第53話
レティシアは何かに乗っ取られているようだった。
目を閉じて空中に浮いている。
その目の前で横たわったレオハルトも横になったまま浮かんでいた。
金色に光ったレオハルトはその場で起き上がった。
ゆっくりと顔の色が戻っていくようだった。
ハンナとツキは動けず、声も出せなかった。
ただレオハルトの中に命が再び宿っていくような不思議な感覚を感じていた。
レティシアの後ろに見えていた金髪の女の人はスゥーッとレティシアの中に入っていくように消えた。
そしてレティシアとレオハルトはドサッと地面に落ちた。
ハンナはレオハルトのところへ行き、ツキはレティシアを起こした。
「レティ!!起きて!!」
「レオハルト様!!」
二人は名前を呼び、体を揺すり、頬を叩いた。
「ツキ…痛いよ…」
レティシアはゆっくりと目を覚ました。
「レティ!よかった!!」
ツキはレティシアに抱きついた。
すぐにレオハルトも目を覚ました。
ハンナは泣きじゃくって「よかった」と何度も言った。
階段をドタドタと降りてくる音が聞こえた。
「なんだ?何があった?!」
ビルトが部下数人と降りてきた。
「レオハルト?!ここで何をしてる?!」
「団長…。僕、死んだみたいです。」
レオハルトはそう言って力なくニコッと笑った。
ビルトはレオハルトを立たせ、頬を叩いた。
「しっかりしろ!」
レオハルトはそのままビルトに向かって倒れ込んだ。
「大丈夫か?!」
ビルトは驚き、部下二人に医務室へ連れて行くように指示をした。
レオハルトは二人に抱えられて階段を上がっていった。
「ハンナ様、ここで何を?バルバ様は?」
ビルトはわけがわからないという顔で部屋を見渡した。
半球の部屋は見通しがいい。バルバの姿がないことはすぐにわかった。
ビルトはフラフラしているハンナを抱きかかえるとレティシアたちに向かって「歩けるか?上に行くぞ」と言った。
二人は「大丈夫」と言ってビルトのあとをついて行った。
ハンナはさっきまでいた部屋のベッドに寝かされた。
レティシアはビルトに説明するかどうか悩んだ。
「こいつは大丈夫だ!いいやつだ!」
ケンが突然出てきてビルトの肩に止まった。
「なんだ?!魔物か?!」
ビルトは驚いて肩に止まったケンを見た。
「俺様は精霊だ!失礼なやつめ!許さん!」
ケンはパタパタ飛んでレティシアの肩に移動した。
レティシアは他の人に話を聞かれない結界を張った。
「実はバルバ様がハルを殺して、ハンナも殺そうとしていました。」
レティシアはビルトを信じることにした。
そして全てを話す決心をした。
「バルバ様が?!しかし…レオハルトは生きていた…ぞ?」
「それは…レティが…、レティシア様が…蘇生魔法を…。」
ハンナは苦しそうにそう言った。
レティシアはすぐにハンナに回復魔法をかけた。
ハンナは顔色がよくなり、ベッドの上で体を起こした。
「ありがとうレティ。」
ハンナはそう言ってレティシアの頭を撫でた。
「すまない。わかるように説明してくれないか。」
ビルトは首を傾げたまま眉間にシワを寄せていた。
「黙っていてごめんなさい。私はハルの、レオハルトの妹のレティシアです。ハンナと同じ光属性の魔法が使えます。」
ビルトは「レオハルトの?!」と一瞬驚いていたがすぐに言い直した。
「確かに同じ目をしている。」
ビルトはまっすぐにレティシアの目をみつめた。
「バルバ様は私とツキに魔法属性を判定する検査をしました。結果は反応なしになるように細工をしました。」
ビルトは口を挟まずに、たまに頷きながら静かに聞いてくれた。
「それで私が帰宅の許可を貰おうと団長さんのところへ行こうとしたの。そしたら急に目の前が暗くなって…。誰かに後ろから殴られたのね。気がついたらあの地下にいたわ。レオハルト様はすでに横に倒れていて、助けようとしたらバルバに何か魔法をかけられたの。あれは…闇属性の魔法…。」
ハンナはそう言って身震いをした。
「私たちはカリンが怪しい飲み物と食べ物を持ってきたから口にしないで隠れたの。カリンはそれが何か悪いものだって知っているようだったわ。私たちの姿が見えなくなっても団長さんに報告してないですよね?」
「あぁ、私は団長室にいた。誰も来ていない。」
「それで私たちはハンナの気配を探して地下に行ったの。バルバ様は何かを詠唱してハンナを苦しめていたわ。だからツキが少し痛めつけたの。」
レティシアがそう言うとツキは申し訳なさそうにした。
「バルバ様に事情を聞こうとしたんだけど黒い霧になって消えちゃったの。」
レティシアの話にツキも「うんうん」と頷いた。
「私はあのオババを消してないです。ちょっとキュッとしただけです。」
ツキは言い訳をするようにそう言った。
「なるほど。」
ビルトは何かを納得したように一人で頷いた。
「実はレオハルトが嫌なモノの気配がすると言っててな。探してみると言ってたんだ。バルバ様のことだったのだろう…。」
「レオハルト様は大丈夫かしら?他にも様子のおかしい人はいなかった?」
ハンナはベッドから降りて立ち上がった。
「わからない。私は気がつかなかった。」
ビルトの言葉を聞いてからハンナは「医務室に行ってくる」と部屋を出ていった。
「カリンというのはメイドか?そんな子いたかな?」
ビルトは考え込んで首を傾げた。
レティシアとツキはカリンの見た目を伝えた。
「そんなメイドはいない。そもそも君たちの部屋に立ち入っていいのは騎士団だけのはずだ。君たちの世話は騎士団の女性隊員のネネに頼んだのだが…。ネネに会ったか?」
「この前も今日も来たのはカリンだけだよ。」
ビルトは頭を抱えた。
「そう言えば先日、君たちへの世話を頼んだきりネネをみかけていない…。」
ビルトは「ここにいてくれ」と言って部屋を出ていった。
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レティシアとツキは部屋に残された。
ツキはカバンからケリーが持たせてくれたサンドイッチを出した。
レティシアもそれを思い出してサンドイッチを出して二人で食べた。
ケンにもあげると嬉しそうに食べた。
「やっぱり料理はケリーに限るな。」
レティシアとツキも「うんうん」と頷いた。
「魔法使ったのバレちゃったね。」
「ごめんね、勝手に話しちゃって。」
ツキは「自由に魔法が使えるほうがいい」と言ってニコッと笑った。
ハンナがレオハルトを連れて戻ってきた。
二人とも悲しい顔をしていた。
「ネネが自室で亡くなっていた。」
レオハルトはそう言って顔を伏せた。
「カリンがやったのかな。」
ツキがそう言って、レティシアは「そんな気がするよね」と頷いた。
「団長はみんなにそのカリンってメイドを探させている。まぁ、とっくに逃げたとは思うけどね。」
レオハルトはそう言ってレティシアをみつめた。
「レティシア、また君に助けられたようだね。本当にありがとう。」
レオハルトはレティシアをぎゅっと抱きしめた。
レティシアは驚き、そして泣いてしまった。
「私を一人にしないで。」
レオハルトはその言葉を聞いて「ごめん」とレティシアの頭を撫でた。
ツキはそれを見てふてくされていた。
「レティの横にはいつも私がいるよ。」
ハンナはクスッと笑って「いつもありがとうね」と言ってツキの頭を撫でた。
ツキは一瞬ビクッとしたが悪い気はしないという顔をしていた。
ビルトが部屋に戻ってきた。
「カリンというメイドを見た者がいないんだ。本当にいたのか?」
レティシアはカバンからあのクッキーを取り出してビルトに渡した。
ビルトが包みを開けるとそこにはクッキーではなく変な色のキノコが入っていた。
「あれ?!キノコ?!」
「クッキーだったよね?」
レティシアとツキは目を合わせて驚いていた。
「魔族ね。」
ハンナはボソッとそう言った。
ツキは一瞬ピクッと反応した。
「全然わからなかった。」
ツキがそう言うとレティシアも「うんうん」と頷いた。
「魔族は本当に人間に紛れるのが得意なの。騙されても仕方ないわ。」
何かがこの城の中で起きていると、誰もが思った。
「国王様に報告しないといけません。」
ビルトがそう言うと「団長、他にもおかしなやつが紛れ込んでいるかも」と、レオハルトが言った。
ビルトは「確かに」と言って少し考えた。
「人払いをして国王様だけにお話をしてきます。レオハルト、一緒に来てくれるか?」
「はい。」
二人は3人に「この部屋にいて」と言い残して部屋を出ていった。
「あれが魔族…。」
ツキはそう言って窓の外を見ていた。
「ツキは大丈夫。ツキはあんなんじゃない。」
レティシアはそう言ってツキの手を握った。
ツキは「うん」とニコッと笑った。
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