第68話
ハンナはユウリの魔力に気がついていた。しかしそれはユウリを学校に入れなくてはいけないことになるのもわかっていた。だからハンナはユウリの魔力について何も言わなかった、と白状した。
「ユウリはツキとお揃いなんだよ。」
レティシアがそう言うとハンナは「さすがにそれは」と信じようとしなかった。
そこで4人は森に向かった。ユウリの魔法お披露目会をすることになった。
「じゃあ真似してみてね。」
ツキは楽しそうにユウリに向かって言った。
ユウリは真剣な顔で頷いた。
ツキは手に炎を出して指でクルクル回し、空に打ち上げて弾けさせた。
レティシアには色と音のない花火のように見えた。
ユウリは真剣な顔になり、手に炎を出して同じようにクルクルと回した。そしてそれを空に飛ばそうとした。しかしユウリの炎は途中で消えてしまった。
「まだできないや。」
ユウリはガッカリしているようだった。
「次行くよ!」
ツキは気にせずに手から水を出し、蛇のようにみんなのまわりをニョロニョロと走らせた。そして霧状にして虹を作った。
「わぁ!!」
レティシアは久しぶりに虹を見て喜んだ。
ユウリも真似をしたが蛇までは同じようにできたけど、それを霧にするまではできなかった。
ツキはうんうんと頷いて「じゃあ次ね」と言って小さな竜巻を出した。
その竜巻でドリルのように地面に穴を掘り、横に土のお城を作った。
レティシアはパチパチと拍手をした。
ツキはドヤ顔でユウリを見た。ユウリは自信喪失しているようだった。
「何してるの!ユウリならできるわ!!」
ハンナがそう言ってユウリの背中を叩いた。
ユウリはビックリしていたが笑顔になり、「やってみる」と言った。
ユウリの竜巻はツキのそれよりも速く回転しているように感じた。そして掘る速度もツキより速そうだった。
お城をがんばって作ろうとしたができたのは格好のいい山だけだった。
ユウリはハンナを見て「まだうまくできないみたい」と申し訳なさそうに言った。
ハンナはすぐにユウリを抱きしめた。
「天才だわ…。ユウリ…。なんてことなの。」
ユウリは思ってもいない言葉が返ってきて驚いた。
「でも、ぜんぜんツキみたいにできないよ?」
「バカね、ツキが異常なのよ。真似できたらそれはそれでお母さん困っちゃうわ。」
ハンナはそう言ってクスクスと笑った。
「ユウリは風魔法が得意みたいだね。飛ぶのもすぐできたし、極めるなら風がいいかもね。」
ツキはそう言って満足そうにした。ツキにしては的を得たちゃんとした感想だとレティシアは思った。
ツキの初めての弟子である。
これだけできればレオハルトにも負けないだろう。
「学校に行かなくて大丈夫かな?」
ユウリは心配そうにハンナを見た。
「行っても教えてもらうことは何もないわ!先生になるなら別だけど。」
ハンナはとても誇らしげだった。
「ユウリのお父さんはね、とても素晴らしい魔法師だったのよ。」
ハンナは今まで黙っていた旦那さんの話をした。
「彼は風属性の魔法が使えたの。ユウリはお父さんに似たのね。」
「死んじゃったの?」
ユウリは悲しそうな顔でハンナに問いかけた。
「わからないの。ユウリが生まれる前にね、いなくなっちゃったの。魔物の討伐に出かけたんだけどね。彼だけ、帰ってこなくて…、死体も発見されなくて…。」
ハンナは泣きそうになるのをぐっと堪えていた。
「ごめんね!お父さんもお母さんも頼りなくて。ユウリにはたくさん苦労かけたね。」
泣きそうなハンナをユウリは抱きしめた。
ハンナはついに涙をポロポロとこぼした。
レティシアはハンナの人生がとても波乱万丈でどんなに大変だったのかと思うと辛くなった。レティシアにとってもお母さんのようなハンナ。これからもっとたくさん幸せになってほしいと思った。
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ユウリの魔法の特訓にハンナもついてくるようになった。
ツキとハンナの二人は容赦なくユウリをしごいた。
レティシアはユウリをかわいそうに思ったが二人があまりにもいきいきと指導するので何も言えなかった。
ユウリはめげずにどんどん二人の言うことを吸収していった。
成長していくユウリを見ているとレティシアは置いていかれるような、なんだか切ない気持ちになった。
そしてまた魔物討伐の任務がきた。
ハンナはレオハルトにユウリを同行させると言った。
レオハルトは一瞬驚いていたがハンナの目を見てすぐに許可してくれた。
レティシアは後方支援でおとなしくしているのを条件に連れて行ってもらえることになった。
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レティシアはハンナの空飛ぶ馬に乗せてもらっていた。
ツキとユウリはまるで鳥のように空を飛び回ってとても楽しそうだった。
レティシアも一人で飛んでみたいな、と一瞬思ったけど高いところは得意じゃないことを思い出した。
今回は北に向かっている。
北には不思議なことに砂漠のような場所がある。
植物は生えず、水場もない。
岩と砂だけの土地が自然豊かな土地の中にポツンと広がっていた。
「ここに何がいるんだろ?」
見渡す限り砂と岩だった。何かが隠れているようにも見えない。
「下だ!でかいぞ!」
ケンが騒ぐと地面が地震のように揺れた。
カイはハンナとレティシアを連れて砂漠の境界線まで下がった。
ここで負傷した兵士を回復する役目だった。
「やっちゃっていいの?」
ツキは嬉しそうにみんなを見た。
兵士たちはざわざわとした。
「みんなこっちに来たほうがいいかも!!」
レティシアは砂漠でオロオロしている兵士たちに声をかけた。
ツキも「うんうん」とみんなを下がらせた。
「ユウリも一緒にやろう!」
ツキは遊びにでも誘うように楽しそうに声をかけた。
「はい!」
ユウリは真剣な顔で返事をした。
二人は砂漠の上に浮かぶ形になった。
そして地面に向けてすごい速さの何かを刺しまくった。
「楽しいね!!」
ツキは笑っていた。ユウリは必死にツキの真似をしていた。
ゴゴゴゴと地面が渦巻いた。そしてそこから毛虫のようなイソギンチャクのような蛇のようなニョロニョロした生き物が出てきた。
「でっかいね!!」
ツキは喜んでユウリを見た。
ユウリは顔面蒼白になっていた。
1番最初の討伐がこんな大物だとは誰も想像していなかった。
ツキは「師匠の技を見ててください」と言ってユウリをレティシアたちのところに飛ばした。
ツキは空高く舞い上がると両手をブンブン振り回した。
それに合わせて鋭い刃が魔物に向かって飛んでいった。
刃は蛇のような体を切り刻んだが魔物は倒れなかった。それどころが怒り狂って暴れ始めた。
「レティ!こいつ強いよ!!」
ツキは満面の笑みで魔物を指差した。
「ツキ!危ない!!」
魔物はツキめがけて飛んできた。
「すごい!足もないのにどうやって飛んだの?!」
ツキは嬉しそうにその魔物の上に着陸した。
魔物は口のような触手のような、とにかく気持ち悪い何かをツキに向けた。
ツキは「あーあ」と残念な声を出すとそこ目がけて炎を凝縮させた何かを撃ち込んだ。
魔物は一瞬で燃え上がった。
ツキは残念そうに燃えて灰になっていく魔物をみつめた。
ツキはレティシアたちのところに戻り、ユウリに「はい」と何かを渡した。
「これは?」
濃い青色の大きな魔石だった。
「魔石、あげる。」
「ユウリの初任務記念だね!」
レティシアがそう言うとユウリはオロオロした。
「私は何の役にもたってませんよ。」
「そんなことないよ!いっぱい攻撃当ててたよ。」
ツキはそう言ってユウリに手を差し出した。
ユウリはにっこり笑ってツキと握手した。
ハンナは後ろからそれを見て感動していた。
レティシアはなんだかそれがおもしろくてクスッと笑ってしまった。
《ハンナも親バカの部類なのかな》
帰り道でユウリはツキに言っていた。
「もっともっと強くなりたいです!師匠!私を鍛えてください!」
ツキはニヤリとして「楽しみだよ」と言った。
その顔があまりにも何かを企んでいそうな顔でレティシアは少し心配になった。
《ユウリががんばれますように》
レティシアはそう心の中で祈っていた。
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