第51話
レティシアとツキは朝の散歩中に起きた不思議な出来事をみんなに話した。
3人は信じがたいという感じだったが金のブローチを見て「うーん」と唸った。
「アルフォーレが言うには女神様が精霊を創ったんだって。だからケンのお母さんだって言うの。」
「うーん。」
3人にはツキの魔族の痕跡を消したと言われても何も感じ取れなかった。
そもそも魔族だって実感するのはツキの魔法が規格外だったからだ。
すごい魔法を使える人間だと言われたら「そうなのか」と受け入れていただろう。
「ハンナに会いに行く。ツキは魔族だって思われないなら一緒に捕まるって。」
レティシアがそう言うとツキは「うん、そうする。」と頷いた。
二人があまりにも真剣だったのでカイはみんなで行こうと言った。
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タルの町に兵士が来ていた。何かを探している感じがして、それがレティシアだとみんなはすぐに気がついた。
5人はコソコソとハンナの店に急いだ。
ハンナの店は通常通り営業していた。
ドアを静かに開けて中を確かめ、人がいないことを確認してからみんなで中に入った。
カイはCLOSEの札を勝手に出して鍵を閉めカーテンをした。
「いらっしゃ…」
ハンナは5人を見て驚いているようだった。
「何してるの?ここにも捜索中の兵士が来てるのよ!」
ハンナは小声で怒っていた。
レティシアは逃げたあとの話をハンナに聞かせた。
「そのまま隠れて暮せばいいじゃないのよ。別の国に行ったっていい…。」
ハンナはそこまで言って悲しい顔になった。
それがいいなんて、言うのは辛かったようだ。
そんなハンナにレティシアはアルフォーレの話をした。
「だから教えてほしいの。ツキはまだ魔族だと思う?」
ハンナは驚いてカイたちを見た。
カイたちも信じがたい話ではあったがレティシアたちが嘘をつくはずはないということには確信を持っていた。
「ツキ、ちょっと火の玉を出してみて。」
ハンナに言われてツキは右手に小さな火の玉を出した。
「なるほど。」
ハンナは頷いた。
ツキは火の玉を消してハンナの言葉を待った。
「確かにツキが魔族だってわからなくなったわ。」
ハンナは魔力の種類がなんとなく違うという話をしてくれた。
闇属性などわかりやすいものもあったが、そうじゃなくてもなんとなく違和感があったのだそうだ。
特に何の結界もない状態のツキはいかにも魔族というようなオーラを纏っていたのだという。隠そうとしていないというのも大きな要因だと言った。
ハンナくらいの魔法師なら魔力を感じただけでわかるだろうと言った。
ハンナは首を傾げた。
「本当に女神様がいるのかもしれないですね。」
信じられないという顔でブローチをみつめた。
ブローチの女神様は笑っているように見えた。
「このまま逃げても探されると思うの。カイとツキは一緒にいるところを見られてるし。ルルのお店のことも心配。」
レティシアは混乱しながらも自分の気持ちをみんなに伝えた。
「どうなるかわからないけど、戻って国王に会ってみようと思うの。もしかしたらお話したいだけかもしれないし。」
みんなはそんなわけないと思いながら黙っていた。
「お店はまた作ればいいよ。ハンナの言うとおり誰にも知られていない町に行ってやり直そう?」
ルルは目を潤ませていた。
「今ここでそうやって逃げても、またいつか同じことが起こるかもしれない。みんなをそんな生活に巻き込むのは嫌なんだよ。」
レティシアは涙を堪えて一気にまくし立てた。
その場が静まり返った。
時を戻せたらいいのにと誰しもが思った。
「大丈夫だよ。レティのことは私が守るから。」
ツキはそう言ってニコッと笑った。
「必ずしも友好的に対応してくれるとは限らないぞ?」
カイが心配そうにそう言うとツキはニヤリと笑った。
「私より強い人は城にいないと思う。なんとなくわかるんだ。あの女神っていうおばさんは別だけど…。」
ツキはそう言って嫌なことを思い出したという顔をした。
みんなはツキの魔力や魔法の凄さを嫌というほど知っている。
国の一つや二つ簡単に滅ぼすこともできるだろう。
「わかったわ。私が二人を連れて行くわ。」
ハンナは何かを決意したようにカイたちを見た。
「わかった。ハンナに任せる。」
カイがそう言うとルルは「お父さん!何を言ってるの?!」と食い下がった。
「わかるだろう。レティもツキも、普通には暮らせない運命なんだよ…。」
カイはとても悔しそうだった。認めたくないものを大きな力によってねじ伏せられるような、そんな感覚だった。
ルルはそれ以上何も言わなかった。
ケリーは涙を拭いて二人のカバンにいろいろなものを詰めさせた。
「すぐ戻ってくるかもよ。」
レティシアはそう言って笑った。
「帰りたくなったら帰ってくるよ。」
ツキもそう言って笑った。
「お前ら!俺様に任せろ!」
ケンはパタパタと飛び回りレティシアの肩にスッと止まった。
「いってきます!」
庭に出たハンナは空飛ぶ馬を呼び、レティシアとツキを乗せて空へと舞い上がった。
ハンナは3人を順番に見て小さく頷いた。そしてさらに空高く飛んでいった。
3人はしばらく空を眺めた。
とても良い天気で雲一つない。
レティシアとツキが行ってしまった─。
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レティシアは空を飛ぶのは苦手だと思った。
めまいがしたのですぐに目を閉じた。
ツキは「速い!高い!」と喜んでいるようだった。
あっという間に城が見えてきた。
ハンナは門の前に降りた。
二人を降ろして手を握った。空飛ぶ馬はどこかに飛んでいった。
「騎士団長にお会いしたい。魔力持ちの子供二人を連れてきたと伝えて。」
門番は「ハンナ様!直ちに!」と言って走って行ってしまった。
すぐに門番は戻り、「騎士団長が中でお待ちです。お入りください。」と3人を通してくれた。
騎士団のメンバーが集まってきて3人を囲むように歩いた。
その中にレオハルトの姿も見えた。
レオハルトは困惑した表情でレティシアの横を歩いた。
「どういうこと?」
レオハルトは小声でハンナに話しかけた。
「私に考えがある。任せて。」
ハンナも小声でそう答えた。
すぐに騎士団長の部屋についた。
3人に中に入り椅子に座るように言った。
騎士団長は筋肉質の顔に傷のある男の人だった。
「団長のビルトだ。さて、これはどういう状態かな。」
ビルトは怒っているように見えた。
もしかしたらハンナが逃げたことに関わっていると思われたのかもしれないとレティシアは思った。
「ハンナに捕まりました!逃げてごめんなさい!」
レティシアはハンナが口を開く前にそう言った。
「レティ?」
ハンナは急なことで驚いていた。
「ハンナとはタルの町で知り合いました。薬屋さんです。一緒に貴族のパーティのお手伝いとかしました。優しくていい人です。でも魔力のことは誰にも秘密です。カイが誰にも言うなって。カイはお父さんです。優しくていいお父さんです。」
レティシアはそう言ってニコッと笑った。
ビルトは「ほぉ、ではこちらは?」とツキの方を見た。
「ツキです。戦争でひとりぼっちになってカイに拾われました。みんないい人です。」
ツキもそう言ってニコッと笑った。
ハンナは思ってたのと違う展開に戸惑っていた。
「魔力があるのを隠していてごめんなさい。誘拐されたくなかっただけなんです。」
レティシアはペコリと頭を下げた。
ツキは魔力隠しのペンダントを外した。
「私も魔力があるみたいです。隠しててごめんなさい。」
ツキもそう言って頭をペコリと下げた。
「なるほど。」
ビルトは子供二人が悪びれる感じもなくそう話すのでなんて答えたらいいかわからなくなった。
「家族と離されて怖かったみたいで、城を抜け出したみたいで。どうかお許しください。」
ハンナはそう言って頭を下げた。
「騎士団は魔力のある子供を捕まえて何をするんですか?殺すんですか?」
ツキはニコッとしたままビルトに向かってそう尋ねた。
「殺す?!まさかそんなことはしませんよ。」
「でもレティに手錠をかけて無理やり連れていきましたよね?」
「この国の脅威かもしれないと判断されたからです。」
「いちごを食べていただけなのに。私が怖かったのですか?」
レティシアは目をぱちぱちさせてビルトを見た。
「私はその場にいませんでしたが、あなたを怖いとは思わないでしょう。それは私の部下も同じだと思います。」
「それなのに手錠をしたんですね。」
「そういえば手錠はどうしたんですか?」
「わかりません。気がついたらなくなっていました。」
レティシアはサラッと嘘をついた。
「私がここに来たときにはすでにしていませんでした。誰かが外したのではありませんか?そもそも何もしていない子供にいきなり手錠をかけるなんて、騎士団はそうでもしないと子供一人連行できないのですか?」
ハンナは手錠のことを知らなかったようで急に怒り出した。
「特級の魔力を感知したと聞いてます。当然の対応です。」
「それがこの子供だと言うんですね。へぇ、そうですか。」
ハンナは立ち上がった。
「この子たちは無害です。私が保証します。そうやって魔力のある子供たちに酷い扱いをするから親は隠すんです。私は親ではありませんが、その気持ちは理解できます。この子たちをどうしたいのかわかりませんが扱いがひどすぎます。連れて帰りますね!」
ハンナはそのまま二人の手を取り部屋を出ようとした。
ビルトはハンナの勢いに言い返せなくなっていた。
「待ってください!ハンナ様!国王からの指示があるまで城に留まってください!」
ビルトは慌てて追いかけてきた。
「では3人一緒の部屋を用意してください。この子たちに少しでもひどいことをしたら私が黙ってませんから。」
ハンナはキッとビルトを睨みつけた。
ビルトはすぐに部下に指示をして部屋を用意させた。
「ハンナかっこいいね。」
ツキがそう言ってニヤッと笑った。レティシアも頷いてニヤッと笑った。
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