第45話
レティシアたちはおとなしくする生活に飽きていた。そんなときに、ひょんなことから砂糖作りを始めた。
ケリーの持っていた道具はとても優秀だった。
ローラーがついていて挟んだものを伸ばすことができるのだが、少し調整しただけであっという間にサトウキビの汁絞り機になった。
レティシアたちは面白いように出てくる甘い汁を見てワクワクしていた。
汁自体はそこまで甘くはない。
「多分鍋で煮詰めるのね。」
ケリーはそう言って銅の鍋に汁を入れて火にかけた。
かなり火加減が難しく、油断しているとすぐに焦げてしまった。
「これは難しいわ。」
ケリーは早々にリタイヤした。
「砂糖が高価なのがよくわかるわね。」
レティシアは諦めずにいろいろ試してみた。
しかしいくらやっても砂糖にはならなかった。
甘くてどろどろした液体はできた。
「ジャムにするならこれでいいじゃん。」
ツキがそう言ったので、これはジャム専用ということにした。
「水分だけを抜くってなかなか難しいね。」
「魔法が使えたら風魔法で乾燥させられるのにね。」
二人は一瞬悪いことを考えたがやめておくことにした。
「また魔法を使っていいよって言われたら試そう!」
「そうだね!」
二人の砂糖作りは失敗に終わった。
《あのゲームの作業台がほしいわ》
レティシアは某ゲームを思い出して、あれこそが魔法だと思った。
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カイとルルが帰ってきて、「変なやつに目をつけられた」と言った。
二人はいつものように鉄を売りに行ったが帰りに数人にあとをつけられたというのだ。
それに気がついた二人は元いたトンネルの方に誘導してきたと言った。
「トンネルがバレちゃうね。」
「まぁ、俺たちにはもう必要ないし。あの人たちが採掘をしたいならそれはそれで止められないからね。」
カイはそう言って笑っていたがトンネルにはもうめぼしい鉱石などないはずだ。
彼らはトンネルをみつけるとそれ以降は追いかけて来なかったということだった。
「とっても遠回りになって疲れちゃったわ!」
ルルはとてもご立腹だった。
「しばらくは俺たちも町に行くのはやめるよ。」
「そうね、それがいいわね。」
ツキが初めてみんなのために掘ってくれたトンネルだからレティシアには少し愛着があった。
知らない誰かに荒らされると思うと少し心が痛くなった。
「強欲な人間め!許さん!」
ケンは一人で怒りながらパタパタ飛んでいった。
しかし大事なのは今住んでいるここを誰かにみつからないことだ。
この生活を誰かに邪魔されるなんてレティシアは考えるのも嫌だった。
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カイはそれから家のまわりを見回っていた。
町から森へは少し回り道をして入っているのですぐにはみつからないだろう。
あの洞窟にあるものを誰かに知られたら大変なことになる。それこそ戦争になるに違いない。
カイは洞窟の入口を埋めるべきかと考えていた。
鉄やエメラルドを売ったお金がたくさんある。
この先、何十年も働かなくても食べていけるだろう。
「なぁ、ツキ、このカバンのアイテムボックスって本人以外は使えないとか細かい設定はできないかな?」
カイはカバンをみつめていた。
「うーん。やってみる?」
ツキはカイのカバンを持って首を傾げながら唸っていた。そしてカイの腕を掴んでカバンの中に入れた。
「多分できた。」
ツキがそう言ったのでカイはケリーにカバンを渡した。
ケリーがカバンを見ると中身は空っぽでアイテムボックスのような空間は見えなくなった。
「ツキ!すごいな!」
カイは喜んでツキの頭を撫でた。
ツキは嬉しそうにしていた。
「あ、魔法使っちゃった。」
カイは「ごめんごめん」と謝った。
「みんなに盗られたくないものでも入れたの?」
ケリーは冗談交じりでカイに聞いた。
「いや、盗賊とかに盗まれても中身を取られないようにさ。」
カイのカバンの中にはまだまだ高価なものがたくさん入っている。
カイはそれから洞窟の話をした。
「このままにしておくか、入口を埋めるか、採掘してしまうか。みんなはどう思う?ここもいつかは誰かにみつかるかもしれない。」
金も銀も今は特に必要はない。
レティシアは入口を埋めてもいいんじゃないかと言った。
ケリーは採掘したそうな顔をしていた。しかし必要のない物のせいで誰かに狙われるようなことがあってはいけない。
「じゃあ一度埋めよう。もし必要になったら掘ればいい。」
みんなは頷き、洞窟は埋められることになった。
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カイは木材で中に板を張った。そこに大きめの岩を並べ、次に小さな岩を敷き詰めた。最後に土を被せ踏み固めた。
ケリーは目印にすると言い、小さな木を植えた。
気がつくとレティシアはそこに向かって手を合わせていた。
ツキはそれを見て首を傾げていた。
レティシアも自分でも、わけがわからなくて首を傾げた。二人はそのまま目を合わせてクスッと笑った。
「また暇になったね。」
ツキはつまらなさそうに湖のほとりを歩いた。
レティシアとツキはそのまま湖の見える場所に座った。
「釣りでもする?」
ツキは「そうだね」と言って釣り竿を出した。
すると目の前が急に暗くなった。
何事かと見上げると真っ赤な馬が空を飛んでいた。
「レティ!助けて!」
そこにはハンナが乗っていた。
空飛ぶ馬はゆっくりとレティシアたちの後ろの地面に降りた。
ハンナは血だらけの何かを乗せてきた。馬が赤く見えたのはその人の血のようだった。
「私じゃ治せないの。お願い、レティ。」
ハンナは泣いていた。そしてゆっくりと馬からその人を降ろした。
銀色の髪のハルだった。
防具をつけていたようだがボロボロになっていた。
そしていろんなところから出血していた。
「なにしてる!助けるぞ!俺様も手伝うぞ!」
ケンが急に騒いでハルのまわりを飛んだ。
「ハンナ…私、何をしたらいい?」
レティシアはパニック状態になった。
「私の回復魔法じゃ効かないの。レティなら…。レティシア様なら助けられると思うの!」
ハンナにレティシアと呼ばれて少し驚いた。
ハルは顔面蒼白で呼吸もわずかだった。
《死んじゃう!!》
レティシアはハルを助けてと祈り続けた。
ケンはレティシアの肩に止まり、何かを詠唱していた。
ハルの体はゆっくりと光り始めた。
優しい柔らかい光に包まれた。
「レティ、男の手を握れ!」
ケンが叫んだ。レティシアはそっとハルの手を両手で握った。
《どうかこの人を助けて!》
光がシュッとハルの中に消えていった。
ハルはゆっくりと目を開けた。
「よかった…。」
ハンナはその場に泣き崩れた。
「ここは…?」
ハルは状況がよくわかっていないようでハンナを見てからレティシアを見てハッとしていた。
「あ、あの。すいません!」
レティシアはパッとハルの手を離した。
「レオハルト様、こちらがレティシア様でございます。」
ハンナは泣きながらレティシアを銀色の髪の男に紹介した。
「レオハルト様?」
レティシアはこの男がハルじゃなかったのかと驚いた。
「レティシア様、レオハルト様はあなたの兄君です。」
レオハルトは立ち上がりレティシアに向かって手を差し出した。
「レティシア、はじめまして…かな。」
レオハルトは恥ずかしそうにそう言った。
レティシアはわけがわからずレオハルトと握手をしていた。
ハンナは元気になったレオハルトと真っ赤に染まった空飛ぶ馬を浄化できれいにした。
「カイたちはいるかしら?説明させてもらうわ。」
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「まずはレティシア様、瀕死のレオハルト様をお助けいただき、まことにありがとうございました。」
ハンナは食卓に集まったみんなの前で頭を下げた。
「ハンナ、私たちには何がなんだかわからないよ。順番に説明してくれるかい?」
カイはいきなりハンナがやって来て、知らない男を家に入れるから驚いていた。
「このお方はピーツ国の王子、レオハルト・サシェ・ドラマニア様でございます。」
「いきなり訪問してしまい申し訳ありません。今は国もありませんので、ただのハルです。」
レオハルトはそう言って恥ずかしそうに笑った。
「あの日…、城が攻撃されたあの日…私はルルにレティシア様を任せ、レオハルト様のところへ向かいました。その時にはすでに遅く…レオハルト様は国王と一緒に敵に捕まってしまっていました。」
「その先は僕が話すよ。」
そう言ってレオハルトはゆっくり話しだした。
「僕を捕まえたのはチュンバ国の精鋭部隊でね、父にも僕にもまったく歯が立たなかったよ。すぐにどこかの廃墟みたいなところに連れて行かれてね。父は僕だけでも逃がそうとしてくれてね。敵の目を盗んでなんとか脱出させてくれたんだ。僕は味方を呼んで父を助けようと思っていた。でもすぐに父は殺されてしまったんだ…。僕は殺される父を置き去りにして…。逃げたんだ…。」
レオハルトは悲痛そうな顔で話を続けた。
「僕は絶望してね、どうしていいかもわからなかったし、何もできなかった。誰を頼ることもできなかったし、とにかくあの場所から離れないとってそれだけだった…。城で僕は甘やかされて育てられていたからね、一人じゃ何もできなくて。もうだめだ、このまま死んでしまうって…。どこかの森で倒れたんだ。そこで師匠に拾われたんだ。
師匠っていうのは剣の才能が神のような本当にすごい人でね。その人が僕を育ててくれたんだ。
剣を習って、生活に必要なスキルも一通り教えてくれた。何者でもない僕を一人の人間として、家族として…育ててくれたんだ…。」
レオハルトはそこまで言うと涙ぐんだ。
「でもね、おじいさんだったから…。死んじゃったんだ。眠るようにね。僕の手を握ってね…。」
レオハルトはついに泣きだしてしまった。
ツキはレオハルトにハンカチを渡した。
「ありがとう。」
ツキはビクッとしてレティシアの後ろに隠れた。
「それで僕は剣術大会に出ることにした。師匠に胸を張って僕は成長したって伝えたかったんだ。
でもあんなことになるなんて思ってなくてね。騎士団になれって言われて、連れ回されて…。
そこでハンナに出会ったんだ。」
レオハルトはとてもゆっくり、思い出すかのように自分の話をした。
レティシアは目の前にいるこの男が兄だと言われても信じることができないでいた。
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