用意しないと。ユウリも手伝ってくれるかしら?」
フウリとユウリは嬉しそうに頷いた。
きれいにしてからレオハルトのところへ行くと言ってハンナたちは帰って行った。
残されたレティシアとツキはあの店で買った香辛料で料理をすることにした。
「フウリも香辛料のにおいとかで捕まったのかな?」
「まさか、猫じゃないんだから。」
二人は顔を合わせて大声で笑った。
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その後、レティシアがおかしくなることはなかった。レティシアはあの負の感情の渦に飲み込まれることを恐れてはいたが、なんとか耐えている。
まだまだ完璧ではないがレティシアは強くなろうとしていた。
消えたいだなんて、そんな悲しいことを考えるのは最悪だ。
レティシアとツキはユウリと共に城で働くことにした。
ツキは剣士になりたいと言ったがレオハルトに止められた。魔法を剣に込めるツキの練習相手になれる者がいなかったからである。
ツキは魔法師として、レティシアは宮廷魔法師見習いとしてノンノンと一緒に医務室勤務になった。
レティシアが笑顔でいると、まわりのみんなも笑顔になった。
レティシアは幸せだった。
できないことをできないと悔いてばかりではなく、できることを一生懸命頑張ればまわりが認めてくれるとわかったからだ。
この先、まだまだ苦難が訪れるだろう。
だけど一人では何もできないということを忘れず、人を信じて助けてもらう。そして自分ができるときには助ける。
そういう支え合いを大事にしたいとレティシアは思っている。
ツキの暴走を止めるのはレティシアにしかできない。
些細なことで自信を持てる。それは大事なことだった。
自分を自分が愛せないと、他の人も愛せない。
レティシアはそう思った。
レティシアは今日もポンコツだった。
だけどそんなことでは落ち込まない。
ポンコツな自分を理解して、うまくつきあうことこそが人生の醍醐味だと思うことにした。
次は恋の話でもできるだろうか──。
──── 終 ────




