第72話
ツキとユウリはカールのところに剣の修行に行っている。
レティシアはやることがないのでカバンの中の整理のすることにした。
このカバンはアイテムボックスになっていて、いくらでも入る。
レティシアは何でもかんでもカバンに入れておいているので中に何があるのか忘れている気がしていた。
レティシアはカバンの中に頭を突っ込んだ。
中にはいろんな鉱石や魔石や木材、衣類や香辛料まであった。
レティシアはカレーを作ろうとしていたことをすっかり忘れていた。
カバンの中から香辛料っぽいものをすべて出した。
もうすでにカレーのにおいがする。
レティシアは前世でカレーを作ったことがある。しかしそれは誰にでも美味しく作れるカレールゥという存在があったからである。
この世界には当然そんなものはない。
歴史書にカレーの作り方がないか一応確かめてみた。どこにもそんなことは書かれていない。
自分のセンスのみで作るしかない。
カレーと言えば肉と野菜である。それはある。あとはリンゴとハチミツ、それもある。
一番大事なカレールゥがない。
カレーっぽいにおいのする香辛料だけでカレーになるのだろうか。
レティシアはそれっぽい香辛料をすべて混ぜた。
これはお祭りの露店で買ったので失敗したら終わりである。買い足すことはできない。
粒っぽいものがあるのですり潰してみる。
においは立派なカレーである。しかしこの粉がとろとろのカレーになるとは思えない。
レティシアは悩んだがこれ以上の知識もアイデアもなかった。
とにかく煮込んでみることにした。
ツキに作ってもらった銅製の鍋に材料を全部入れて煮込んだ。
グツグツ煮えているがカレーになる日が来るとは思えなかった。
煮詰めればいいのかと、さらに煮込んでみた。
汁がなくなる。
カレーっぽいにおいのする煮物ができた。
レティシアは味見をしてみた。
これは…、カレーではない…。
人に食べさせられる料理ではない。
レティシアは鍋ごとカバンに入れてしまおうかと思った。
「なんか変なにおいがする!」
ツキが帰ってきた。
ツキは「なにそれ?」と言ってにおいをかいだ。
「えっと、失敗しちゃって。」
レティシアは恥ずかしそうにそう言った。
「別にいいよ。お腹空いたから食べようよ。」
ツキはお皿に盛り付けた。
テーブルにカレーのにおいがする煮物が並べられた。
ツキは「いただきます」と言ってパクパク食べた。
そしてあっという間に食べ終わっておかわりまでした。
「無理しなくていいよ?」
レティシアは自分に気を使ってくれているのだと思った。
「レティ!すごく美味しいよ!初めて食べる味!」
ツキはまずいときはまずいと言う。
レティシアも食べたがそんなに美味しいものではない。カレーを期待したからかもしれないけど、いろいろ物足りない味がする。
ツキはご満悦だった。また食べたいと言ったがこの国では買えないものを使ったと説明した。
「どこに売ってるんだろうね?」
ツキにそう聞かれてレティシアは考えた。
まったく思い出せなかった。
「きっと遠いところだし、買いには行けないよ。」
レティシアがそう言うとツキはガッカリしていた。
「買いに行きたい。」
ツキは何かを決意したような顔をした。
「ツキには剣の修行があるでしょ。」
レティシアは冗談だと思ってそう答えた。
「そっか!じゃあ終わったら行く!」
「いつ終わりそうなの?」
ツキは少し考えていた。
「あのね、魔法と剣を合体させたら最強だったの。ジジイは驚いてたけどね。」
ツキの言葉をレティシアは想像してみた。
剣から魔法が出たりするのはとてもかっこいい。
「でもカールは嫌がりそうだね。」
「うん、そうなの。だからまだやらない。」
レティシアは後でやるのか、と思った。
────
カールのところに修行に行ったツキがすぐに帰ってきた。
「破門にされた。」
ツキはそう言ってため息をついた。
いつものように基礎の打ち込みをしていた時に、ついつい魔法が出てしまったのだという。
それがたまたま火属性のもので、たまたま家が家事になりそうだったと言った。
レティシアはいつか何かやらかすかもしれないとは思っていたが破門と言われるとは思っていなかった。
「すぐに水魔法も出して消したのにさ。」
ツキはブツブツと文句を言い続けていたが、カールやユウリが怪我をする前でよかったのかもしれないとレティシアは思った。
「と言うわけで!あの料理の香辛料を買いに行こう!」
レティシアは一瞬何を言ってるのかわからなかった。
あのカレーっぽいにおいのする料理のことをすっかり忘れていたからだ。
「でもどこに売ってるのかわからないよ?それに強い魔物とか出てきたらどうする?ツキがいなかったら倒せないかもよ?」
「大丈夫だよ。ユウリがいるもん。ユウリ強くなったよ。」
レティシアはそう言われて「確かに」と思った。
ユウリは今では剣の使える魔法師へと進化していた。
まだツキのような異次元の魔法は使えないがどんな魔物が出てきても倒せるくらいの強さにはなっていた。
レティシアは返答に困った。
レティシアの代わりはハンナもノンノンもいるから問題ない。
「でもずっと歩くのは大変だし、ずっとツキにつかまって飛ぶのも大変だし。」
レティシアは馬にも乗れないし馬車を操ることもできない。
「それね、ずっと考えてたんだ!空飛ぶ馬みたいなのがあればいいって。」
ツキはケンを呼んだ。ケンは「うるさいな!なんだ!何か食わせろ!」とピーピー言いながら出てきた。
レティシアは貰い物の焼き菓子を1つケンに渡した。ケンは美味しそうに食べ始めた。
「ケンに乗れたらステキだって思わない?」
ツキはそう言ってニヤリと笑った。
ケンは何か嫌な予感がしたのだろうか、「俺様に何をする?許さん!」と騒ぎ出した。
ツキはユウリの魔法の特訓のときに作ったペンダントを出した。そしてレティシアの首にかけた。
「くれるの?ありがとう!」
ペンダントについている石は何やら穴が開いていた。
ツキはその穴に向かって息を吹きかけろと言った。
レティシアは笛を吹く感じで吹いてみた。
プーーと言う予想とは違う音が鳴った。
その瞬間、焼き菓子を食べていたケンが巨大化した。
「ぎゃーー!!」
レティシアは悲鳴を上げた。
「何をした?やめろ!!」
いつものケンのかわいいピーピー声が太く低い声に変わっていた。
「これでケンに乗って飛べるでしょ!」
ツキはそう言ってドヤ顔をした。
ケンは「おぉ!」と嬉しそうな顔でレティシアを見た。
「本気??」
ツキとケンは「うんうん」と頷いた。
────
そのままレティシアたちは外に出た。
ケンは大きな体で器用にぴょこぴょこ移動した。
「乗るってどこに?」
レティシアはもふもふのケンに乗れる場所があるように見えなかった。
ツキは「ちょっと失礼」と言ってケンに乗ってみせた。
「掴まる場所がないね。」
ケンの羽は引っ張ると抜けそうだった。
ツキはちょっと待っててと言ってどこかに行ってしまった。
そしてすぐに戻ってくるとケンに馬の手綱のようなものをケンにつけた。
「これなら首が締めつけられたりしないでしょ!」
ツキはレティシアに乗ってみるように促した。
レティシアは渋々ケンに乗ってみた。
乗り心地は案外悪くない。手綱を持てば安定しそうだった。
「よし!飛んでみよう!」
ツキはケンのお尻を叩いた。
ケンは驚いて羽を広げた。
大きくなったケンの羽は白くてまるで天使のようだった。
ふわりと空中に浮いたのがわかった。
ケンはバサバサと羽ばたいた。
「わぁ!!すごい!!」
ケンはすぐに高いところまで来ると町の上を飛び回った。
「やったぞ!俺様はすごい!」
ケンは楽しそうに空を飛び回った。
レティシアは馬のときと違う感覚でなんだか心地よかった。
ツキも飛んできてしばらく並んで上空を散歩した。
「大きくするのはわかったけど、戻すときは?」
レティシアはケンから降りてケンの頭を撫でた。
「吹いたやつを今度は逆に吸うの。」
ツキがそう言うのでレティシアはペンダントについている穴の開いた石を吸ってみた。
ぴょろろという不思議な音がしたかと思うと手綱がドサリと地面に落ちた。
そしていつものかわいいケンがピーピー言いながら飛んでいた。
「これでいつでも遠くに買い物に行けるよ。」
ツキは手綱を拾い上げてレティシアに渡した。
「行けるね。」
レティシアは多少不安な気持ちもあったがそう言った。
ツキは喜んだ。ケンも夢が叶ったと喜んでいた。
こうして香辛料を買いに行くという次の目標ができた。
────




