第63話
レティシアは混乱している。
ルルを探してチュンバ国の山脈地帯にある洞窟のような場所に来た3人。
中には魔物や魔族が住んでいた。ツキはそれらを倒し、3人は奥へと進んでいった。
やっとルルをみつけた3人の前に1人の少年が現れる。
その子は自分を「魔王」だという。
それが本当ならツキのときのように体を乗っ取られているのだろう。
しかしレティシアの浄化が効かない。
ツキはこの人間ごと倒すことを提案した。
するとハンナはそれを止めた。その子が自分の息子だと言うのだ。
ハンナに子供がいたなんて初耳だった。
しかしよく考えればレティシアはハンナの乳母だった。都合よく好きなときに母乳を与えられるとは考えにくい。
あの時、ハンナは出産したばかりか、自分の赤ちゃんに母乳を与えていたのではないか。
目の前に立つ少年はレティシアとそんなに年齢が変わらないように思う。
まるでパズルのピースを1つずつはめていくような、変な感覚があった。
ツキはレティシアを見た。レティシアは小さく横に頭を振った。ツキは小さく頷いた。
ツキは少年の攻撃を避け、魔法をあてて相撃ちにさせることしかできないでいた。
「おやおや、私が強くなりすぎましたかね?もうあなたに負ける気がしないのですよ。」
「ルルを返せ!!」
ツキは倒せないならルルだけでも連れて帰りたかった。
ルルに近づこうとするとに何か衝撃のようなものを受ける。相手もルルに結界を張ったのだろう。
「魔族は王族と呼ばれる血の持ち主に弱くてねぇ。それを克服するために私は血が欲しいのだよ。」
少年はそう言って不気味な笑顔を見せた。
「ユウリ…。やめて…。」
ハンナは泣くばかりで何もできないでいた。
少年はハンナを見た。
「お前がこれの母親か。なるほど、かなりの魔力持ちだな。いい器を産んでくれて感謝する。」
少年はニヤリと笑って見せた。
「ユウリを返して…。魔族なんか…魔族なんかのためにユウリは生まれてきたんじゃないわよっ!!」
ハンナの勢いで少年は体をぐらつかせた。少し驚いた表情になった。そしてその顔は冷たく殺気を帯びた表情へと変わった。
レティシアは《ハンナを守って》と祈った。
少年は泣き叫ぶハンナの目の前に立ち首を掴んだ。
「やめて!!」
レティシアは助けようとしたが少年によって弾き飛ばされてしまった。
横を見るとツキも同じようだった。
「母親か。いいじゃないか。私の養分になるがいい。」
少年はハンナの首をぎゅうぎゅうと締めた。ハンナは苦しそうな表情を浮かべていたがその目は少年を睨みつけていた。
ハンナが抵抗しているのか結界が効いているのかわからないが少年は少し焦っているようだった。
レティシアはツキを見た。二人は小さく頷いた。
二人は少年に向かって魔法を放った。
ツキの拘束魔法が当たり、少年はハンナの首を離した。ハンナはその場に倒れ込んだ。
レティシアの頼りなさそうな光属性の攻撃魔法はフラフラと進み、一瞬拘束された少年に当たった。
「ヴァァアーッ!グウァア…」
少年は悲鳴をあげた。
「やめて…。ユウリ…。ユウリを傷つけないで!!」
ハンナはレティシアとツキを睨みつけた。
そして二人に向かって光の刃を飛ばしてきた。
ツキはハッとしてレティシアを掴み飛び上がった。
ツキの服が破れて血が流れていた。
レティシアは「ごめん」と言って回復魔法を使った。
「ハンナ!しっかりして!!」
レティシアの叫びはハンナに届いていないようだった。
少年は地面に四つん這いになり苦しんでいる。
ハンナは休むことなく二人に刃を放ってきた。
ツキはレティシアを抱えてそれを避けた。
レティシアはハンナに浄化の魔法を使ったが効果はなかった。
ツキはしかたなくハンナに拘束の魔法を使った。
ハンナは芋虫のようになっても二人を睨みつけていた。
少年はまだ苦しそうに悲鳴をあげている。
「ハンナ…。もうどうしたらいいかわからないよ…。」
レティシアは睨みつけるハンナを抱きしめた。
ハンナはやめろとでも言いたそうに口を歪め、レティシアを睨みつけている。
「ハンナ…。辛かったんだね。何も知らなくてごめんね。」
レティシアはもがくハンナを抱きしめて涙を流した。涙はレティシアの頬をつたってハンナの頬に落ちた。
ハンナはその瞬間ピタリと動かなくなった。
ハンナの瞳から怒りが消えたように見えた。
ツキはハンナの拘束を解いた。
「レティ、ツキ…。ごめんなさい。私…、私いったいどうしちゃったのかしら?」
ハンナは二人を抱きしめて何度も謝った。
「ハンナ、大丈夫だよ。さぁ、ユウリを助けよう。」
ツキはそう言って、のたうち回っている少年を見た。
ハンナは頷いた。
レティシアはハンナの手を取った。
レティシアはハンナを連れて少年の前に立った。
「やめろ!来るな!!」
少年は後ずさりをしてフッと上を見た。そしてルルのところへ飛んでいった。
「ルル!!?やめて!!」
レティシアは高いところにいるルルのところへ行けなかった。
ツキはルルの前に立ちはだかった。
「どけ!!」
少年はフラフラと浮かび、ルルに向かって手を伸ばした。
ツキは避けなかった。
少年の腕がツキの体を貫いた。
「イヤァァーーーっ!!ツキ!!!」
上空で起こっているそれを見てレティシアとハンナは悲鳴をあげた。
少年の手がツキを貫いてルルに届こうとしていた。
レティシアは今までにない激しい憎悪を感じていた。
《許さない!!!》
レティシアは少年に向かって手を振り上げた。
レティシアの掌から見たこともない光の塊が出てきて少年に向かって飛んでいった。
少年はそれに気がつき、ルルに向けていた手を引いた。光の塊は少年から外れ、向こう側の壁に当たった。壁はすごい音を立てて崩れた。
その拍子にツキはドサリと地面に落ちた。
レティシアはそれを見てさらに怒りを覚えた。
《お前だけは許さない!!!》
レティシアの髪の毛は逆立ち、金色のオーラが燃えるようにレティシアのまわりを包み込んだ。
少年は震えていた。
「来るなっ!!!」
明らかに怯えた目をしていた。
レティシアはどんどん後ずさりをする少年にジリジリと迫っていった。
レティシアは両手を上に上げて大きな光の塊を作った。
そしてそれを放った時、少年の前に何かが飛んできた。
ハンナだった。
レティシアの放った大きな光の塊はそのまま少年にぶつかった。おそらく、ハンナにも。
当たった衝撃で部屋の中は光り、眩しさにレティシアも目を細めた。
「ハンナ?!」
レティシアはハンナが出てきた方へ歩いた。
そこには焦げたハンナと少年がいた。
ハンナは少年を守るように抱きしめていた。
「イヤーーーっ!!!」
レティシアはまる焦げになったハンナと少年を見て泣き叫んだ。
レティシアはツキが倒れている方を見たがツキの姿もそこにはなかった。
静かな部屋の中でレティシアの泣き叫ぶ声だけが響いた。
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レティシアは絶望し、その場に泣き崩れた。
こんなに自分のポンコツさを恨んだことなどない。
自分はなんてことをしてしまったんだ。
「レティ!やったね!」
突然ツキの明るい声が聞こえてきた。
レティシアは幻聴だと思った。
「ツキ…。私…。もうだめかも…。」
ツキもハンナもいないなんて考えるだけでも生きていけないとレティシアは思った。
「何言ってるの?魔王を捕まえたよ。」
レティシアの目の前で見たことのあるペンダントがブラブラと揺れていた。
レティシアはそれをただみつめていた。
自分は今何を見ているのだろうかと、ボーッと揺れるペンダントを眺めた。
ペンダントの中に黒い何かが渦巻いているのがわかった。
レティシアは驚いて起き上がり、ペンダントを手に取った。
「その中に入れたんだよ。魔王!」
レティシアが顔を上げると真っ黒になったツキが満面の笑みでこっちを見ていた。
ツキのキレイなストレートの髪の毛が今はクルクルとカールしていた。
「ツキなの?生きて…るの?」
レティシアはツキの体に穴がないかを確かめた。
服には穴があったが体にはなにもなかった。
「レティ…?」
ハンナの声がして振り返ると少年を抱きしめたままのハンナがそこにいた。
さっきまでまる焦げだったのに煤けて汚れているだけに見えた。
「ユウリ?!」
ハンナは自分が抱きしめていた少年の存在を思い出し、顔をペチペチとやって生きているのかを確かめた。
少年は一瞬目を開け、そしてまた目を閉じてしまった。
ハンナは回復魔法をかけようとしたがダメだった。どうやら魔力切れのようだった。
それはレティシアも同じで、体に力がまったく入らなかった。
「俺様もダメだ。レティに魔力を吸われた。」
カバンから顔を出したケンが苦しそうにそう言ってカバンに戻っていった。
ツキはそんなみんなを見て「やれやれ」と言った。
そしてペンダントを自分の首にかけるとみんなを風魔法で浮かせた。
ルルは祭壇の上で目を覚まし、驚いていた。
「なにこれ?!ここはどこ?!!ツキ?!!!助けて!」
ルルは祭壇の上からツキをみつけて叫んだ。
「ルルは赤ちゃんがいるから…帰りはゆっくりにするね。」
ツキはそう言ってにっこり笑った。
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