第55話
騎士団とレティシアたちの活躍は素晴らしいものだった。
小さな町を次々と奪還していった。
途中には兵士たちが訓練をしているような施設もあった。
そこでツキの魔法を見た兵士たちはすぐに逃げ出していった。
ツキは手応えのなさに不満そうな顔をしている。
騎士団のメンバーたちは【ツキ様】と呼び団長やハンナよりも丁寧に扱っていた。
ツキは最初、団長のことを呼び捨てにして睨まれていたが今ではそれも自然になり、本人すら何も言わなくなった。
レティシアはそれを見て嬉しそうにニコニコしている。ツキにはそれも嬉しかった。
元ピーツ国の領地の半分を奪還した頃、空っぽの町がみつかった。
人が住んでいる形跡はあるのに誰もいなかった。
ハンナは噂が広まって逃げ出したのだろうと言った。
レティシアは柵の中にそのままにされた動物たちが可哀想になった。
「連れて行く?」
ツキはその辺に落ちていた大きな麻の袋をアイテムボックスにしてくれた。
ツキはその中に小屋やエサ箱を入れて、レティシアはその中にヤギや羊を入れた。
そしてレティシアも中に入って動物たちの世話をした。持ち運びのできる牧場になった。
騎士団たちはツキのその規格外な魔法を目の当たりにして、さらに尊敬の眼差しを送った。
ツキはハンナに言われたとおり、そういうのを気にしないことにした。
レティシアが喜んでくれることだけが大事だった。
野営をしながら進んでいく。出発してから一週間が経った。
レティシアはキャンプでもしているようで楽しかった。テントに入ると歴史書を出し、ケンをカイたちの家にある子供用の魔導書に送った。
ケンはレティシアたちの様子を伝えた。
ケンたちの思っていた状況ではなかったがレティシアたちが楽しくやっていることを本当に喜んでいるとケンは教えてくれた。
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無人の町にビルトはサツロの旗を立てた。
チュンバは必要のない国を滅亡させる意味があったのかとハンナは怒っていた。
城は再建され、今は王族の誰かが住んでいると偵察した騎士団の人が言っていた。
その王族の人は全くこの国を統治しようとしていない。
洗脳され、農地を管理するように命令された人々が黙々と働くのが見られただけだった。
まわりから攻めた騎士団は着実に土地を奪還し、残すのは城とその横にある町だけとなった。
レオハルトは神妙な顔で城をみつめていた。
レティシアには城の記憶がほとんどない。あるのは生まれてすぐいたあの部屋とルルが走った廊下くらいだった。
ハンナはかつての面影の残る城を見て懐かしそうだった。
「取り返すわよ!!」
「おー!」
噂が広まったと思われるくらいから魔族はいなくなっていた。ほとんどが洗脳されたチュンバ国の人か、捕虜のようになった元ピーツ国の人たちだった。
元ピーツ国の人たちはレオハルトが元王子だと知ると泣いて喜んでいた。そして「国を取り返して」と懇願した。
レオハルトは優しい顔で「必ず取り返します」と言ってまわった。
ビルトたちは城の近くで野営をして、未明に一気に攻撃する作戦を立てた。
レティシアとツキはその時間に起きられるように早めに寝ることにした。
「レティはあの城で生まれたんだね。」
ツキは毛布に包まりながらそう言った。
「うん。ハンナとルルがお世話をしてくれたんだ。」
レティシアは生まれ変わってきたと気がついたときのことを思い出した。
前世で若くして死んだのに不思議と悲しみは感じなかった。
「ツキはこの世界に来ちゃったこと、嫌だなって思ったことない?」
レティシアは気になっていたことを聞いてみた。
「ないよ。猫のときより楽しいよ。」
ツキはそう言って嘘のない笑顔を見せた。
「よかった。」
レティシアはそれだけ言って眠りについた。
ツキも笑顔のまま目を閉じた。
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レティシアはハンナに起こされて目を覚ました。
ツキはすでにワクワクしているように見えた。
レティシアはハンナに加護という結界の個人バージョンのような魔法を習っていた。
場所にかけるものより強力な効果があると言うことだった。
今までやってきたものとの違いがよくわからないレティシアだった。
騎士団メンバーが先に中に入り、敵を確認したところでツキとレオハルトが魔法を使うという作戦だった。
ツキは門番を静かに拘束した。
正面の入口から中に入っていく。
レティシアとハンナは外で待機していた。何かがあったら呼ばれることになっている。
いつもツキが無双してレティシアたちの出番はない。
騎士団メンバーは兵士を制圧しながら奥へと進んでいった。
この城に入っているチュンバ国の王族の人は寝室にいるようだった。
騎士団が寝室のあるフロアの廊下を進んでいるとドアがバンッと開いた。
「何者だ!」
ガウン姿の若い男がそこにいた。
ツキはすぐに風魔法で拘束した。
その男は魔法を使えるようで何かを詠唱している。
すると部屋から大きな黒い霧のようなものが出てきた。
そしてそれは拘束されているその男の中にスゥーッと入っていった。
男は目をカッと見開いた。
ツキの風魔法はバキッという音と共に解除されたのか男はこちらに向かって動き出した。
「レティを呼んで!」
ツキはそう叫び、男の動きを止めようと、まるでマシンガンのように魔法を放った。しかし男には効果がないように見られる。
「みんな下がって!」
剣で立ち向かおうとする騎士団たちをツキは風魔法で後ろに飛ばした。
長い廊下でツキと男が向き合う形になった。
「やぁ、強くなりましたね。」
男はそう言ってニヤリと笑った。
レティシアはその場に到着していて男が笑うのを見た。
《見たことがある…》
レティシアは洞窟の中でネズミと戦うときのツキを思い出した。
あの何か悪いモノがツキの中にいたときと同じ不気味な感覚がした。
《悪いモノの動きを止めて》
レティシアはジリジリとツキに近づいてくる男を見てそう祈った。
男はピタリと動きを止めて首を傾げた。
「光の魔法ですか。嫌なものです。」
男の言葉を聞いてツキはレティシアが後ろにいるのだと確信した。
今まで殺さないように気をつけて魔法を使ってきたツキだった。
しかし今はそんなことを言っていられないようだ。
ツキは炎を放った。
男のガウンは燃え上がった。
しかしすぐにシューッと音がして消えてしまった。
レティシアはツキがこのままでは負けそうなのに気がついた。
《ツキに力を貸してください》
レティシアはツキに加護の魔法を使った。
ツキは金色に光りだした。
そして白いベールを纏うようにその場に浮き上がった。
レティシアは一瞬驚いたがすぐに《ツキは悪いモノになんか負けない!》と男を睨みつけた。
ツキは目を閉じていた。
男が放つ黒い霧の攻撃はツキに当たる前にシュッと消えていた。
男の焦る顔がわかった。
「王族め…忌々しい。」
男はくるっと向きを変え逃げる素振りを見せた。
「逃さない。」
ツキは両手を男に向けた。そして金色に光る炎を男に飛ばした。
炎は逃げようとする男に命中した。さっきまですぐに消えてしまっていた炎とは違い、男に纏わり付くように金色にそれは燃え上がった。
男の断末魔が響いた。
男の中から黒い何かが出てきて、部屋の中へと消えていった。
ドサリと男は倒れた。
ツキも同じようにその場に倒れた。
「ツキ!!」
レティシアはすぐにツキのところに駆け寄り回復魔法をかけた。
ハンナもやって来てツキが息をしているのを確認すると倒れた男の方へ移動した。
男の息があるのを確認すると騎士団に向かって「拘束して」と叫んだ。
ビルトがやってきて男に魔法を封じる手錠をつけた。
ツキはレティシアの膝の上でゆっくりと目を開けた。
「やっつけたかな?」
「ううん。逃げられた。」
レティシアは黒い何かのことだとすぐにわかった。
「あいつを、倒さないと…。」
ツキは悔しそうにそう言うと「ごめん」と言った。
「ツキはよくやったよ。」
レティシアがそう言うとツキは少し安心したように微笑んで目を閉じた。
レティシアは驚いたがすぐに寝息が聞こえた。
「眠かったみたい。」
駆けつけていたレオハルトはクスッと笑ってツキを抱き上げた。
そしてツキをある部屋に連れて行った。
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「ここ、僕の部屋だったんだ。」
掃除されていないようで少し埃っぽかった。
レティシアはすぐに浄化の魔法できれいにしてあげた。
レオハルトは「ありがとう」と言ってベッドにツキを寝かせた。
城全体が明るくなった気がした。
おそらくハンナが結界を張ったのだろう。それは城を奪還できたという合図でもあった。
「やったみたいだね。」
レオハルトがそう言うとレティシアは小さく頷いた。
二人が生まれ育った城を取り戻すことができたのだ。
レティシアはツキの寝ているベッドに潜り込んだ。
ツキの寝息が聞こえてとても安心できた。
レオハルトはそんな二人を見て「ありがとうね」と言って微笑み、部屋を出た。
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