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第74話

二人は香辛料を求めサツロ国の南にあるダークン国にまでやって来ていた。

香辛料は怪しい店で売っていて、一騒動あったが無事に買うことができた。

近くの店で食事をした二人は宿を探すことにした。


どうやらこの町には一軒の宿しかない。

受付の人もかなり無愛想で感じが悪い。

レティシアはメルラの宿を懐かしく思った。


なんとか部屋を取れた二人はベッドに横になった。

ツキはマタタビが気に入ったようでにおいを嗅いでは「うふふ」と言っていてとても気持ちが悪い。

レティシアはなんだか疲れていてすぐに眠ってしまった。


────


レティシアは腕の痛みを感じて目を覚ました。

目を開けたはずなのに目の前が真っ暗だった。

痛みを感じた腕は動かない。足も動かない。

まるで身動きがとれなかった。

ツキを呼ぼうとしたが声も出せなかった。

ケンの声も聞こえない。

レティシアは一体何が起こっているのか全くわからなかった。


しばらくもがいてみたが自由になれる感じはしなかった。椅子に座らされてることだけはわかったので、レティシアは思い切り体を揺らして転んでみることにした。

ガタンッバタンッと音が鳴り響き、レティシアは椅子ごと倒れた。

椅子が壊れたらいいなと思ったが失敗したようだった。

しかし顔に被せられていたと思われる麻の袋がずれてまわりが少し見えた。

小さな鉄格子のついた檻のような鳥かごに入れられたケンが見えた。

レティシアをみつけたのかピーピーと力無い鳴き声を出している。

ツキの姿は見当たらなかった。


どうやらどこかの物置のような場所にいるとレティシアは思った。

何者かに捕らえられてしまったのだろう。

魔法が使えない感じがあるのは魔導具をつけられているからだろう。

ケンが入れられている檻のようなものもきっとその手の魔導具だ。


レティシアはびっくりするほど冷静に状況判断をしていた。

椅子に座ったまま倒れた格好でレティシアは室内を見回した。

どこにもツキの姿がない。

どこか別の場所にいるのか、レティシアだけ誘拐されたのかのどちらかだろう。


思い起こせば昨日の食後、宿に入るとすごい眠気で気を失ったような感覚があった。

もしかしたら食事に何か入れられていたのかもしれない。

ドアの向こうにも人の気配がない。

椅子の倒れた音にも無反応だった。


レティシアは逃げるなら今だと思い、なんとかしようと考えた。

縛られたままもがいてみたがロープが外れそうな感じはしなかった。


「レティ…ペンダント…吸え…」

ケンが消え入りそうな声でずっとその単語を繰り返していた。

首に下げているケンを巨大化させるためのペンダントのことだろう。

倒れた衝撃で服の中から出てきて、今は顔の横で床に転がっている。


レティシアはなんとか石の部分に口を持っていこうと頑張った。

なかなかうまくいかずに何度もチャレンジした。

その結果すごい角度でペンダントの上に顔を乗せることができた。

首が変な角度で痙りそうな感覚があった。

レティシアは諦めずなんとか石に口をつけることができた。

《吸うのよね?》

巨大化させるときには石の穴に息を吹き込む。

普通の状態のときに吸うという行為をしたことがない。


レティシアは一瞬悩んで、ケンの言うとおりにしてみることにした。

ぴょろろというへんてこな音が静かな室内に響いた。


ケンの方を見ると檻の中にケンの姿がなくなっていた。

拘束されていた体が一気に解放された。


「レティ!やったぞ!俺様はえらい!」

いつもより甲高いピーピーした声が聞こえた。

起き上がったレティシアの目の前にハチくらいのサイズのケンがいた。

「かわいい。」

レティシアはそう言ってケンを摘み笑った。

「やめろ!許さん!」

ケンはいつもの調子でピーピー文句を言っている。


レティシアはペンダントを掴み、息を吹きかけた。

プーーっという気の抜けた音が鳴る。

ケンはいつもの大きさに戻った。

「こんなこともできたのね。」

レティシアは感心してペンダントを眺め、また服の中に隠した。


ケンが外してくれた魔法が使えなくなる魔導具とケンの入っていた檻をカバンにしまった。

改めて室内を見回した。

農具が入っていて埃っぽい。人が頻繁に出入りしていたらここまで埃っぽくないだろう。

普段は人が訪れない場所のようだ。


窓はなく、ドアが1つあるだけだった。

ドアは案の定鍵がかかっている。押したり引いたりしてみたが開く気配はない。

「俺様に任せろ!」

ケンは魔法で鍵を開けてくれた。

「ありがとう!」

レティシアはケンを掴み撫でた。そして肩に乗せた。


────


ドアを開けるとギギギと錆びついた音がした。

外は真っ暗で夜なのがわかった。

まわりには灯りがない。人が住んでいる家は見当たらない。荒れた土地が広がっていた。

生えている植物の感じから元農作地のように思える。

目が暗闇に慣れてきて少し遠くが見えた。

廃屋と思われるボロボロの家が見えた。

レティシアはツキがいないか探しに行くことにした。


見渡す限り広い農作地だったようで雑草の生えた何もない平地だった。

町の灯りは見えないので町から離れた場所なのは間違いなさそうだった。


割れた窓ガラスの隙間から中を覗いた。中も荒れていて壊れた家具やボロ布が転がっている。

中には人の気配がしない。

壁に手を当ててツキの気配を探ってみたが中にはいないようだった。


レティシアは思い切って家の中に入ってみた。

歩く度に埃が舞う。長らく人が立ち入っていない証だろう。

レティシアは一通り家の中を見た。

人がいた痕跡は何もなかった。


家を出て、埃だらけになった自分に浄化魔法を使った。

ここが一体どこで、ツキはどこに行ってしまったのだろうか。


レティシアは地面に手をつけてツキの気配を探った。

いつもなら強力な魔力の片鱗を感知することができた。しかし今は何も感じない。

近くにいないのか、魔力を封じられているのか、レティシアは途方に暮れてため息をついた。


ケンは「見てくる!本を出せ!」と言った。

レティシアはカバンから歴史書を出した。ケンはすぐにその中にスゥーッと入っていった。


レティシアはひとりぼっちになって空を見上げた。

こんな時でもこの世界の空には星々が輝き、とても美しかった。


────


ケンはすぐに戻ってきた。

「ツキのカバンは宿にあった。ツキは宿にいない。」

レティシアはそれを聞いてガッカリした。

ツキだけでも誘拐されずにいてくれたらと思っていたからだ。

カバンを置いて行くわけがない。ツキも何者かに誘拐されたのは間違いないだろう。


「ケン、空を飛んでくれる?」

「俺様に任せろ!」

レティシアはペンダントの石に息を吹きかけた。

ケンは大きな鳥になり、レティシアは手綱をつけてケンに乗り込んだ。


ふわっと空へと上がり、さっきの廃屋や物置小屋の全貌が見えた。

かつては大きな農園だったのだろう。今はただの荒れた建物と土地が広がっているだけだった。


町からは少し離れているようだった。

レティシアをこんな僻地に置いて行くような輩がまだ町にいてツキを捕らえているとは思えない。


レティシアは付近に何かがないかを探した。

この辺りはお世辞にも栄えてるとは言えない感じがした。

町はそこそこ大きい感じはあったが少しでも町から離れると何もない。

今は農業も盛んではないようだったが道路の整備だけはしっかりしていた。

昼なら商人が馬車で行き交うのだろう。


レティシアとケンは何かないかと目を凝らして探した。

あるのは似たような廃屋と荒れた土地ばかりだった。

レティシアはある廃屋の横に光るものをみつけた。すぐに降りてみるとそれはツキがつけていた"魔王入り"のペンダントに月明かりが当たって光っていたものだった。

レティシアは中に黒いモヤモヤがあるのを確認し、カバンに入れた。


その廃屋も人が立ち入った様子はない。今にも崩れそうな木造の建物だった。

「おい!何かある!」

ケンが見つけたのは大きな岩に不自然につけられた両開きの扉だった。

足元には新しい感じの足跡があった。


レティシアは慎重にその扉を開いた。

中から現れたのは地下へと続く階段だった。

物音は聞こえない。近くに人の気配も感じない。

レティシアは自分にありとあらゆる結界を張って下に降りることにした。


────


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