第54話
「城の中にいる不審者をあぶり出したい。」
レオハルトはレティシアたちの部屋に来てそう言った。
カリンと名乗るメイドは魔族だろうということで、他にもどこかに魔族が入り込んだのではないかと騎士団長は心配している。
魔族は魔力が高く、魔法の精度も高い。
到底人間には真似ができるものではない。
魔力に敏感なケンでさえ、それに気がつくことができなかった。
本来ならバルバが宮廷魔法師として城や街に結界を張る。
悪いモノが入ってこないように、土地に恵みがありますように、健やかに暮らせますようになどと種類はいろいろある。
魔物や敵対する人間の侵入を防ぐ結界を張ることは魔法師なら当然していることである。
しかしバルバはバルバではなかった。
いつからそうなのかはレティシアたちにはわからない。しかし人間ではないものだったのは確かだ。
人間は黒い霧になってに消えたりしない。
魔族はある人にそっくりな姿で人間に紛れ込んでいる可能性があるということである。
「こうなると誰のことも信じられなくなるんだよ。」
レオハルトはそう言って肩をすくめた。
「人の姿に化けている魔族を探せばいいのね?」
ハンナがそう言うと「できますか?」とレオハルトは目を輝かせた。
「どうかしら?そんな魔法あるかしら。」
ハンナは調べてみると言って図書館に向かった。
「レティならできるかな?」
レオハルトは「お願い」と手を合わせてレティシアをみつめた。
「うーん。ちょっと待ってね。」
レティシアはツキが魔族であることを他の人に知られることだけは避けたかった。
だからツキには効かないけど、他の魔族には効果がある結界を張らないといけない。
《文章能力が必要だわ》
レティシアは自分がポンコツなのを思い出した。
適当なことをやってツキを苦しめたくない。
レティシアは回らない頭をフル回転させて、なんて祈るのが効果的なのかを考えた。
他の者の姿に変身している魔族。
人の体を乗っ取っている魔族。
この国に危害を与えようと企てている者。または、すでに危害を加えた者。
レティシアの頭の中はパンクしそうだった。
「ちょっと試しにやってみるね。」
レティシアはツキが該当しないような言葉を選び祈ってみることにした。
「キャー」という声がどこかからか聞こえてきた。
レオハルトは「見てくる」と言って部屋を出ていった。
窓から外を見るとピンク色の石像が目に入った。
「なにあれ?」
ツキはそれを指差した。
「あの人、魔族だったみたい。」
レティシアはそう言うとクスッと笑った。
「ピンク色になって動くなって条件をつけたの。」
ツキは「わかりやすくていいね」と喜んでいた。
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ピンク色の石像は城の中に5体ほどあった。
騎士団の中にも一人いて、ビルトはとてもがっかりしていた。
レオハルトは中庭に5体並べると魔法で粉々にして火をつけて燃やした。
絶滅したと思われていた魔族がこんな近くにいたなんて、とても恐ろしいことであった。
レティシアはハンナと一緒に結界を張った。
「バルバはどうしちゃったんだろう?」
ハンナは本物のバルバが気になるようだった。
取り憑かれただけなら本体が残るはずだった。
「戦争でゴタゴタしてるときに何かあったんだろうね。」
レオハルトはレティシアの頭を撫でて「ありがとうね」と小さく言った。
「やられるのを待つのには飽きたな。」
ビルトはそう言ってレオハルトを見た。
「えー。僕1回殺されたんですけど?」
レオハルトは頭を横に振って「嫌だ行きたくない」と言った。
「国王様が元ピーツ領地を奪い返すと言っていた。嫌だと言ってられないぞ。」
「私も行く!」
レティシアはビルトの手を握った。
「じゃあ、私も行く。」
ツキもやってきてビルトの反対の手を握った。
「えっ、いやぁ、でも…」
ビルトは意外な反応を見せた。そしてハンナに助けを求めるように見ると、ハンナは「大丈夫」と言った。
「わかった!君たちにも手伝ってもらおう!ピーツを取り戻そうじゃないか!」
「おー!」
レティシアとツキは手を掲げた。
レオハルトも小さく「おー」とやる気のない嫌な顔でやっていた。
ハンナはそれがおかしくてクスクスと笑っていた。
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その日から騎士団は作戦を練りだした。
ピーツ国は広い国ではなかった。
城も小さかったし、大きな街もない。
ただ気候がよく水はけも良い土地は農業に適していた。
騎士団は少しずつ土地を奪還していく作戦を立てた。
レティシアとハンナは結界係、レオハルトとツキは攻撃部隊として関係のない魔物や敵対してくる相手を倒す役目になった。
ツキは魔法がたくさん使えて嬉しいと言っていた。
レティシアは相手が人間だと思うとなかなか気がすすまなかった。
南の方の小さな町にはチュンバ国からやって来たであろう人たちが暮らしていた。
騎士団を見ると彼らは剣を持ち、鍬を持ち、襲いかかってきた。
友好的な空気はまったくなかった。洗脳されているか、与えられた土地を必死で守りたいのか、とにかくすごい形相だった。
「やっていいの?」
さすがのツキも躊躇していた。
「魔族がいないか探すね。」
レティシアは魔族がピンク色の石像になる結界を当たり一面に張った。
「いないみたい。」
レティシアはこれが人間なのかと悲しくなった。
騎士団は剣で相手をしている。
騎士団としても農民を殺したくはないのだ。
「浄化してみます!」
レティシアは祈った。
《殺し合いたいわけじゃないの。土地を奪いたいわけでもないの。目を覚まして…》
農民たちはピタリと動きを止めた。そして手に持っていた武器を次々とその場に落とした。
騎士団は攻撃をやめた。
一瞬で戦場が不思議な空気に変わった。
農民たちは馬に乗り、荷車を引いてどこかに移動して行った。
「チュンバに帰る。」
彼らはチュンバのお偉いさんから土地をやるから耕せと言われ強引に連れてこられたと言った。
何か黒いものに包まれて、それからの記憶は曖昧だと言った。
戦ったこともないのに…と涙を流す人もいた。
「このままこの土地にいても構わない。しかし残るなら今日からサツロ国民になる。それでもよいか?」
ビルトはみんなに向かって大きな声でそう言った。
農民たちは立ち止まり、話し合っていた。
一人の長老のような老人が現れ、ビルトに質問をした。
「この者たちをまとめているトトと申します。税金はいかほどですか?」
ビルトは徴税の話をした。すると農民たちは驚き、「ぜひサツロ国民にしてください」と懇願した。
騎士団メンバーはすぐに台帳を作り、町を掌握した。
レティシアとハンナは結界を張り、チュンバ国からの攻撃を跳ね返すようにと祈った。
ビルトはトトにサツロ国の小さな国旗を渡した。
「どこかにわかるように設置してくれ。」
トトは笑顔で受け取り、深く感謝をした。
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「殺し合いにならなくてよかった。」
レティシアがそう言うとツキは「出番がなかった」とふてくされた。
「殺さないで拘束する技とかいいと思う。」
「それなら制圧するときに使えるね!」
ツキは「なるほど〜」とご機嫌になってあれやこれやと考えているようだった。
レティシアとツキは騎士団の馬車に乗せてもらっている。
空飛ぶ馬を持っているのは騎士団の中のごく一部のようだった。
ハンナとレオハルトは空飛ぶ馬で上空から偵察もしていた。
馬車が急に止まり、レティシアたちは態勢を崩して転んでしまった。
「でかいやつ!くるぞ!!」
ケンはピーピーと飛び回った。
「行ってくる!」
ツキは嬉しそうに外に出ていった。
「魔物だ!ハイクラスだ!油断するな!」
そこには大きなクマのような猿のような茶色の魔物がたくさんいた。
騎士団たちは剣を向け、レオハルトは魔法で一体ずつ倒している。
ツキは「やっていいんだね」と言って喜んで魔物を倒し始めた。
上空のレオハルトはツキの勢いに驚き、ポカンとその活躍を眺めた。
剣を抜いた騎士団たちもその光景を眺めるだけだった。
あっという間に討伐が終わってしまった。
ツキはいつものように魔石を取り出すと、「毛皮使える?」と近くの騎士団メンバーに聞いた。
騎士団メンバーは驚き、魔物の毛皮を触った。
「硬いからどうだろうな。」
騎士団メンバーは首を傾げた。
「ビルト!燃やしていい?」
ツキは上空にいるビルトに大声で聞いた。
「あぁ、頼む!!」
ビルトがそう言うとツキは「みんな離れて!」と言ってすぐに灰にしてしまった。
レティシアは見慣れていたが騎士団メンバーたちにとってはとても驚愕の光景だったようだ。
レオハルトがとてもすごい魔法師だと思っていた彼らにとって、ツキは神か悪魔のような存在になってしまった。
それからツキは騎士団メンバーから「ツキ様」と呼ばれることになる。
「なにそれ?」とツキは不思議そうにしたが、ハンナは「気にしないで勝手に呼ばせてあげな」と言った。
レティシアはおかしくなってクスクス笑ってしまった。そんなレティシアを見てツキは嬉しそうだった。
「レティがいいなら、いいや。」
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