第47話
レティシアたちが住む国、サツロ国はチュンバ国から攻撃を受けていた。
今はピーツ国のあった辺りが戦場になっているとタルの町でカイが聞いてきた。
レティシアたちは日常を取り戻し普通に生活することにした。
レティシアの結界はかなり効果があり、自分たちに興味を持つ人もいない。そして自分たちがどうしていようと戦争が終わるわけでもないと半ば開き直った感じではあった。
そんな日々が続き、半年が経ったある日、町に情報が入った。
『チュンバ国が撤退して行った』
町の人たちは喜んだ。戦争に赴いた人たちが町に帰ってくると。
────
「私とレティの出番はなかったね。」
ツキはそう言って笑っていた。
レティシアもいつ呼ばれるかとドキドキする毎日だった。
あれからハンナともレオハルトとも音信不通だった。
二人に何かがあってもここに知らせが来ることはないのでカイは町に行くたびに噂話に加わっていた。
「あの二人はどうしてるんだろうね。」
レティシアは気にしないふりをしていたが我慢できずにカイに聞いてしまった。
「今のところ誰かがやられたというような知らせはないんだ。なんだかとんでもなく強い魔法師が現れて敵を蹴散らしたんだってよ。」
だから敵は撤退していったのかとレティシアは思った。
「そのうち暇になったら遊びに来るわよ。」
ケリーはそう言っていちごジャムを塗ったパンをくれた。
それを見てレティシアは思い出した。
「ツキ!砂糖を作ってみよう!」
「あっ!畑のサトウキビが大きくなってた!」
二人がケリーとダメ元で植えたサトウキビはどんどん増えて立派に育っていた。
二人はケリーにサトウキビ汁絞り機を借りた。
採れた汁を鍋で煮詰めながらツキは優しく風魔法で水分を蒸発させた。
すると鍋には茶色の結晶ができた。
レティシアは一欠片食べてみた。
それは前世の記憶にある黒砂糖の味がした。
「思っていたのと違うものができちゃった。」
「でも甘くて美味しいね。」
ツキはご満悦だった。
ケリーに見せると「これはこれだけで立派なスイーツね!」と喜んだ。
ケリーが喜んだので畑のサトウキビはすべて黒砂糖にした。
そしてまたサトウキビを畑に植えた。
黒砂糖はたくさん作れなかった。たくさん作るにはかなりの量のサトウキビが必要なようだ。
二人は白い砂糖作りを諦めた。
世の中そんなに何でもうまくいくわけではない。
ツキの何でも具現化する魔法を使えば簡単に手に入るが、レティシアはできるだけ使ってほしくなかった。それに慣れてしまうとこの世界が崩れてしまうんじゃないかと、少し不安な気持ちになるからだ。
ツキにもレティシアの気持ちが伝わっているようで何でも「出そうか?」と言うのをやめた。
それに難しい方が楽しいとツキは知っているようだった。
────
レティシアは8歳になっていた。
戦争の話はほとんど聞かなくなり、誰しもがそのことを忘れているようだった。
ハンナは店に戻り、レオハルトはそのまま騎士団として城で働いているということだった。
戦争の話をハンナに聞くことはなかったし、ハンナも話すことはなかった。
きっと嫌な思い出だろう。
ルルは念願の店を建てるための土地をみつけた。
一括で払うだけの資金はあったが、カイに止められた。
「金を持ってると思われたら悪いやつが寄ってくるからな!」
カイのすすめで3回払いにしてもらった。
店舗の建設はツキが魔法でやると言い張ったが、そんなわけにもいかず、大工に依頼した。
木材だけはカイがツキの用意してくれたものをわざわざ荷車で運んだ。
ルルとケリーは店のことで頭がいっぱいのようだった。
レティシアとツキは服作りに興味がなかった。
それよりも魔法の研究がしたかった。
レティシアとツキはカイに相談して地下室を作ることにした。
カイは地盤やなんかを確かめて、結局山の方に作ることになった。
ツキはいつものように器用に穴を開け、階段を作って下に降りていけるようにした。
「空気の穴も必要だよ。」
レティシアは排気口のことを思い出して入口とは別に細い穴も開けてもらった。
中はかなり広く、多少バチバチやっても大丈夫なようにした。
崩れるのが怖かったので金属で壁や天井を補強した。
レティシアにも建築の知識がなかったので、いろいろ試しながらの建設となった。
二人はそれが楽しくて、部屋が出来上がるまでに1ヶ月以上かかった。
出来上がりは補強に補強を重ねていて、頑丈そうだけど不格好だった。
それでも二人には立派な秘密基地となった。
────
レティシアたちの秘密基地が完成した頃、ルルの店も建物だけ出来上がった。
あとは内装や棚やカウンターを作っていく。
外から見えなくして、ルルはツキに加工してもらった木材をカバンから出した。
ケリーも楽しそうに手伝っている。
ケリーも密かに毛皮を使った服やカバンを売りたいと思っていた。
二人は作業の合間に商品作りも進めていた。
「レティ!動かないで!」
ルルは子供服も作ると言ってレティシアのサイズを測っていた。
「レティも大きくなったわね。」
ルルはそう言ってツキを見た。
ツキは出会ったときのままの姿に見えた。
「ツキはあまり変わらないね。」
「うん、生まれたときからそんなに変わってない。」
ルルはツキが魔族であることをすっかり忘れていた。「ツキはそのままがいいね」と言って頭を撫でた。ツキは嬉しそうに笑っていた。
ルルはツキのサイズも測った。何種類か作るようだった。
「ミシンがあれば楽なのにね。」
「ミシン?」
レティシアはまた前世の記憶の話をしてしまってハッとした。
「えっと、自動縫い装置。」と言い直した。
「そんなのあったらいいわね。」
ルルはちまちまと手縫いで服を作っている。
レティシアはカイに相談した。
ある程度のミシンの形を思い出して、絵に描いた。
レティシアは前世で手芸をやろうとしていたことがある。
その時に母親にミシンの使い方を習っていた。母親は洋裁がとても上手で、ミシンの仕組みから教えてくれた。「便利でしょ。ミシンは見えないところで糸をくるってやって、人間には真似出来ないすごい機械なのよ。」そう言って笑っていた母親を思い出した。
カイとレティシアはミシン開発を始めた。
ツキは言われたとおりの部品を器用に作ってくれる。
それを組み立てたり、壊したり、また組み立てたりと試行錯誤が続いた。
カイもその作業が楽しかったようで文句も言わずにつきあってくれていた。
そして数週間かけてミシン初号機が完成した。
魔力で動く仕組みなのでレティシアかツキが定期的に魔力を込めないといけなかったがルルは大喜びだった。
「すごいわ!!ありがとう!!」
ルルの店はほとんど完成に近く、あとは商品を増やすだけだった。棚が一杯になったら開店すると言っていたがなかなかそれが進んでいなかった。
ミシンの効果はすごく、ルルは使い方をすぐにマスターしてひたすら服を作っていた。
棚は色とりどりの服でいっぱいになってきた。
この調子なら開店の日も近いだろう。
────
ルルの店がオープンした。
最初はまばらだった客もたくさん来るようになった。
意外にも貴族のご婦人に人気が出て「店を貸し切りたい」だとか「家まで商品を持ってきて見せろ」だとか言ってくる人が増えた。
ルルはその度に特別な対応はいたしかねます。と断っていた。別に貴族相手に商売をするつもりはなかったからだ。
それは逆に貴族の間で宣伝効果があったようだった。
「あの気難しい店で買ったの?すごいわ!」とよくわからない付加価値がついていた。
貴族はルルの編んだレースが装飾された物を好んで買っていた。店の中では高価な部類である。
レースだけはミシンでどうにかならず、量産ができなかった。
あっという間に売り切れてしまい、「予約したい」という人たちを断るのも大変だった。
ルルもケリーも忙しそうだったが、とても充実した毎日で楽しそうだった。
用意していた商品がほとんど売り切れてしまい、布もなくなってしまった。
ルルは一旦店を閉めることにした。
「布の買い付けに行くわ!馬車を貸して!」
ルルは国王の城があるザギンの街に行くと言い出した。
タルの町から馬車で半日くらいだと聞いていた。
カイは少し悩み、自分も行くと言った。
「私も行きたい!」
レティシアがそう言うと「じゃあ私も!」とツキが言った。
「それならみんなで行こう!みんなでお出かけだ!」
ケリーがそう言い、みんなでザギンへ行くこととなった。
────
朝早く出発した。
馬車は一度タルの町の方へ行き、それから南下した。
ツキは新しい地図を作っていた。
「わりと何もないね。」
レティシアは地図を見てから外の景色を見回した。
平坦な道が続き、馬車も走りやすかった。
さすがは首都に続く道だとカイが褒めていた。
小川をみつけて休憩をした。
馬のオルリは優秀だったが無理をさせたくなかった。
大きな荷馬車が行き交っている。
砂糖もザギンの方で作られているとケリーが教えてくれた。
馬車を走らせること4時間くらいで大きな城壁が見えてきた。
サツロ国の首都、ザギンの街である。
────




