第52話
レティシアたちはサツロ国の国王の住む城に来ていた。
一度騎士団に捕まったレティシアだったが逃げ出した後にハンナとツキと共に戻ってきていた。
ハンナは子供に不当な扱いをしたと騎士団長に怒りちらし、3人で過ごせるように部屋を用意させた。
ハンナは部屋に入るとすぐに結界を張った。
「ハンナ、あんなに怒って大丈夫だったの?」
レティシアは騎士団長は偉い人だと理解していた。
「いいのよ。あいつら自分たちが偉くて間違ってないって思い上がってるのよ。」
ハンナは騎士団が嫌いなようだった。
戦争のときにハンナは騎士団に借り出されていた。
その時に何か嫌なことでもあったのかもとレティシアは考えた。
ノックする音が聞こえ、メイドのカリンがやって来た。
「お食事をお持ちしました。」
カリンは相変わらず無表情で礼儀正しく黙々と仕事をこなして去って行った。
ツキとケンは用意された食事をパクパク食べだした。
「ここの料理もうまいな!」
ケンは美味しそうに頬張っている。
レティシアは少しつまんだだけでごちそうさまをした。
「おそらく宮廷魔法師が二人の属性を調べると思うわ。今のうちに探られないように結界を張っておいて。」
「わかった。」
レティシアは自分とツキに魔法のことを感知されないようにする結界を張った。
魔力がある程度あるのはバレているのでそれだけはわかるように、と複雑なことをお願いした。
レティシアはこれでいいのかわからなかったが、やらないよりはきっといい。
ハンナの言うとおり、二人を騎士団の人が迎えに来た。
「ハンナ様は部屋でお待ちくださいとのことです。」
「なぜ?見られたらまずいことでもするつもり?誰が来るなっていったの?直接その人に私から話をするわ。」
ハンナが一気に捲し立てるので騎士団の人は「あ、はい、わかりました」とすぐに折れてしまった。
3人は城の地下に連れて行かれた。
半球の形の部屋で仄かな灯りがふわふわと漂っていた。
「子供だけと言っただろうが。」
待っていたおばあさんは不機嫌そうだった。
「あらあら、宮廷魔法師のバルバ様、私がついてきたらお仕事できませんか?私の魔力が怖いのかしら?」
ハンナはバカにするようにバルバに向かってクスクスと笑いながら話した。
レティシアは二人の間にピリピリするものを感じ、ひやひやしていた。
「フンッ。誰に見られても構わんわ。」
バルバはそう言って「ガキども、こっちへ来い」と言った。
レティシアとツキはニコニコしたままバルバに従った。
なんだかその方がいいような気がしたからだ。
「バルバ様、私も宮廷魔法師になれますか?」
レティシアはニコッと笑ってバルバに問いかけた。
「お前が?!特級と聞いていたから期待していたが何かの間違いのようだな!」
バルバはそう言って高笑いをした。
バルバは二人を椅子に座らせた。
「まずはお前からじゃ。」
レティシアの手に水晶のような球体を持たせた。
バルバは何か聞こえないくらいの声でブツブツと詠唱を始めた。
球体に変化はなく、バルバはそれを見て鼻で笑った。
ツキにも同じようにして、同じ結果になった。
「騎士団は何をしとるんじゃ。わしの貴重な時間をこんなガキどものために使いやがって。」
バルバはハンナを睨みつけて「早く連れて帰れ」と言った。
「お手数おかけしました。」
ハンナはにこやかにそう言うと二人の手を取ってその場を離れた。
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部屋に戻るとハンナは「よくやったわ」と言った。
「あれでよかったの?」
レティシアはこれでよかったのかと終始不安だった。
「属性なしと判断されたわ。つまり魔力はあるけど魔法は使えないってことよ。」
「これで帰れる?」
ハンナがニコニコしていたのでツキもつられて嬉しそうだった。
「そうね、魔力があるだけの子供を置いておくほど騎士団も困ってはいないでしょう。」
レティシアたちはそれを聞いて安心した。
ハンナは騎士団長に帰る許可をもらいに行くと言って部屋から出ていった。
すぐにノックの音が聞こえ、カリンが入ってきた。
「お茶をお持ちしました。」
カリンは部屋にある立派なテーブルにお茶とお菓子を用意すると丁寧なおじぎをして部屋から出ていった。
ケンが出てきて「お菓子か!いいな!」と言った。
ツキがクッキーを1つ口に運ぼうとしたときケンがそれを叩いて落とした。
「ダメだ!食べるな!!」
ツキは驚いてレティシアを見た。
「ケンが叩いた。」
ツキはケンを睨みつけた。
「嫌なニオイがする。お茶もダメだ。」
レティシアにもツキにもよくわからなかった。
「毒とか入ってるってこと?」
「わからん。でも嫌な予感がする。」
ケンは食いしん坊で何でも食べたがっていた。それが食べるなと言うのはよっぽどのことだろう。
レティシアはお茶を窓から捨てた。
お茶菓子ハンカチで包んでカバンにしまった。
ハンナがなかなか戻ってこない。
なんだか嫌な予感がしてきた。
レティシアはツキとどこかに隠れることにした。
クローゼットに隠れてみたが物がないので開けられたらすぐにみつかってしまう。
レティシアは前世の記憶のそういうシーンで排気口や天井裏に隠れるのを思い出した。
探したがそんなに都合のいいものはこの部屋にはなかった。
ツキはクローゼットの天井の板を壊した。
「ここにしよう。」
レティシアはそれがおかしくてクスクス笑ってしまった。
ツキもちょっとやりすぎた感があったのか「エヘヘ」と鼻を掻いていた。
なんとかツキに手伝ってもらって天井裏に上った。
ツキが壊した板をそっと戻した。
隙間から部屋の様子をうかがっているとノックがしてまたカリンが現れた。
カリンはお茶とお菓子が空になっていることを確認してキョロキョロと部屋の中を見回った。
レティシアたちはそれを息をのんで見守った。
カリンの目はギョロギョロと動き、さっきまでの優雅な姿とは遠いものになっていた。
カリンは部屋に二人がいないとわかると部屋を出ていった。
二人はハンナのことが心配になった。
天井裏はどこまでも繋がっているように見えた。
「ハンナを探そう。」
二人は狭い空間を四つん這いになって移動した。
声が聞こえるとツキは小さな穴を開けた。
騎士団長の部屋をみつけた。
ビルトは何か書類のようなものを読んでサインをしていた。
ハンナの姿はない。
二人は別の場所を探した。
騎士団のメンバーたちの居住空間のようで留守の部屋が多かった。
「いないね。」
レティシアはツキにそう言ってさっきの部屋まで戻ることにした。
部屋は空っぽのままでいつの間にかティーカップや皿は片付けられていた。
ゆっくり部屋に降りたレティシアは自分とツキに見えてるけど見えていないいつもの結界を張った。
ツキは壁に手をついて目をつぶった。
いつか鉱石を探したときのようにハンナを探すと言った。
レティシアも同じようにやってみた。
「地下じゃない?」
レティシアは下の方にかすかに何かを感じた。
ツキも「私もそう思う」と言ったので二人はケンの誘導で部屋を出て地下に向かった。
途中でバタバタと何かを探している感じのメイドとすれ違ったが、二人に興味を示すことはなかった。
静かに、素早く、二人は地下へとやって来た。
階段まで来るとレティシアにもその嫌な感じがわかった。
ケンは「まずい!逃げろ!」とうるさいのでポシェットに入ってもらった。
空気が重く、澱んでいるように感じる。
かすかに何かが唸っている声が聞こえてくる。
ハンナが宙吊りになっていた。
ツキが飛び出しそうだったのでレティシアはツキの腕を掴んだ。
ハンナの前にバルバがいたのだ。
バルバは詠唱を続け、ハンナは苦しそうにしていた。
横に倒れている人がいるのに気がついた。
銀色の髪が見えて、レティシアたちはそれがレオハルトだとわかった。
バルバ以外に不審な人はいなかった。
「やっつけていい?」
ツキは小声で聞いた。
レティシアはツキの魔法が他の人には気づかれませんようにと祈ってから「うん」と頷いた。
ツキはバルバに向かって指をシュッと動かした。
バルバは口を塞がれたようにモゴモゴと苦しそうにした。
ハンナはその場にドサリと落ちて倒れた。
ツキはさらに反対の人差し指をくるくるとした。
バルバの体がねじれているように見えた。
ゴキッバキッと嫌な音が聞こえた。
どこかの骨が折れたのかもしれない。
ツキはバルバの目の前に行き、「何してるの?」と話しかけた。
バルバはモゴモゴしているだけでよく聞き取れなかった。
「あっ、そうか。」
ツキは右手の人差し指をチョンッと動かした。
バルバはゼェゼェと息をして何か詠唱しようとした。
「無理だよ。」
レティシアはバルバの腕にいつかの手錠をはめていた。魔法が使えなくなる魔導具だ。
「クソガキどもめ!わしに何をした?!」
バルバは二人を睨みつけた。
「ハルとハンナに何をしたの?」
レティシアも負けずに睨み返した。
ツキは左手の人差し指をくるくるとした。
バルバの体がさらにねじれた。
バルバは堪らず何かを言いかけた。
「魔王様のめい…れ…」
バルバは急に黒い霧になってその場に消えてしまったように見えた。
「ツキ、消しちゃった?」
「ううん。何もしてないよ。」
二人は首を傾げた。
「う、うぅ…」
「ハンナ!!」
レティシアはすぐに駆け寄り回復魔法をかけた。
目を覚ましたハンナは「レオハルト様を…」と言った。
ツキが「死んでる」と言った。
レティシアはすぐに回復魔法をかけた。
しかし青白い血の気の引いた顔のレオハルトは目を覚まさない。
ハンナもよたよたとやって来て回復魔法をかけたがレオハルトは動かないままだった。
「レオハルト様…。そんな…。」
ハンナは泣き崩れた。
レティシアはレオハルトが死んだなんて思えなかった。
《たった一人の肉親を死なせるなんてできない!ハルを返して!!!》
レティシアは金色に光り、宙に浮いた。
後ろに金髪の長い髪に白いドレスの女の人が重なった。
ピクリとも動かなかったレオハルトの体はふわっと空中に浮き、金色に光りだした─。
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