第66話
ユウリがやってきて1ヶ月が経った。
ハンナはレオハルトに町に家を建ててもらいユウリとそこに引っ越した。
ユウリはすっかり別人のようになっていて何かあると「これは何?」と聞いてくるようになった。
レティシアたちはそれがおもしろくてユウリをいろんなところへ連れて行った。
ハンナは最初、レティシアたちがユウリを連れ回すのがおもしろくない様子だった。心配そうに見守っていたが何か言いたげにしては我慢しているように見えた。
ハンナもハンナでユウリとの付き合い方を手探りで探している感じだった。急に大きくなった息子が目の前に現れたんだからそれも仕方がない気もする。
ユウリは素直でとてもいい子だった。
レティシアは出会った頃のツキを思い出した。いろんなものに興味を示して目を輝かせている。
「今日は森に行ってみよう!」
レティシアはユウリにそう言いながらハンナをチラッと見た。
ハンナは明らかに嫌な顔をした。
「行きたい!!森には何があるかな?!」
ユウリはそう言ってハンナを見た。
「そうね、動物とかいたらいいわね。」
ハンナは笑顔を作って見せた。
城のまわりには小さな森がある。
レティシアたちの住む家は森の先の山の麓にあるトンネルを越えて行く。
もう慣れてしまったが毎日のように城に通うには少し不便ではあった。
ケリーは動物の世話を人にお願いした。
カイたちの家のまわりにも家が建てられ、小さな集落のようになっていた。
農地も広がり家畜も増えて大きな牧場のようになった。
カイとケリーは町に小さな家を買った。
最初はルルの赤ちゃんの世話が落ち着くまでと言っていたが、ケリーはそこを離れようとしなかった。
カイも城での仕事が忙しくなり、レティシアとツキはほとんどを二人で過ごした。
食事の用意など二人には難しいこともあったがそれはそれで楽しかった。
ユウリは度々その二人の食事に巻き込まれ、おかしなものも食べさせられていた。
「なにこれ?真っ黒だよ。」
「それはツキの作った魚のフライのサンドイッチだよ!」
「すごい!ガリガリしてて焦げた味がする!」
ユウリは「不味いね!」と言いながら楽しそうに食べた。
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3人が向かった森はとても静かだった。
小鳥のさえずりが聞こえてくる。
晴れていて気持ちの良い日だった。
「ユウリは魔法使いじゃないの?」
ツキは楽しそうに歩くユウリに話しかけた。
「どうだろう?違うと思うけど。」
「でも魔力はたくさんあるよ。」
レティシアもツキもユウリに魔力があるということに気がついていた。きっとハンナも気がついているだろう。
「魔法ってどうやるのかな?」
ユウリは興味津々だった。
「教えていいかハンナに聞かないと。」
レティシアはそう言ったがツキはもう教えていた。
「こう、イメージするの。燃えろ、とか、水が出ろ、とか。」
ツキの教えるそれはとても抽象的だった。
レティシアはそんなんじゃどうせだめだろうと思って何も言わずに二人を見ていた。
「燃えろ!」
ユウリは力いっぱいそう言った。すると目の前にあった木が燃え始めた。
ツキは拍手しながら「すごいすごい」と喜んだ。
「ツキ!!火事になる!!消して!」
「水出ろ!」
ユウリはまた木に向かってそう叫んだ。
するとバケツをひっくり返したような水が辺り一面に降り注いだ。
レティシアは溺れるんじゃないかと思った。
燃えていた木からシューシューいいながら白い煙が出ていた。
「ユウリ!消したね!すごい!」
ツキはビシャビシャになった姿で喜んだ。
「やった!できた!」
レティシアはポカンとしてそれを見ていた。
普通の魔法使いは詠唱をして魔法を出す。
だからある程度の年齢になると魔法の学校へ行って勉強して取得するというのが通常だった。
レティシアは自分とツキは普通じゃないと自覚があった。
それはきっと転生してきたから【チート】的な力が働いているのだろうと勝手に思っていた。
レティシアはビシャビシャのままユウリを睨んだ。
「あ、ごめんね。濡れちゃったね。」
レティシアの視線を感じたユウリがそう言ってポケットからハンカチを出した。
「ハンカチも濡れてるよ。」
ツキにそう言われて二人はまた大笑いした。
レティシアはすぐに浄化魔法をかけた。
服もハンカチもまるで新品のようになった。
「ありがとう、レティ。」
ユウリはニッコリと笑ってレティシアを見た。
レティシアはなんだか恥ずかしくなって顔を背けた。
「ねぇ、レティ!ユウリもいろんな属性持ちみたいだね!」
ツキは少し興奮気味だった。
土魔法と風魔法も試してみることにした。
「土魔法はね、大地を動かす感じ。こう、ボコッとね。」
ツキはそう言って地面を掘って山にした。
「ボコッとね。」
ユウリはそう言ってツキのまねをした。
急に3人は穴に落ちた。
「ごめん、やり過ぎちゃった。」
それはユウリが掘った穴だった。
「ユウリ、おもしろい!!」
ツキは泥だらけになって喜んだ。
「風魔法はね、シュッとやったり、ふわっとやったり、1番好き!飛べるし!」
「風魔法で飛ぶんだね?」
穴の中でツキの授業は進んでいた。
レティシアは早く穴から出してほしかったが二人が楽しそうなので待つことにした。
「飛ぶのはね、こう、自分とか飛ばしたいものに風をまとわせるっていうか、ぐるぐるってやつをくっつけるっていうか。ちょっとコツが必要なんだよね。」
「うんうん。」
ユウリはわかっているのかわからない返事をした。
「やってみるよ。」
レティシアはなんだか嫌な予感がした。
瞬時に落下ダメージを受けないような結界を張った。
「飛べ!」
ユウリがそう言うと3人は真上に高く舞い上がった。
「やったー!」
ツキは喜んだが次の瞬間、地面へと落ちた。
「あれ?痛くないね。」
ツキはそう言ってレティシアを見た。レティシアは小さく頷いた。
「レティが痛くない魔法を使ってくれたみたい。」
「ありがとう、レティ。下手くそでごめんね。」
「ううん、ユウリは魔法の天才みたいだよ。」
レティシアはまた浄化して服の汚れを落とした。
「お母さんみたいになれるかな?」
ユウリは屈託のない笑顔で二人に聞いた。
「もちろん!」
二人は声を揃えてそう言った。
「でもまだハンナの前で魔法を使わないほうがいいわ。」
「どうして?」
「まだ使いこなせてるとは思えないでしょ?学校に入れられちゃうかもよ?ユウリは学校に行きたい?」
レティシアにそう言われてユウリは少し困った顔をした。
「学校って何?」
「先生がいて、勉強を教えられるところ。」
レティシアは前世での学校生活を思い浮かべた。
優等生じゃなかったレティシアの前世の記憶はあまり楽しいものじゃなかった。
「よく知らないけど、家族と離れて寮に入って勉強するんだって。」
「レティとツキは学校に行く?」
「行かない。」
「じゃあ私も行かないよ。」
ユウリはそう言ってニコッと笑った。
「じゃあ特訓だ!」
レティシアがそう言うとツキは「おー!」と腕を上げた。ユウリもすぐに真似をして「おー!」と言った。
それから毎日少しずつ、3人は森で魔法の特訓をした。
ハンナには秘密である。時々服が破れたりして怪しまれたが「木登りをした」とか「転んだ」とかごまかした。
ハンナは「危険な遊びは禁止」と言ったがユウリが日に日に元気でたくさん喋る子になっていって喜んでいた。
ハンナはユウリのいないところでレティシアとツキに「変なことは教えないでよ!」と釘を刺されていた。二人は無言で首を縦に振った。
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「光属性の魔法はどう?ハンナの息子なら遺伝してるかもよ。」
レティシアは、なんの気なしにそう言った。
しかしユウリは光属性を持っていないようだった。
「遺伝って何?ないと変?」
ユウリは不安そうな顔になってレティシアに問いかけた。
「変じゃないよ!ほら、ユウリの瞳はハンナと同じ濃いブルーでしょ?家族って似たところがあるの。それが遺伝だよ。でも違っても大丈夫。全く同じになんかならないから。」
レティシアはこんな説明でわかるのか少し心配だった。
「なるほどね。私はお母さんから瞳を引き継いだんだね。」
ユウリはそう言って嬉しそうに笑った。
レティシアはその横顔を見てドキドキしている自分に気がついた。
レティシアはツキの方へと視線を動かした。
ツキは地面を掘って虫を探しているようだった。
「魚釣りに行こうよ。」
3人は森にある小さな小川に向かった。
ツキはカバンから釣り竿を出して釣りを始めた。
レティシアもカバンから釣り竿を出してユウリに渡そうとした。
その時足元の岩で滑って転びそうになった。
ユウリはレティシアを両手で受け止めてお姫様だっこのようになってしまった。
「キャッチした。」
ユウリはそう言って嬉しそうに笑った。
レティシアは心臓が飛び出そうになった。慌てて下ろしてもらい釣り竿をユウリに押しつけた。
ユウリは「ありがとう」と言ってツキの隣に行き釣りを始めた。
レティシアは顔が赤くなっているのに気がついて二人に背を向けた。
《まるで王子様じゃない!》
レティシアは気がついてしまった。
ユウリは背が高くて優しくてとても美しい青年だった。
《イケメンすぎる!!》
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