第70話
レティシアの予感は的中した。
キティライズは一見、普通のかわいい子供だった。
少し成長が早くておしゃべりも得意だったが、物を飛ばしたり人形を踊らせたりすることはなくなっていた。
スタスタと歩くようになり、ルルは目を離せなくなった。
キティライズはとても愛らしい子だった。レティシアとツキの前以外では。
ふとした瞬間にレティシアやツキに悪態をつくようになった。
特にレティシアのことはバカにしている。
小学生くらいによく見られる「そんなこともできないのか」とか「俺はこんなこともできるんだぜ」のような上から目線で話してくる。
まだ2歳くらいの子供が、である。
レティシアはそういう生き物なのだと諦め、ツキは最初から気にもしていなかった。
そんな子に成長しつつあったが、レティシアにとってはかわいい甥である。憎たらしいがそれも含めてかわいいと思っていた。
そんなキティライズを守るためにハンナとレティシアは定期的に結界を張った。
ここに悪いモノが来るなんてもう勘弁してほしい。
レオハルトはすっかり立派な領主になった。
何か問題があるとすぐに自らが立ち会って解決していた。そんなレオハルトだから家を留守にすることが増えた。
ケリーは完全に町に引っ越していた。
レティシアとツキも町に住むように誘われ、町の外れに小さな家を建てた。
見た目はとても小さかったがツキは地下に部屋を作った。
湖の家の近くに作った地下室が忘れられなかったのである。
家はカイが大工さんに頼んでくれてすぐに完成した。
地下室はツキが気まぐれで作り、どんどん大きくなっていった。
レティシアはそれを見て、アリの巣を思い出した。
「ここは図書館にしよう!」
ツキはそう言って本棚を作るとカバンから絵本を2冊出して収納した。
「図書館の本が少ないよ。」
レティシアがそう言って笑うと「これから増やそう」とツキは笑った。
その言葉はとてもワクワクするものだった。
ツキは狭い場所が好きだった。変な場所に横穴を作っては寝床のように毛布を置いた。
そこで丸くなって寝るツキは体が大きくなった今でもとてもかわいらしい。
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ユウリは特訓の成果があり、かなり魔法を自由に操れるようになってきた。
今はツキと細かい作業を魔法でやる特訓をしている。
レティシアは銀と魔石で装飾品でも作ったらどうかと提案した。
レティシアは前世の記憶をフル動員してデザイン画を描いた。
前世のレティシアは装飾品には興味がなかったが海外セレブたちのつけている豪華なティアラやネックレスなんかを見るのは好きだった。
「レティっておもしろいものを描くよね。」
レティシアのデザイン画を見てツキは感心していた。
レティシアには絵の才能もないので頭の中の素敵な装飾品を紙に描くことは難しかった。
言葉でなんとか説明するとツキは「こうかな?」とデザイン画を手直ししてくれて、結局はほとんど別物のようになっていた。
「ツキって本当にすごいわ。」
レティシアは出来上がったデザイン画を見て、頭の中の物がちゃんと再現できていると思った。
ツキは私を理解する能力が非常に高い。レティシアはいつもそう思ってありがたいと感謝していた。
「魔石ってきれいだね。」
ユウリはたくさん並べて色の違いを見ていた。
「それは芋虫みたいな魔物から取ったやつ、そっちはカエルみたいなヌメヌメしたやつ。」
ツキは手に取りながらユウリに説明していた。
「全部覚えているの?」
レティシアが聞くと「手に持つとなんとなくわかる」と言った。
レティシアも手に取ってみたが何もわからない。
やはりツキには人間にはない能力がある。
「レティとツキは15歳になったらどうするの?」
二人にはユウリの質問がよくわからなかった。
「どうもしないかも。」
レティシアがそう答えるとユウリは困った顔になった。
「お母さんが15歳になったらもう大人だから何か仕事をしないといけないって言うんだよね。」
「へぇ。」
ツキはまるで他人事のように、そう返事をした。
「でも私たちって魔物討伐のお手伝いとかしてるよ。それだけじゃだめなの?」
レティシアは月に1回か2回呼ばれて行く討伐の話をした。
「それなら兵士にならないと。城で訓練とかしてるでしょ。でも私に剣の才能があるとは思えないんだよ。」
ユウリはため息をついた。
「そうかな?」
ツキはそう言って立ち上がった。
「私には無理かな。剣が重くて振り回せないもん。」
レティシアは早々にリタイヤした。
「剣士もかっこいいよ。」
ツキはそう言ってユウリを見た。
レティシアはなんだか嫌な予感がした。
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ツキはすぐに鉄より硬い金属を出して二本の剣を作った。
サツロ国王がキティライズにプレゼントした剣に似ていた。
革で鞘まで作ると1本をユウリに渡した。
「剣の師匠のところへ行くよ!」
ツキはユウリの手を引っ張り外へ出た。
レティシアはなんだか心配で二人のあとを追いかけた。
ツキは町の外れの道を進み、ポツンと建っている一軒家のドアをノックした。
「はいよ。おや、ツキか。今日はお友達も一緒か。」
中からヨボヨボのおじいさんが出てきて3人を家の中に入れてくれた。
「ジジイ、剣を教えて。」
ツキはそのおじいさんをジジイと呼んだ。仲が良さそうな雰囲気だった。
「なんだねいきなり。この子たちは誰だい?」
レティシアはハッとして「はじめまして、レティです!」と自己紹介をした。
ユウリも「ユウリと言います。」と言ってペコリと頭を下げた。
「レティにユウリ、どうぞよろしく。わしはカールというジジイじゃ。」
カールはそう言ってガハハと笑った。
カールは椅子に座るように言い、みんなにお茶を出してくれた。
「お客さんは大歓迎じゃ。」
「いただきます。」
レティシアとユウリはおとなしくお茶をいただいた。
「美味しい!!」
レティシアは前世の記憶にある緑茶を思い出した。
こちらの世界のお茶は香ばしいだけのお湯というイメージがある。
「そうじゃろ。わしが焙煎した特注品じゃよ。」
カールはとても嬉しそうにお茶の説明をしてくれた。
レティシアはメモ帳を出してそれを書き留めた。
「それでなんじゃった?お茶の作り方を聞きに来たんじゃったか?」
「違うよ!剣を教えてって言ったの!」
ツキはテーブルの上にドンと剣を出した。
「ほぉ。これはこれは、なかなかの剣じゃな。」
カールは慣れた手つきで剣を持ち叩いた。
「しかしだめじゃな。見た目はいいがすぐ折れる。」
カールはその剣を一振りしてそう言った。
「硬い金属で作ったよ?」
カールはもう一本をツキに持たせて「当ててみろ」と剣を構えた。
ツキは思いきりカールの剣目がけて振り下ろした。
カンッという音と共に剣は折れ、天井に刺さった。
ツキは椅子に座り、「ほんとだ。なんで?」と聞いた。
カールはテーブルに持っていた剣を置いて説明してくれた。
「金属というのは叩くと強くなる。これはただ金属を溶かして固めただけだろう?」
ツキは少し悩んで「多分そう」と言った。
正確には金属の形を変えただけである。
「鍛冶職人はな、高温の釜で溶かした金属を型に入れて剣の原型を作る。それから何度も何度も熱してはハンマーで叩くんじゃ。」
レティシアはなんとなくそれがわかった。燃えたぎる窯の横で汗だくになる職人の姿がイメージできた。
ツキはカールから剣の作り方を詳しく聞いた。
「わかった!やり直してくる!ありがとうジジイ!」
ツキはそう言ってカールの家を飛び出した。
レティシアとユウリは「ごちそうさまでした」と言ってからツキを追いかけた。
ツキの姿はもうなかった。
「地下室かな?」
レティシアが言うとユウリも「多分そうだね」と言った。
二人は家に向かって歩き出した。
「もう15歳になるのか。」
レティシアは自分の年齢のことなど全然気にしていなかったことに気がついた。
「大人って言われてもピンとこないよね。」
ユウリはそう言ってクスクスと笑っていた。
レティシアはその美しい横顔をみつめてしまった。
「どうかした?」
ユウリはレティシアの視線に気がついた。
レティシアは顔を真っ赤にして「なんでもない!」と言って走り出した。
「競争?負けないよ!」
ユウリは笑顔で追いかけてきた。
レティシアはユウリに今の顔を見られたくなくて、いつもより速く走れていた─。
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