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第62話

ハンナたちが城に戻ってからすぐに戦場はツキたちによって鎮圧された。

次から次へと出てきていたチュンバ国の兵士たちは打ち止めのようだった。

チュンバ国が用意していたと思われる改造された魔物たちは、すべてツキが倒してしまった。


その頃にはサツロ国の本隊が合流していた。

ビルトは「このまま進軍する」と言った。

レティシアはハンナたちが心配で早く帰りたかった。

それを察したのかツキが「先に帰る」と言い出した。

ビルトはレティシアとツキに感謝を伝えると、騎士団メンバーたちと進軍して行った。


「嫌な予感がする。飛んでいくけどいい?」

ツキが嫌な顔をしていた。レティシアは「私も早く帰りたい」と言ったのでツキはレティシアを掴むと風魔法で城へと向かった。


────


城に着くと様子がおかしかった。

兵士やメイドたちがバタバタと走り回っている。

レティシアとツキは嫌な予感が当たってしまったと、目を合わせた。


レオハルトのところへ行くといるはずのルルがそこにいなかった。

「ルルが…何者かに誘拐された…。」

レオハルトはそう言ってレティシアとツキの手を取った。

「探すのを手伝ってほしい!」

二人は「もちろん」と言って頷いた。


ハンナは目撃証言をまとめていた。

「黒い塊が空から飛んできてルルを包み込んだんだって。そしてそれは窓から外へ飛んでいったみたい…。」

レティシアたちはその窓をみつめた。

「魔族だね。」

ツキは怒っているような悔しがっているような、複雑な表情でそう言った。


窓の枠は燃えかすがついたかのように黒くなっていた。

レティシアはそれを指で拭って、それの気配を探そうとした。ツキもそれに気がついて同じように探った。


その痕跡はすごく嫌な感じがするものだった。

強い魔力の残留物なのか、レティシアたちはそれを追うことができそうだった。


「ちょっと見てくる。」

ツキはそう言って一人でどこかに飛んで行ってしまった。

レティシアは気配を感じる方角を指差して「この先には何があるの?」とハンナに聞いた。

ハンナは城にある地図を見せてくれた。


レティシアは南東を指差していた。

南東はちょうどチュンバ国の南側にあたる。

大きな山脈地帯で人が住んでいるとは思えない土地だった。

「そこにいるの?」

ハンナは険しい顔で地図をみつめた。

「わからない。でもその方角に黒いやつは飛んでいったと思う。」

レティシアにも自信があるわけではなかった。

しかし今は何も情報がない。可能性が少しでもあるなら行ってみたい。


────


「ただいま。」

レティシアたちが地図を眺めているとツキが戻ってきた。

「多分、山に行った。」

レティシアは地図の山脈を指差した。ツキは「うん、そこ」と頷いた。


ハンナはレオハルトに報告をした。

「レティシアたちと一緒に行ってきます。」

「僕も行くよ。」

レオハルトは今にも倒れそうな顔をしていた。

「レオハルト様は城でお待ちください。他に情報が入るかもしれません。」

ハンナはまた出し抜かれる可能性もあるとレオハルトに伝えた。

今回の国境での攻撃は囮で、ルルが本命だったのではないかとハンナは考えていた。


「わかった。ルルを…、ルルと子供を探してくれ…。」

レティシアたちは小さく頷き、すぐに出発した。


────


ハンナの空飛ぶ馬はツキの魔法でいつもより速く飛んでいた。

本当ならツキが二人を掴んで飛ぶのが一番早いのだが、ハンナに拒否された。

ツキは不服そうだったが、レティシアも馬に乗るほうが安心できる。


チュンバ国の南に位置する山脈地帯はかなり広く、国の1/4くらいの面積を占めている。

高度もかなりあるようで火山灰土が多く見られ、植物はほとんど見られなかった。

植物がないということは動物も生息していないだろう。


こんな何もないところに出産をひかえた妊婦がいるなんてひどすぎるとレティシアは怒りを覚えた。

「どこだろうね。」

ツキは気配を感じながら慎重に進んでいく。

山と山の間の谷になっている場所が怪しいとツキは言った。レティシアも同じ考えだった。

レティシアは気配を消す結界を張った。


谷を降りていくと岩肌にポッカリと穴が開いているのがわかった。

洞窟の入口だった。


入口の辺りに何かがいる気配はない。

3人はゆっくりとそこに降りた。

静かに入口から中に入っていく。


魔物が次から次へと出てくる。こんな場所に住んでいるのは考えにくい。どこかからわざわざ連れてこられたのだろう。

3人はここで間違いないだろうと確信した。


ツキは静かに魔物を倒していった。

少し進むと魔物は出てこなくなり、代わりに見回りをしているような人っぽい何かが歩いていた。

目がギョロっとしていて人間のそれとは何かが違う見た目だった。

ツキは一体ずつ捕獲して縛り上げた。

人間ではないことを確認するとツキはすぐに燃やして灰にしてしまった。


ツキに魔族を殺させるのはレティシアにとって心が痛むことだった。


ツキは魔族だから─。


しかしツキはそんなこと関係ないという勢いで目の前に現れる彼らをこちらに気づかれる前に殲滅していった。


洞窟はまるで迷路のようになっていた。

レティシアたちはルルの気配を追って進んでいく。

さらに進むとなんだか様子が変わってきた。

さっきまで洞窟だったのがきれいに整えられてどこかの廊下のようになった。


扉まで現れてどこかの屋敷の中のようだった。

おとなしくしていたケンが急に出てきて、「ダメだ!進むな!」と言い出した。

何か強い敵がいるのだろうとみんなは構えた。

レティシアはそっとカバンにケンを戻した。


廊下にはたくさんの扉がある。

部屋の中は粗末な家具が置かれ、生活の痕跡があった。魔族はここで暮らしているのだろうとわかるものだった。

その中でひときわ嫌な空気を纏っている扉をみつけた。

他の扉と違い、大きくて両開きで立派な扉だった。

レティシアとツキは目を合わせて頷いた。

ツキはゆっくりその扉を開けた。


────


扉の先は広い部屋だった。天井も高く、大きな柱が何本も立っていた。

中央に祭壇のような大きな石のテーブルのようなものが置かれ、その上にルルが寝かせられていた。

叫びそうになったツキをレティシアは止めた。

まずは部屋の中の様子を確かめたかったのである。


見えるところにルル以外の人影はなかった。

レティシアは《トラップ解除》の結界を張った。

静かに少しずつルルに近づいていく。


あともう少しというところで祭壇が急に動き出した。

ルルの体は祭壇と共に上に上がっていった。


「また会えましたね。」

見たことのない少年が現れた。

青白い顔をしてひょろひょろしている。

「あなた誰?」

レティシアはその少年を睨みつけた。


隣ではハンナが震えているように見える。

「私は魔王、やっと私のための肉体が育ちましてね。」

少年はそう言ってニヤリと笑った。

「魔王だかなんだか知らないけど、ルルを返して!」

レティシアは少年の方へと進んでいった。


ツキはなぜか動かない。

ハンナは目に涙をためている。

レティシアはこの状況に戸惑った。


「あなた…。ユウリでしょ?ねぇ、そうでしょ?」

ハンナは急にそう言って少年に掴みかかろうとした。

少年はスッと避けてハンナは転んで祭壇にぶつかってしまった。ハンナはそれでも少年をみつめ、「ユウリ」と何度も話しかけている。


ハンナのぶつかった音でツキはピクッとして動き出した。

「大丈夫?」

レティシアはツキの顔をのぞきこんだ。

ツキはかすかに震えていた。


レティシアは今この部屋で正気なのは自分だけかもしれないと思った。

今自分が頑張らなくてはルルを助けるどころか全滅してしまうんじゃないかと思った。


レティシアは魔王と名乗るそれが目の前にいる少年に取り憑いていると思った。

《その少年を解放して》

レティシアは少年の瞳の奥にある黒い何かを睨みつけた。


「残念だね、この子はもう私のものなのだよ。」

そう言われてレティシアは浄化の魔法が効いていないと察した。


ツキは少年を拘束しようと魔法を放ったが少年はその魔法を途中で消滅させた。

「倒していい?」

ツキがそう言うとハンナが大声で「やめて!!」と言った。

二人は驚いてハンナを見た。ハンナは涙を流しながらこう言った。


「その子は私の息子のユウリです。間違いないわ。」


少年はハンナをちらっと見て鼻で笑った。

「それは奇遇ですね。」


────


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