第69話
ハンナの息子、ユウリがやって来てから1年が経った。
そしてルルの息子のキティライズは1歳になる。
町は誕生日をお祝いしようとお祭りのようだった。
キティライズはやっと歩けるかどうかという赤ちゃんだったが魔力の量が桁違いに多かった。
キティライズのまわりでは、まるでポルターガイストのように物が飛び交い、人形は踊り狂い、メイドたちは怯えて大変だった。
ルルは心配していたがレオハルトは大喜びで「もっとやれ」と言う始末だった。
ハンナもどうにかしようといろんな魔法を試みたけど、どれも効果がなかった。
レティシアは「ちょっとレティも試してみて。」とハンナに言われ、今日は城に来ている。
キティライズはレティシアを見るととても喜ぶ。
いろんなものが飛んできて、最初は嫌われているのかと思ったけど、逆だという話だった。
現にキティライズはご機嫌だった。
「こんにちは、キティ。今日もかわいいね。」
キティはレオハルトにそっくりの銀色の髪の毛をしている。
レティシアはどう言ったらこの現象を止められるかわからなかった。
おそらくキティライズは無意識にやっている。きっと魔力が多すぎて、小さな体から溢れているのだろうと思った。
一緒に来ていたツキは飛んでくる物を飛ばし返していた。楽しんでいるようにも見える。
そしていつもツキがプレゼントした人形たちが部屋の中を楽しそうに踊るという現象になる。もちろんそれはツキがやりたくてやっている。
キティはそれが大好きでツキをみつけると人形たちを次々と飛ばしてくる。
「キティはセンスがいいね。」
ツキはそれをとても喜んでいた。
レティシアはキティがツキの真似をして遊んでいるのではないかと思い始めた。
「ねぇツキ。キティが物を飛ばすのをやめさせたいんだけど、とうしたらいいと思う?」
レティシアがそう聞くとツキはビックリしていた。
「どうしてやめさせたいの?!」
レティシアはハンナが困っているとツキに話した。
ツキは納得がいかないという顔をした。
「楽しいのに、ね!」
ツキがキティに向かってそう言うとキティは笑って近くにある物をツキに向かって飛ばしてきた。
キティライズなりの返事なのだろう。
レティシアは少し考えてキティライズの前に座った。
そして両手を握った。
「あのね、今やってること、楽しいんだよね?ツキも遊んでくれるもんね。でもね、それが嫌だなって思う人もいるんだ。普通は物が勝手に飛んでいったり、人形が勝手に踊ったりしないからね。
人間って自分と違うものが怖いなって思ったりしちゃうんだ。
キティがすごいのはわかるよ。でもね、そういうことでキティが怖がられたり、嫌われたりするのを見るのは嫌なんだ。
だからね、私とかツキの前なら今までどおりでいいんだけど、他の人がいるときは物を飛ばしたり、人形を踊らせるのはやめてほしいんだ。」
1歳の赤ちゃんにそんなことを言ってもわからないと普通なら思うだろう。
しかしレティシアはちゃんと伝えたらわかってくれるんじゃないかと思ったのだった。
この子はとても賢くてとても優秀な子だ。
キティライズはつかまり立ちをしてレティシアに抱きついた。
「わかったよ。」
レティシアはキティライズがそう言ったように聞こえた。
キティライズはニコニコしていつものようにレティシアの髪の毛を引っ張った。
「痛いからやめようね。」
レティシアがそう言うとキティライズはキャッキャと喜んだ。
わかっているのか、わかっていないのか、まったくわからない。
レティシアとツキはキティライズが眠そうにしたので帰ることにした。
「また遊びに来るね。」
────
数日後、ハンナはレティシアに「どうやったの?」と聞きにきた。
キティライズが物を飛ばさなくなったというのだ。
「ツキ、何かした?」
レティシアはツキが魔法でゴリ押しでもしたのかと思った。
「してないよ。レティが説教したからやめたんじゃない?」
ツキのその言葉にハンナは反応した。
「説教って何をしたの?!」
「えっと、やめてねってお話しただけだよ。」
「赤ちゃんがそんなの理解したとは思えないわ…。」
ハンナは不思議だと言いながら帰っていった。
レティシアは自分が赤ちゃんだった時のことを思い出した。
生まれてからすぐにレティシアには前世の記憶があった。体は自由に動かせる感じはしなかったけど、あの時頭の中は前世の私だった。
レティシアにはもしかしてという思いがあった。
キティライズも転生してきたチートキャラなのではないか、と。
そう思ったレティシアはどうしても確かめたくなった。
「キティに会ってくる!」
「私も行く。」
レティシアとツキは城へと向かった。
────
城はいつも通り平和だった。
ときどき魔物が出たと報告があれば討伐しに行くくらいだった。
土地が豊かになり、動物が増えるとそれを捕食する魔物も増えたと誰かが言っていた。
いいのか悪いのかレティシアにはわからない。
キティライズはルルと庭で日向ぼっこをしていた。
美しい庭にはあの時の祭壇がドーンと置かれたままで、何かのステージのようにも見えた。
キティライズは祭壇が気に入っているようでルルはよくその上にブランケットをひいて座らせていた。
ルルがいると前世の話ができない。
かと言って赤ちゃんが庭で一人になるとは思えない。
レティシアは今日は聞けないと諦めた。
「あら二人ともいらっしゃい。」
ルルは二人をみつけると嬉しそうに手を振った。
「お手洗いに行きたいけどキティがまだ遊びたいっていうのよ。ちょっと見ててくれるかしら?」
「いいよ。」
ツキは嬉しそうにキティが飛ばしている花びらを上空でくるくるとした。
レティシアはルルがいなくなった隙にキティライズに話しかけた。
「ねぇ、キティ。あなたも異世界から転生してきたのでしょう?」
ツキはそれを聞いて驚いていた。
「そうなの?」
キティライズはまだ花びらを舞い上がらせて喜んでいる。
「だってあなた赤ちゃんらしくないもの。教えて。私とツキもそうなのよ。時々そういうこともあるのよ。」
レティシアがそう言うとキティライズは遊ぶのをやめて二人を見た。
「だったらどうだって言うの。」
ツキは目をぱちぱちさせてキティライズを見た。
「別にどうだって話じゃないわ。ただ納得するだけよ。」
レティシアはキティライズが普通じゃないことに答えが欲しかっただけだった。
「レティシアは勘違いしてるよ。僕はその転生とかじゃない。ただ、単に天才なだけだよ。強いて言えばツキが悪いんだよ。僕がお腹の中にいる頃に僕にたくさん魔力をこめたでしょう。」
ツキはそう言われて頭を傾げた。
「撫でていただけだよ。」
「いいや、僕はツキの魔力を毎日のように与えられてたんだ。普通じゃなくなってもおかしくないでしょう?」
レティシアも首を傾げた。そんなことがあるのだろうか。
ルルが戻ってきて「いい子にしてましたか?」とキティライズに聞いた。
キティライズは赤ちゃんのように「ダァ」とか「ブゥ」とかしか言わなくなった。
「いい子だよね。キティは。」
ツキはそう言って頭を撫でた。
キティライズは眠たそうな顔になった。ルルはお昼寝しましょうねと言って城の中に入って行った。
二人はその場で手を振った。
「ねぇ、どういうことだと思う?」
レティシアはキティライズがいなくなったほうをボーッと眺めていた。
「わからないけど、おもしろいね!」
ツキはニコッと笑った。
レティシアもユウリに魔力を注いでいたことがあった。
無意識だったけどあれでユウリは目覚めたようなものだった。
ツキの膨大な魔力を長期間与えられ続けたとしたら…。レティシアはそれがどう赤ちゃんの育成に関わってしまったのか考えるのが少し怖くなった。
「すっごい魔法使いになるね。」
ツキは嬉しそうだった。
「間違いないね。」
レティシアは頷いた。
いずれレオハルトのあとを継いでこの土地の領主になるのだろう。
強いのはいいことだ。
いいことなのにレティシアには何かが引っかかった。
《なんか生意気な話し方だったな》
レティシアは思った。
かなり早い段階でキティライズは自分より賢くて立派な存在になると。
そしてまた自分のポンコツさを実感するのだろうと。
ため息をつくレティシアだった─。
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