第71話
ツキは地下の何もない部屋で剣をただ眺めていた。
「大丈夫?」
レティシアが話しかけると「剣を叩くってどういうこと?」と首を傾げた。
「おい!!歴史書を読んでないのか?書いてあるぞ!本を読め!」
ケンが飛び出してきてピーピーと騒いだ。
レティシアは「そうだっけ?」とカバンから歴史書を出してペラペラめくった。
ケンが世界一周をしたことが書かれているページの終わりの方に挿絵付きで書かれていた。
「こんなことも書いてたんだね。」
レティシアは感心しながら読んだ。
それはどうやらレティシアの前世の記憶にある日本刀の作り方のようだった。
読んでいるだけで疲れてくる、とてつもなく大変そうな工程が書かれていた。
レティシアはツキを見て「とっても難しそう」と言った。
ツキも次から次へと出てくる難しい単語に嫌な顔をした。
「やってみたいな!」
ユウリだけは目を輝かせて、そのページを熟読した。
レティシアとツキは顔を見合わせた。
「やってみる?」
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地下の何もない部屋に大きな竈を作った。
火がとても大事になると書いていたのでツキは挿絵を見ながら慎重に作った。
金属は鋼という金属の中でも硬いやつが使われると書いていた。
ツキは鉄より硬いやつと呼んでいたのがそれだろうと言い、それでいいことにした。
金属を熱して叩くことで不純物が取れていい金属になると言うようなことが書かれている。
ツキにはその工程がめんどくさかったようでユウリが一人でやっていた。
「折れない剣にするには芯の部分を少し柔らかい金属にするんだって!おもしろいよね!」
ユウリは夢中でその作業に没頭した。
レティシアはその部屋の換気が気になったのでツキと排気口を作り、外に煙突のようなものをつけた。
寒くもないのに煙突から煙が上がっている。
職人の工房っぽくなってきたとレティシアは思った。
剣作りの工程は簡単には進まず、ユウリは毎日のように通ってきてその作業を楽しんだ。
レティシアとツキは見守っていたのだが、あまりにもやることがなくてすぐに飽きてしまった。
それでもユウリは楽しそうに汗を流して金属を叩いていた。
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一週間が過ぎた頃、ユウリが嬉しそうに地下から出てきた。
「見て!できたよ!」
ユウリが持っていたのはレティシアが想像していた日本刀そのものだった。
「どこを持つの?」
ツキは刃だけの刀身を見て不思議そうにした。
「こっち側に持つところをつけるんだよね?」
レティシアが歪な方を指差すと「そう!」とユウリは嬉しそうに笑った。
その笑顔があまりにもキラキラしていてレティシアは思わず目をそらした。
ツキも加わって剣の仕上げをした。
出来上がったのはやはり日本刀だった。
「なんか細くて弱そうだね。」
ツキの言うとおり、この世界で使われている剣よりも細長く薄い感じがした。
「切れ味が全然違うはずだよ。」
レティシアは前世で道着を着た人たちが竹を斬って見せる場面を思い出した。
ツキは「試してみよう」と言い、みんなで森に向かった。
細めの枝を斬ってみるとスゥーッと抵抗なく切れた。
ツキは驚いて太い枝も試した。
それも難なく切れて、しかも断面は磨いたかのようにきれいだった。
「ユウリすごいよ!これならジジイも剣を教えてくれるよ!」
ツキの言葉にユウリはすごく喜んだ。
「じゃあもう一本作らないと!」
今すぐにでもカールのところに行きそうだったツキは「あぁそっか」と明らかに残念そうな声を出した。
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そしてさらに一週間後、もう一本の刀ができた。
ツキとユウリはルンルンでカールの家に向かった。
レティシアはケリーにもらったクッキーをお土産に持った。
「ジジイ!来たよ!」
ツキはドアをバンバン叩いた。
「そんなに叩かなくても聞こえるわ!」
カールはいつもの調子でみんなを家に入れてくれた。
ユウリはテーブルに刀を出した。
カールは「なんじゃこれは」と言って目を凝らして見た。
「これは変わった剣じゃな。」
カールは手に持っていろんな角度から見ていた。
「この剣はある地方で刀と呼ばれるものです。なんだったかな…折れず、曲がらず、とかなんとか。」
レティシアは本に書いてあったことをカールに説明した。そして持ってきたクッキーをテーブルに置いた。「おみやげです。」
カールはクッキーをつまみながら刀を離さなかった。
「これは実にうまい。いや、実に素晴らしいな。本当に折れにくいのか試したい。」
「戦ってみる?」
ツキはもう一本を出して構えた。
「いや、やめろ!試しに刃を合わせるのはもったいない。」
カールは刀を気に入ったようだった。
レティシアは「ツキ、斬ってね」と言ってクッキーを包んでいた紙をポイッと投げた。
ツキはペラペラの紙に向かって刀を振った。
下に落ちた紙は見事に2つに切れていた。
カールはその切れた断面を見て驚いた。
「これほどきれいに切れるものを見たことがない。」
「じゃあ、剣を教えてくれる?!」
ツキはニコニコでカールに詰め寄った。
「よかろう。明日から来るが良い。」
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翌日、3人はウキウキでカールの元へ向かった。
カールは家の横の空き地に木で何かを作っていた。
カカシみたいだとレティシアは思った。
「おはようございます!よろしくお願いします!」
ユウリは大きな声で挨拶をして頭をペコリと下げた。レティシアとツキも同じように頭を下げた。
「よし、ではこれを。」
カールは二人に木刀を渡した。
「木の棒?刀は使わないの?」
ツキは早く刀を振り回したかったようだった。
「バカ者!いきなりそんな危ないことをさせるわけないじゃろ!」
ツキは「ちぇっ」と不機嫌な顔をした。
ユウリは嬉しそうに木刀を眺めた。
「かっこいい!」
ツキが隣で「ただの棒じゃん」とブツブツ言っていた。
「今日は素振りじゃ。1000回やったらやめていいぞ。」
カールはそう言って家の中に入って行った。
「素振りって何?」
「こう、何もないところで振る練習だと思います。」
ユウリは木刀を振り下ろし、「いち、に」と数え始めた。
「ずるい!先に始めたね?!」
ツキも慌ててやりだした。
レティシアはボーッとそれを眺めていたが途中から眠くなってしまった。
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レティシアは汗だくのツキに起こされた。
見ている途中で眠ってしまったようだった。
「1000回やったよ!ユウリより先にできた!」
ツキはご満悦だった。
ユウリも汗だくで「明日は負けません」と言っていた。
カールが家から出てきて「ではまた明日」と言った。
ツキは何か言いたげだった。ユウリはすぐに「ありがとうございました!!」と言っておじぎをした。
ツキも同じようにおじぎをした。
カールは木刀を持って家に入っていった。
「もうちょっとやりたかったのに!」
ツキは不満そうに腕をブンブン振り回していた。
「私はもう無理です。ツキはすごいなぁ。」
ユウリはパンパンになった腕をモミモミしながら歩いていた。
レティシアは回復魔法をかけるべきか悩んでやめた。
この疲労ももしかしたら大事な訓練の一つかもしれない。
そうしてツキとユウリは毎日カールのところへ通った。
レティシアは見ているだけでつまらないので行かなくなった。
家で料理の研究でもしようと頑張っていたがなかなかうまくならなかった。
それでもツキは楽しそうにまずい料理を食べてくれていた。
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カールのところへ通ってから一週間が経った。
「今日はやっと的を打つ練習になったよ。」
ツキは嬉しそうに話してくれた。
カールが作っていたあのカカシを木刀で叩いたのだという。
ツキもユウリも本気すぎてカカシはすぐに壊れたという。レティシアはカールのことが少し気の毒だった。
「だからもっと立派なやつを作ってきたんだ。明日からそれを叩くよ!」
ツキがとても楽しみにしていたのでレティシアは練習を見に行くことにした。
そこには木でできた大きな何かが地面に刺さっていた。
「大きいね。」
レティシアは人間より大きなそれを見て驚いた。
ツキは魔物を狩るつもりでいるのだからこうなっても仕方がないといえば仕方がない。
ツキとユウリは楽しそうに木刀を振っていた。
レティシアはそんな彼らを見ながら平和な時間を楽しんだ。
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