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第40話

レティシアたちはハンナにもらったチケットで剣術大会を観戦していた。

ルルの推していたセドリックはジュウロウという武士のような剣士に負けてしまった。


ハルが登場した。相手は二刀流のゴリンカという男だった。

ルルの好きそうな見た目ではない。筋肉隆々でレティシアはボディービルダーを思い出した。

日焼けした肌に真っ白な歯をむき出しにして笑う。

ゴリンカは歓声に答えようと力こぶしを作って会場を沸かせた。


ハルはそれを黙って見ていた。試合はとっくに開始している。

ゴリンカのアピールがようやく終わり、ハルは剣を構えた。

ハルの髪の毛は長くボサボサで表情がわからない。


レティシアはツキを見た。ツキは軽く首を横に振った。レティシアはそれを見てウンウンと頷いた。

魔法を使って試合を妨害してる感じがしないという二人の共通認識だった。


フードの女は相変わらず何かを詠唱しているように見えたが、他にも似たようなことをしている人がいて、レティシアには選手以外のところで戦っているように感じた。

ハルに危害がないならそれでいい。


試合はどちらも一歩も引かないという感じだった。

二人とも少し疲れが見えてるように感じた。

そんな時、空が急に暗くなって黒い何かが降ってくるように見えた。


ハルはギリギリ避けたがゴリンカには直撃してしまった。

ゴリンカは急に目の色を変え、ハルではなく観客席の方を向いた。

そして次の瞬間、国王の席めがけて一直線に走っていくように見えた。


ハルはそれに気がつき、ゴリンカの後を追った。

ゴリンカは闘技場のラインを越えた。この時点で失格である。

そんなこと気にもせずにゴリンカは国王めがけてすごいスピードで進んでいた。


ハルは大きくジャンプをしてゴリンカめがけて剣を振り下ろした。

ゴリンカは国王の目の前まで来ていた。

そこでゴリンカは力尽きた。ハルの剣が頭を貫いていた。


国王のまわりにいた騎士団たちが息絶えたゴリンカを囲んだ。

ハルは騎士団の一人に取り押さえられた。


会場内はパニックになった。

本戦では真剣を使っているので死ぬことも想定されていた。しかしそれは場外で起きた。


誰が見てもハルは国王を助けようと悪者をやっつけただけだ。

ハルはあっという間にどこかに連れて行かれた。

司会の人は「ただいまの試合は審議が必要なためお時間をいただいております」と説明した。


「どうなっちゃうの?」

レティシアはハルが心配だった。

「わからない。ゴリンカはなぜあんなことを?」

ルルもパニックになっていた。


「誰かに操られてた。」

ツキはそう言って、「犯人が誰なのかはわからない」と言った。

怪しいのは観客席で詠唱していた人たちだ。


ハルの試合の結果を待たずに準決勝が始まった。

ルルは推しが負けたのでもう試合には興味がなさそうだった。

「あんな酷いことをさせるなんでどこの誰かしら?」

ルルは観客席をじっくり見ることにした。


レティシアもツキも不審人物を探そうとしたがみつけられなかった。

詠唱していた怪しい人たちの姿が見えなくなっていた。


試合はジュウロウが勝利した。

大歓声の中、礼をして下がっていく姿はなんど見ても好感が持てるとレティシアは思った。


準決勝第二試合のアナウンスが入る。

『先程の試合はハル選手の勝ちという判定が出ました。これよりハル選手対ヒギンズ選手の試合を始めます。』

観客席は盛り上がった。ハルは国王を助けたヒーローだと認めたようなものだったからだ。


ヒギンズはこれと言って特徴のない選手だった。

「あいつ、魔法かなり使える。」

ツキはヒギンズを睨みつけてそう言った。

軽々と剣を振り回しているように見えたが、魔法での操作介助されてるとツキは言った。


ヒギンズはよく左手を口に当てていた。詠唱してるのを見られないようにだろうとルルは言った。

ツキも「そうだと思う」と言ってヒギンズを睨みつけた。


レティシアは相手の魔法が跳ね返る結界をハルにかけたかった。しかしどこかでそれを妨害している人がいるようでうまくいった感じがまったくない。

試合をしている二人とは別に客席の中でも激しい妨害戦が繰り広げられていそうだった。


ヒギンズの魔法が付加された剣をうまく躱していたハルは、すきをついて何度かヒギンズに攻撃をあてていた。

ヒギンズの腕や足から血が流れているのがわかる。どれもかすり傷のようで試合は持久戦のようになってきた。


「何かやるみたい。」

ツキがそう言うとヒギンズの剣から黒い煙が上がっていた。それはぐるぐると蛇のようにヒギンズのまわりでトグロを巻いた。


会場内は息をのんでそれから目が離せなくなった。

ハルは近づいてくる煙の蛇を剣で切った。しかし切った先が消えるだけで次から次へと迫ってくる。

ハルの服にそれが触れるとジュッといって溶けたように見えた。


ヒギンズのまわりはその煙が彼を守っているようで近づけなくなっていた。

ハルは高速で移動して煙を切っていく。

キリがないように見えたがヒギンズは疲れてきているようだった。詠唱し続けているのだから無理もない。


もう少しでハルはヒギンズに届きそうだった。

その時、闘技場の上空から光る何かが降ってきた。

会場内は「またか!」と騒然となった。

今度は二人ともその何かに当たってしまった。


二人はその場にバタリと倒れた。

騎士団は異変に気がつき国王を守る態勢になった。

緊張が走る中、ハルがピクリと動いた。


レティシアはすごく嫌な予感がした。

ハルはゆっくり立ち上がり、国王の方を向いた。

《ダメ!!ハル!!変な魔法に負けないで!!》

レティシアは心の中で大声をあげた。


ハルはその場でキラキラと輝き始めた。

ルルはすぐにレティシアを見た。

「あ。えっと…。」

レティシアはそれを出した自覚があった。


バンッという破裂音がした。

ハルの横にいたヒギンズは消えていた。

国王の前で煙が上がり、レティシアたちの席からはどうなったのかよくわからない。


前方の客席から悲鳴が上がった。

「ヒギンズが爆発した!!」

前方にいた貴族が顔面蒼白で叫んだ。

国王のまわりのボックス席は吹き飛ばされて跡形もなくなっていた。

国王のボックス席は騎士団が守ったようで、なんとかその形を保っていた。しかし騎士団メンバーは爆風を浴びたようで真っ黒になっていた。


すぐにハンナがやってきて騎士団たちはすぐにきれいになった。みんな怪我もないようだ。

すぐに空飛ぶ馬たちが現れ、国王たちは何も言わずに飛んでいってしまった。


ハルは一人残され、レフェリーは呆然と立ち尽くしていた。

関係者のような人がやって来て、レフェリーの背中を叩いた。レフェリーはハッとしてハルのところにやってきた。


「勝者、ハル!」


いつもなら歓声が上がっただろうが会場内はザワザワと騒然としていた。

ハルはフラフラと控室の方へと入って行った。


2日連続で国王が狙われた。昨日のはただのハプニングではなかった。誰もがそう感じた。

「こりゃ剣術大会どころじゃないな。」

観客たちは我先にと出口へ向かった。

中には「戦争が始まる」と騒ぐ人もいた。


会場中央に何人か集まっていた。

そしてすぐに「剣術大会の中止をお知らせします」と言った。

「闘技場破損のため」と言っていたが誰しもそうじゃないだろうと思っていた。


パニック状態の客席の中でレティシアたちは黙って座っていた。今動くのも危険だとルルが判断した。

「ルル!」

ハンナがレティシアたちをみつけて手招きしている。

レティシアたちは帰ろうとする人たちを掻き分けてハンナのもとに向かった。

「びっくりしたでしょ?大丈夫?」

みんなはこわばった顔で頷いた。


「とりあえず薬屋まで行きましょう。」

ハンナはそう言って関係者以外立入禁止の通路を進んだ。

関係者たちはすでに逃げ出したようで人の姿はなかった。

ハンナは裏口からみんなを出し、裏道を通って門に向かった。門は馬車が渋滞していてパニック状態だった。


レティシアたちは隙間をぬって町に出てきた。

そして走るように薬屋に向かった。


────


ハンナはみんなを店に入れて鍵をかけた。

それてレティシアの顔を見て「よくやったわ」と言った。

ハンナはレティシアがハルに何かをしたと気がついていた。

「あのままハルまでおかしくなってたら国王たちもどうなっていたかわからなかったわ。」

ハンナはあの瞬間、国王たちに結界を張ったのだそうだ。

急なことだったので他の人は守れなかったと肩を落とした。


「強力な魔法師が会場内に居たようで、国王にかけられていた結界が壊されていたの。」

ハンナはため息をついた。


「誰かが国王を殺そうとしたんだよね?」

ルルは震える声でハンナに問いかけた。ハンナはゆっくり頷いた。


「闇属性を持つ魔法師がいる。」

ハンナはそう言ってテーブルを叩いた。

闇属性を使う人間はかなり少ない。それ自体が邪悪な存在と恐れられている。

「闇属性は人を操れるんだね。」

ツキはいつもの感じでそう言ったが、レティシアは恐怖の表情で固まってしまった。


《ツキが操られたら国が滅ぶ》

レティシアはそれだけツキが強い存在だとわかっている。それはハンナも同じようだった。

今日のヒギンズもかなりの魔力の持ち主だったが、ツキに比べたら全然たいしたことない。


「しばらく家でおとなしくしてて。」

ハンナが真剣な顔で言うのでルルは少し怯えた。

「わかった。みんな帰るよ。」

ルルは二人と手を繋ぎ、店をあとにした。


────


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