第64話
夕日が沈もうとしていた。
オレンジ色に照らされた山々はなぜか神々しく感じた。
レティシアたちはそんな美しい空をぷかぷか浮いていた。
ハンナは空飛ぶ馬を呼ぶ魔力もなく、文句も言えずにただ自分の息子だという少年を離そうとしなかった。
ルルは眠らされていた祭壇ごとなぜか飛んでいる。
その祭壇はベッド2つ分くらいの大きさがある。レティシアはちゃっかりルルの隣に座っていた。
ツキはルルの赤ちゃんを驚かせないようにとゆっくり飛んでいる。祭壇も赤ちゃんが不必要に風にあおられないためなんだと言った。
レティシアにはよくわからなかったが、疲れすぎていて話もできなかった。
ツキは黒いおかっぱの髪の毛がクルクルになってアフロヘアーになっている。それでもツキはご機嫌でみんなをピーツの城まで運んでいた。
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城の美しい庭にドンッと祭壇を降ろした。
美しく磨かれた石で、横には彫刻も施されている。
音に気がついた兵士たちが集まってきて庭は騒然となった。
ボロボロのレティシアたちが帰ってきたのである。
レオハルトは驚き、すぐにカイとケリーを呼びに行かせた。
「ルル…。」
レオハルトは祭壇に座るルルの元へと走った。
「レオハルト様、ご心配を…。」
ルルが謝ろうとするとレオハルトはルルを抱きしめた。そしてお腹を撫でて「大冒険だったのかな?」と言った。レオハルトはお腹の赤ちゃんも無事なのを確認してルルを抱きかかえた。そして城の中へと入って行った。
レティシアとハンナと少年は兵士たちに城の医務室に連れて行かれた。
そこにはノンノンがいた。
「レティシア様!ハンナ様も!!」
ノンノンは驚き、すぐに回復魔法をかけてくれた。
体は元気になったようだが魔力は回復しなかった。
ハンナもそれは同じようで、やっと少年を離したが寝ているベッドから離れようとしなかった。
「抜け殻だから大丈夫。」
ツキはそう言って少年を見てニコッと笑った。
カイとケリーが迎えに来てくれた。
レティシアは二人に抱きついてわんわん泣いた。
「怖かったよ。」
恐怖だけではない、いろんな感情がレティシアの中でぐるぐるしていて言葉にできなかった。
カイはそのままレティシアを抱き上げ、ケリーはツキと手を繋いだ。
ノンノンに感謝を伝え、4人は家に帰った。
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レティシアは3日間眠ったまま起きなかった。
ツキたちは心配したけど何もできなかった。ケンも静かでカバンから出てくることはなかった。
ツキはずっとレティシアに付き添っていた。
「レティ、今日は面白い話をするね。
ある人間の話なんだけどね。その人、私を気に入ったみたいでいつも美味しいものをくれてたんだけどね。
ある日、泣きながら私のところに来たの。もう終わりだとか、死ぬしかないとかずっとそんなことを言ってね。
私の隠れ家の物置でずっとそんな話をしてね。その人、疲れてそのまま寝ちゃったの。
その人、会社の大事なものをなくしたって言ってたの。だから私、探してあげようと思って。その人の会社はすぐ近くにあってね、だから会社の近くを探したの。かわいい猫のキーホルダーがついてるって言ってたからね。
そしたらね、会社の近くの公園のベンチの下のね、水が流れていくところがあるんだけど、そこに猫が見えてね、見えるけど私には入ることができなくて、手を一生懸命伸ばしたけど取れなくて。
そしたら近くにいた子供が来てね、その猫を取ってくれたの。私はすぐに物置に戻ったわ。でもその人いなくなっててね。
待ってたらたくさん荷物を持ってきてね、それが全部私のためのご飯だったの。私の好きなちゅーるもたくさんあったわ。
そして言ったの「全財産を君にあげるよ」って。
私はすぐにその人が探してた猫を渡したわ。そしたらすごくびっくりしてね。私を抱き上げてキスしようとしたの。私は反射的に引っ掻いちゃったんだけど、その人は大喜びでね。すぐにどこかに行っちゃった。
それで残ったご飯なんだけどね、私には缶を開けられなかったし、ちゅーるも一人じゃうまく食べられなくて。
踏んだり蹴ったりでしょ!目の前にごちそうがあるのに食べられなかったのよ!」
ツキはそう言ってクスクス笑った。
「それのどこが面白い話なの?」
レティシアがクスクス笑っていた。
ツキはビックリしてレティシアを見た。
「レティ!!目を覚ましたのね!!!」
ツキはすぐにカイたちを呼んだ。
「レティ!よかった!!」
3人は泣いて喜んだ。レティシアもつられて一緒に泣いてしまった。
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目を覚ましたレティシアはモリモリとご飯を食べた。
ケンもフラフラとカバンから出てくるとケリーに美味しいものをせがんだ。
「頭クルクル!なんだそれ!」
ケンはツキの髪の毛を見て楽しそうに笑った。
「変かな?気がついたらなってたんだけど。」
ツキは自分の頭を両手でワシャワシャと触った。
「変っていうか…。まぁ、変かもね。」
レティシアはそう言って堪えきれずに笑ってしまった。
カイとケリーも「変だよ!」と言って大笑いした。
ツキは「そっか」と言っていつもの姿に戻した。
「なんだよ、戻せるのかい!戻せないと思って触れないようにしてたのに!」
カイはそう言ってまた大笑いした。
ツキは笑われてるのになんだか嬉しそうだった。
「レティ、起きたら城にツキと来てって言われてるんだけど行けそうかい?」
ひとしきり笑ったあとでカイは真面目な顔に戻ってレティシアに聞いた。
「うん。行くよ。」
レティシアは頷き、ツキも頷いた。
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城に行くと会う人たちがみんな笑顔で頭を下げた。
「レティシア様、ツキ様、ありがとうございました。」
みんなは二人を英雄かのように扱った。
ルルとその子供を、この国の未来を助けたと国民たちは感謝しているのだった。
「レティ!ツキ!」
ルルは大きなお腹を抱えて嬉しそうに手を振った。
元気そうなルルを見て二人は目を合わせて微笑んだ。
「遅くなってごめんなさい。なかなか起きれなかったみたいで。」
レティシアはそう言ってエヘヘと笑った。
ドアをノックする音が聞こえ、ハンナが入ってきた。
「やっと揃ったね。じゃあいろいろ聞かせてもらおうかな。」
レオハルトはにこやかにみんなに椅子に座るように言った。
「まずはツキ、助けてくれてありがとう。」
ハンナはツキの手を握りしめた。
ツキは「うん」と嬉しそうに頷いた。
「ルルのいた部屋の窓に黒いやつの痕跡があったの。それの気配を追いかけたらチュンバ国の南にある山脈に行き着いてね、谷になっているところに洞窟があったの。
中には魔物とか魔族とかいっぱいいてね、ツキが全部やっつけてくれて…。どんどん進んでいったら広い部屋みたいなところに出てね、そこに祭壇があって、あ、庭にあるやつね。」
ツキがルルを乗せて運んだ祭壇は今でも城の庭にある。
「そこにルルが寝かせられていて。助けようとしたら男の子が出てきたの。その子は自分を魔王って言ってた。それで、倒そうとしたの。そしたらハンナが止めてね。」
レティシアはそこまで言ってハンナを見た。
「直感でその子が赤ちゃんの時に誘拐された息子だってわかったんです。額にあった傷も同じでした。それを見て確信しました。」
「それで倒すに倒せなくなっちゃって。」
ツキは肩をすくめた。
「私、パニックになっちゃって、今がんばらないと!って思っちゃって、それで攻撃魔法を試してみたんです。そしたら思いのほか効果があって。ルルの方にその子が行こうとして…。ツキが間に入っちゃって…。ツキの体をその子の腕が…腕がツキを…貫通して…。」
レティシアはその時のことを思い出してまた怖くなった。
「それで私、ツキが死んじゃったと思ったんです。それで…自分でもよく覚えてないんだけど…。とにかくすごく怒ってました。許さないって。
それで…。殺してやるって思っちゃって…。とんでもない光の塊ができちゃって、それをその子に向かって投げ飛ばしたんです。
そしたらハンナがその子を助けようとして…。
私の攻撃がハンナにも当たっちゃって…二人はまる焦げになって…。二人とも死んだと思いました。
ツキが倒れていた方を見たらツキもいなくなってて…。」
レティシアは堪えられなくなって泣いてしまった。
「みんなを殺しちゃったって…。私…。」
「アレがルルを狙ったとき、私は確かにアレの攻撃で体に穴が開きました。でもそれはわざとっていうか、自分で体に穴を開けたんです。
私、そういう魔法が使えるんです。」
ツキはあえて自分が魔族であるとは言わなかった。
レオハルトはツキの規格外さを知っているので今さら驚くことはなかった。
ツキならなんでもありえるという認識でいたからである。
「レティシアの様子がおかしくて、助けようとしたんだけどすごい威力で…私も動けなくて。
次の瞬間やばいと思ってハンナを助けようとハンナに覆い被さったんです。レティが見た黒焦げは私です。」
ツキは信じられないようなことを言っていた。
「私はツキをまる焦げにしたってこと?!」
レティシアは驚いてツキを見た。
「正確には私の一部分がまる焦げになった。かな。あんなに焦げると思ってなかったんだけどね。レティすごかったよ!」
ツキは嬉しそうにそう言った。
「とにかく、私の一部分がちょっと燃えただけでみんなは大丈夫だったの。
それで、レティの攻撃でね、私の一部分がアレの中に入っちゃって…。私もよくわからないんだけど、魔王がいたの。黒いやつが。弱ってたから捕まえてペンダントに入れたの。」
ツキはそのペンダントをレオハルトに見せた。
「魔王がそこにいると?」
レオハルトは眉間にシワを寄せてペンダントを眺めた。黒いモヤモヤが渦巻いて見える。
「倒し方がわからないの。だからとりあえずここに入れたの。」
ツキはドヤ顔でそう言った。
沈黙が訪れた。
みんなはツキの話が規格外過ぎて飲み込めないでいた。
「ツキ、すごいね!」
レティシアはそう言ってツキを抱きしめた。
「ハンナたちを私から守ってくれてありがとう!」
レオハルトはそれを聞いて考えても無駄だと判断した。
「ツキがやることは普通の人間には理解できないようだ。とにかくみんな無事でよかった。ルルを、そしてお腹の子供を助けてくれてありがとう。」
レオハルトはそう言って笑った。
「ハンナ、その後息子さんは?」
レオハルトの質問にみんなの視線がハンナに向かった。
「あの子は…、ユウリと言います。今までどうしていたのか…。まだ目が覚めないので聞けてないんです。」
ハンナは何度も回復魔法をかけたと言った。しかし効果があるようには思えないと言った。
「もう脅威はないんだね?」
レオハルトの質問に3人は「ない」と頷いた。
「わかった。ユウリは引き続き様子を見よう。ハンナに任せるよ。」
「ありがとうございます。」
話し合いが終わろうとしたとき、立ち上がろうとしたルルが叫んだ。
「生まれるみたい!!」
ルルの足元は濡れていた。破水したようだった。
城内が一気にバタバタとした。
ルルの赤ちゃんが生まれる。
この国の希望の象徴のような存在が生まれようとしていた。
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