第57話
チュンバ国の降伏が成立した。
サツロ国はこれ以上の侵攻をしないことを条件にブドウ畑と茶畑をこちらのものとする約束をした。
戦争は終わったが国交が回復するとは思えなかった。
サツロ国はチュンバ国を信用していないようだった。いきなり和平ということはありえないという構えだった。
サツロ国王はもらったブドウ畑をレオハルトに与えてくれた。
「レティはそんなにブドウが好きなのかい?」
レオハルトはニコニコとレティシアに聞いた。レティシアがブドウ畑が欲しいと言っていたからだ。
「あのね、お酒を作って名産品にしたらどうかなって。仕事が無い人も助かるし、貴族に売れたらいいお金にもなると思うの。」
レオハルトはお酒を作るという言葉がレティシアから出てくるとは思わなかった。
「いいわね!やりましょうよ。」
ルルはすぐに賛成してくれた。
「ケリーとツキと一緒に試作品を作ってみようと思うんだけど…。」
レティシアはそう言ってカイを見た。
「終戦したからな、ツキを自由にしてやらないとな。」
カイがそう言ったのでツキは喜んだ。
「レティと一緒にいられるね!」
「うん!」
こうしてレティシアたちはお酒作りをすることになった。
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大きな桶にたくさんのブドウ。
甘くていいにおいが漂っていた。
「ブドウがお酒になるの?」
ケリーは不思議そうにブドウを眺めた。
「ワインっていうお酒になるはず。もっと時間をかけたらブランデーっていうお酒も作れると思う。」
レティシアは前世でお酒を作る工場を見学をしたことがあった。
詳しくは覚えていないがブドウだけあればワインになるという記憶がある。
レティシアはまず、ツキに協力してもらって木を加工して樽を作った。
水を入れても漏れないようにするのは不器用なレティシアにはとても難しいことだった。
ツキの協力でなんとか出来上がった。
その樽を煮沸消毒してその中にブドウを絞った汁を入れた。
「これでいいの?」
ケリーは不思議そうに樽を眺めた。
「あとは天然の酵母っていうやつがブドウの汁をお酒にしてくれる…はず…。」
「腐りそうだから涼しいところに置きましょう。」
ケリーは地下に作っていた倉庫に樽を置いてくれた。
「いつできるの?」
「多分一年とか放置するんだと思う。」
二人はやることがなくなってしまい、暇になってしまった。
「あの洞窟でも見に行ってみる?」
「いいね。」
二人はあのネズミと戦った洞窟を見に行くことにした。
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タルの町へと続くトンネルは今では誰でも使えるようになっていた。
鉱脈を探したような痕が何ヶ所もあったが、みつけたようなえぐられている場所はなかった。
レティシアたちは洞窟の入口まで来た。
この洞窟にも人が入ったような痕があった。
「みつかっちゃったみたいだね。」
「何もないからいいけどね。」
二人はそう言いながら中に入ってみた。
洞窟の中も誰かが何かを探して掘ったような場所が何ヶ所もあった。
左側の道は何も変わっていないように見えた。
魔物も獣も何もいないようだった。
ツキは少し残念そうだった。
「やっぱり何もないね。」
レティシアが帰ろうと言いかけたとき、レティシアは何かを踏んでしまった感触があった。
足を上げるとカチッと音がした。
レティシアの足元にピンク色の魔法陣が現れた。
「レティ?!」
ツキが近づこうとすると魔法陣が光り、ツキは一瞬眩しくて目を閉じてしまった。
ツキが目を開けるとレティシアは消えていた。
そこにあったはずの魔法陣もきれいに消えていた─。
ツキは半べそをかきながらレティシアを探し回った。レティシアはどこにもいない。
家に帰り、ケリーに報告して、カイに知らせて、みんなで探したけど、どこにもいなかった。
レオハルトは兵士にも応援を要請し、寝ずの大捜索が行われたがレティシアの痕跡すらみつからなかった。
ツキは半狂乱になり、洞窟を魔法でくり抜く勢いで掘ったが鉄や銅が出てくるだけだった。
一週間が経ち、レオハルトは兵士を捜索から引き上げた。
ハンナは魔法陣のことを調べると言ってサツロ国の図書館へ行ってしまった。
「転移の魔法陣ならどこに飛ばされたかわからない」とハンナは言っていた。
あてのない捜索は無理がある。
ツキは「レティを探しに行く」と言って家を出た。
カイもケリーも止めたがツキの意思は固かった。
ケンがいつ出てきてもいいようにとカバンには絵本を入れていた。しかしそのケンも出てこない。
ツキはレティシアの気配を探ったが全く何もなかった。
今までそんなことはなかった。
ツキはまるでひとりぼっちになってしまったような、そんな気分だった。
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レティシアは洞窟で魔法陣を踏んでしまってから、体がねじれるような感覚のあと真っ暗な場所に閉じ込められていた。
ケンは呼びかけても出てきてくれない。
肩からかけていたはずのカバンもなくなっていた。
とても狭くてなんだか息苦しい場所なのに、お腹が空いたりトイレに行きたくなったりしなかった。
時間の感覚がなく、今が昼なのか夜なのかもわからない。
自分の息づかいしか聞こえない。
とても孤独だった。それなのに涙も出なかった。
《死んでしまったのかな》
疑問に思っても答えてくれる人はいない。
感情がなくなっているように思った。
何をしても変わらない。やるだけ無駄だ。
レティシアは目を閉じた。
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ハンナは図書館で魔法陣に関する本を読みあさっていた。
魔法陣にはトラップとしての効果がたくさんの種類があり、ツキの話を聞くとレティシアが踏んだのは転移の魔法陣である。
かなり高度な魔法陣でそこらへんの魔法師では使いこなせない。
ハンナは犯人が魔族ではないかと睨んでいる。
魔族は絶滅させられたと言われているが、すでに10数体確認されている。
いずれもレティシアが石化して、燃やされて灰になっている。
ツキくらい強い魔族はかなりレアで、普通の魔族は魔法が少し使える程度から変身ができる程度で、単体ではそこまでの威力はないのだろうとハンナは考えている。
そうでなければ簡単に次々と国が滅ぼされていてもおかしくはない。しかし人間に比べると魔力は段違いに多い。
恐れるべきは黒い霧で人に取り憑くタイプの魔族である。
アレの正体が何なのかはわかっていない。
実態を持たないので今までに2度ほど対峙しているが倒すまでには至っていない。
アレは煙のようにどこかに逃げていってしまう。
前回チュンバ国の王族の一人に取り憑いたときは、かなりの魔力を見せていたがアレが本気だとは思えなかった。
抜け殻になった男は魔力を吸い取られたようで回復にはしばらくかかったようだった。
魔族が気にする【王族】というワード。
王族には特別な何かがあるのだろう。
だからこそ心配である。
レティシアは王族の血を引くものである。
意図的にレティシアを捕らえたのかわからないが、魔族にとってレティシアは良い依り代になるのではないかと思ってしまう。
幸いなのはレティシアが光属性であることである。
闇属性の彼らが光属性のレティシアを取り込めるのかどうかが鍵になると思う。
もしもレティシアがあの黒い霧に支配されてしまったら…。ハンナはその最悪の事態を想像して身震いした。
本の中の知識ではレティシアを救えそうにない。
「ツキを探さないと。」
ハンナはレティシアを探しに行ったツキを探すことにした。
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ツキはレティシアの気配を探してチュンバ国領までやって来ていた。
ここではツキを知っている者はいない。
魔法を使う姿を見られたら面倒なことになるだろう。
ツキは風魔法でかなり上空を飛んでいた。
怪しい気配がないか、神経を研ぎ澄ましていた。
嫌な雰囲気はあるものの、悪いモノの気配はしない。
ここにはもう魔族がいないようだった。
ツキはさらに進むか悩んだ。
探しに出るときに定期的に報告に戻るようにケリーに言われている。
ツキは、はやる気持ちをおさえて一度戻ることにした。
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