第67話
ユウリの秘密の特訓を開始してから数週間が経った。
今では無詠唱で魔法を使うことに慣れたようだった。
ツキは仲間ができて嬉しそうだった。一緒に狩りに行きたいと言ったが、この小さな森には狩りができるような大きな動物はいなかった。
ハンナはまだ遠くに行く許可をくれない。
レティシアはユウリがイケメンだという事実を気がつかなかったことにした。
いちいちドキドキしていたら不審に思われてしまう。
レティシアは自分にユウリはただの友達と暗示をかけた。それが効いたようで少しくらいのことではドキドキしなくなった。
レティシアは前世での恋愛の経験を思い出していた。淡い恋心で終わるか、失恋するかのどちらかだった。
おかしな雰囲気になるくらいなら何もない方がいい。
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いつものようにユウリを遊びに誘いに来るとハンナがバタバタと何かを準備していた。
「南で魔物が出たって。カイたちと行ってくるわ。ユウリのことはケリーにお願いしたから。ケリーの言うことをちゃんと聞くのよ。」
「わかったよ。」
ユウリはそう答えたがツキが「私たちも行く!」とハンナに詰め寄った。
「だめよ!どんな魔物がいるかもわからないし、ツキはいいけどユウリが行ったら邪魔になるだけよ。」
ハンナはあえてレティシアも邪魔になるとは言わなかった。
「ユウリは魔法使いだよ。役に立つよ。」
ツキがポロッと言ってしまった。
「えっ?」
ハンナが驚くのを見てツキは口に手を当てた。手遅れだった。
「ちょっと待って、どういうこと?」
ハンナが聞き出そうとしたときにドアを叩く音が聞こえた。
「ハンナ様!出発します!」
兵士が迎えに来ていた。
ハンナは「帰ったらゆっくり聞くわ」と言って家を出ていった。
ツキは「ごめん」とユウリに謝った。
「ううん、いつ話そうか迷っていたからちょうどいいよ。」
ユウリは爽やかな笑顔でツキにそう言った…。ように、レティシアには見えていた。
レティシアは頭を振ってユウリのまわりに見えるキラキラオーラを消した。
「レティ大丈夫?」
ツキはレティシアを見て首を傾げた。
「大丈夫!!魔物って何だろうね?」
レティシアは慌てて話をすり替えた。
「倒しに行きたいよね。」
ツキは悪い笑い方をした。
レティシアはツキが考えていることがわかった。
「こっそり見に行くってこと?」
ユウリはかなりツキに感化されているようだった。
二人はウフフと悪い笑い方をしてレティシアを見た。
「ハンナにみつかったらすごく怒られるよ。」
「見るだけにする。ね?ユウリも飛べるようになったし、上から見るだけにしよ!」
二人はレティシアをみつめた。
「みつかる前に帰ってくるよ?いいね?」
レティシアがそう言うとツキとユウリは「もちろん!」と声を揃えた。
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ツキはレティシアを抱えて飛び立った。ユウリはそれについてきた。
少し進むと空飛ぶ馬の集団が見えた。
ツキはさらに上空へと上がった。
「あの馬、遅いよね。」
ツキは早く行きたそうにしていたが目的地がわからない。
3人は上空からみつからないように空飛ぶ馬の集団を追いかけた。その集団は小さな村のようなところへ降りていった。
カイと城を守っている兵士たちに加え、ハンナもいた。
レティシアたちはみつからないように気配を殺し、近くの雑木林に降りた。
村の住人たちと何かを話しているようだったが聞こえなかった。
兵士たちは住民に挨拶をして徒歩でどこかに向かって行った。
その先にはジャングルのような湿地帯で背の高い木や植物が生えている場所がある。
「行ってみたかったんだよね。」
ツキはそう言うとニヤリと笑った。
レティシアたちも歩いて追いかけた。しかしすぐに兵士たちを見失ってしまった。
背の高い草や、ぬかるむ地面に3人は苦戦した。
「見て!あれって何かな?」
見たことのない鳥や小動物をみつけユウリはとても楽しそうだった。
「リスかな?あまり美味しくないよ。」
ツキは首を横に振った。
進んでいるとグァオォーという聞いたことのない鳴き声が聞こえてきた。
「魔物がいたみたいだね。」
しかしこのままじゃ何も見えない。
ツキは上空から見ようと言った。
3人は泥だらけのまま高い木の上まで飛んできた。
下ではトカゲとゴリラが合体したような見たことのない魔物がいた。
「強そうだね!」
ツキは目を輝かせて兵士たちの戦いを見た。
中には魔法師も何人かいた。
「あれが魔法師の詠唱だね。」
ユウリは興味津々で彼らが魔法を使うところを見た。
魔物はなかなか倒れず、負傷者が出ているようだった。
「ほら、ハンナが回復魔法を使ってるよ。」
ハンナは傷ついた兵士たちを次々と治している。
「お母さんは本当にすごいね!」
ユウリは感動しているようだった。
魔法師たちが動きを止めて、その間に剣士たちが仕留めるという作戦のようだった。
いつもツキが指一本で倒すのを見ていたレティシアには、じれったく思えた。
それはツキも同じようで「飽きた」と言って木に生えてる木の実を採ってかじったりしていた。
「なんかくるぞ!」
急にケンが出てきてレティシアの頭のまわりのパタパタと飛んだ。
ツキは実をペッと吐き出して戦闘態勢になった。
大きな木がなぎ倒され、大きな何かがやって来た。
「親みたいなやつが出てきたよ!」
トカゲの頭は3個になり、ゴリラの体には長い尻尾も生えていた。
「こいつはやばい!尻尾に毒がある!!」
ケンはピーピーと飛び回った。レティシアはケンを捕まえてカバンに入れた。
レティシアはすぐに結界を張った。とにかく誰も死なないでと祈った。
ユウリの顔から笑顔が消えた。
「ねぇ、大丈夫なのかな?」
どう見ても大丈夫ではなさそうだった。
レティシアはツキを見た。ツキは小さく頷いて、そのでかい方にマシンガンのような風魔法を放った。
「逃げるよ!」
ツキはレティシアとユウリを掴むとすごいスピードでその場を離れた。
ドスンッドカンッという何かが倒れてぶつかるような音と「キャー」とか「ギャー」という人間の叫び声が聞こえたような気がした。
ツキは一気にいつもの森まで飛んできた。
「楽しかったね!」
ツキがニコニコでそう言うと、ユウリは大興奮で「うん!!すごく!」と喜んでいた。
レティシアは高速での移動が苦手でよろよろしていた。呼吸を整えて自分に回復魔法をかけた。
「見られてないよね?」
「空を見上げる暇もなかったと思うよ。」
レティシアたちは何をしていたのか聞かれたときのために釣りをすることにした。
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夕方になり、そろそろ家に帰ろうと釣り竿を片付けていると空飛ぶ馬がやって来て3人の目の前に降りた。
そこにはプンプンのハンナがいた。
「あなたたち、何をしたかわかってる?」
「え?釣りだけど。」
ツキはバケツに入った魚を見せた。
「あら、たくさん釣れたのね。」
ハンナはバケツを受け取り、地面に置いた。
「って褒められるとでも思ったの?!あんなことしてバレないとでも思ったの?」
「ごめんなさい。」
ユウリはすぐに謝って白状した。
「私がお母さんの活躍を見たいって言ったんだ。お母さん、すごくかっこよかった!」
ユウリがそう言うとハンナは一瞬照れた顔をした。
「褒めたって許しませんよ!」
「ごめんなさい。見るだけにしようって言ったのは私です。」
レティシアも正直に話して頭を下げた。
「ごめんなさい。強い敵を倒したくてやりました。」
ツキもそう言って頭を下げた。
ハンナはため息をついた。
「あのね、ツキはいいけどレティシアもユウリも魔物を倒せないでしょう?何かあったらって心配する身にもなって。」
「ごめんなさい。」
3人は揃って頭を下げた。
「黙ってついてくるなんてもうしないで。わかった?」
ハンナは厳しめにそう言った。
3人は「はい!」と、良い返事をした。
「ツキがいなかったら危なかったわ。次からツキにも来てほしいって。」
ツキはそれを聞いて「いいの?」と喜んだ。
そしてハンナはレティシアとユウリを見た。
「どうせあなたたちもついていくとか言うんでしょ?」
レティシアとユウリは目を合わせてニヤッと笑った。
「もちろん!」
ハンナはまたため息をついて「連れて行くからちゃんと大人の言うことを聞くこと!」と言った。
レティシアとユウリはハイタッチをして喜んだ。
「じゃあ帰りましょう。ケリーがご飯を食べにおいでって言ってたわよ。」
ハンナはユウリと家に帰って行った。
レティシアはツキと町にあるカイとケリーの家に向かった。
「カイにも怒られるかな?」
「怒られるね。」
二人は「やっちゃったね〜」と笑いながら歩いた。
二人なら怒られるのも、きっと楽しい─。
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