第39話
ハル対レクシス戦が始まった。
レクシスはまるでアイドルのように振る舞い、女性たちの歓声を集めていた。
一方ハルはヨロヨロと今にも負けそうだった。
「君、そんなんでよくここまでやってきたね?レフェリーに金でも積んだのかい?」
レクシスがそう言うと観客席からドッと笑いが起こった。
レクシスはハルが来ないのをいいことに観客に向かってアピールを続けていた。
「さて、おしゃべりも飽きてきた。こないならこっちから行くよ。」
レクシスは美しい長い剣を振り上げ、ハルに向かって振り下ろした。
ハルはそれを剣で受け流した。
レクシスの笑顔はだんだん消えてきた。
ハルはどんな剣も受け止め、レクシスの攻撃は一度も当たらなかった。
「そうか、相手を疲れさせる作戦か。卑怯者め。」
レクシスはそう言うと何かを詠唱した。
歓声でかき消されていたので何かはわからないが絶対に魔法だとレティシアは思った。
レクシスの剣が燃えた。燃えたというより火を纏っている。
貴族たちはそれを見てとても喜んでいた。
「燃やせー!殺せー!!」
ひどい有様になった。
レティシアとツキは顔を見合わせた。
レティシアはハルに火の粉がつくたびに消し、治療をした。
ツキはかなり怒っている様子でレクシアの剣の炎を大きくした。
会場内は大技が来ると大歓声があがった。
しかしレクシアは驚いて剣を落とした。
炎の勢いは止まらず、落としたのに炎はレクシアに向かって燃え広がった。
レクシアはたまらず逃げ出した。
ハルはそんなレクシアを転ばして地面に叩きつけた。
そして片足でレクシアの背中を踏んで頭に剣先を突きつけた。
「やめてくれー!レフェリー!止めてくれ!!」
どこかの貴族がボックス席から身を乗り出して叫んだ。
レフェリーは焦って「そこまで!」と言って試合を止めた。
ハルはゆっくりと貴族から足を降ろし、剣を鞘に収めた。
会場内は一瞬静かになったがすぐにヤジが飛んだ。
「何止めんてんだ!最後までやらせろー!」
「レクシア様が負けるわけないわ!」
レフェリーは「勝者ハル!」とハルの手を掲げた。
ルルはポカンとそれを見ていた。
ツキはレティシアと目を合わせてニコッと笑った。
ツキは剣の炎を強くしただけである。
レティシアは魔法を使ったレクシアが悪いと思っているのでハルに拍手をおくった。
予選から上がってきた8人は貴族のずる賢い戦術や魔法によって半分が負けてしまった。
レティシアの結界はかけてもかけてもすぐに効果がなくなっているように思えた。
レティシアは自分の能力不足であると思ったがツキが不審な人物をみつけた。
その人は選手の方をじっと睨みつけ、ブツブツと何かを言っているように見えた。
「あいつが選手に何かしてる。」
ツキはそう言って嫌なものでも見るような顔をした。
ツキは指でデコピンでもするかのようにその不審者に向けて指をパチンとした。
その瞬間、被っていたフードが外れ、頬を押さえた。
何かで切れたようで1本線の傷ができていた。
その人物はどうやら女性のようだった。すぐに脱げたフードをかぶり直した。
試合場ではさっきまで優勢だった男が逆転負けをしていた。
不審なその女はキョロキョロと辺りを見回している。
レティシアたちは目が合わないように目線を選手に戻した。
「ツキ、やったな!」
ポシェットから顔を出していたケンがそう言って嬉しそうにしていた。
レティシアはケンを撫でてポシェットの中にそっと戻した。ツキはニヤニヤしていた。そしてレティシアも。
会場内は逆転勝ちした選手への拍手が鳴り止まなかった。
「彼は下級貴族の息子でな、そういうやつが勝つとなぜか盛り上がるんだよ。」
レティシアの前の席に座っていた男が隣の女の人にそう話していた。
今日予定していた全試合が終わり、8人の選手が残った。
その中にルルの推しのセドリックと銀色の髪のハルも残っていた。
国王たちはまた空飛ぶ馬に乗ってどこかに消えていった。
「すごかったわね!」
ルルは帰る道中ずっと興奮気味だった。
レティシアは余計なことをしてたのではないかと少し不安になっていた。そんなレティシアの様子を見てツキは「悪いやつは倒す」と言ってニコッと笑った。
「そうだよね!」
レティシアは笑顔を取り戻した。
闘技場を出たところで貴族が太った商人のような男を杖で殴っていた。
「旦那様!おやめください!」
従者が必死に止めようとしていたが貴族の男は怒り心頭の様子だった。
「絶対大丈夫だと言ったではないか!お前のせいで大損をしたんたぞ!死んで詫びるか金を返せ!!」
太った男は「もうしわけありません!」と一方的に殴られていた。
近くを歩いていた男が「賭けを外したみたいだな。ザマァみろだな。」と言って笑っていた。
「予想屋かしらね?二人とも見ちゃだめよ。」
ルルは二人を掴んで足早にその場を去った。
「勝敗を賭けてたのかな?」
「そうみたいね。何か仕込んでいて勝てる見込みがあったのかもしれないわね。」
ルルがそう言ったのでレティシアとツキは目を合わせた。
《あのフードの女の人だ》
お金が関わるとろくなことにならない。絶対に関わっちゃだめとルルは二人にきつく言った。
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家に帰ってからのルルはセドリックの素晴らしさをカイとケリーにこれでもかというくらい話して聞かせていた。
二人はルルが完全に元気になったことを喜んでいたがあまりにもしつこいので「もういい!」と怒られていた。
ツキはカイたちが揉めている間にレティシアのところにやって来て、「あの女、明日もやるかな?」と聞いてきた。
レティシアは「多分やると思う」とだけ答えた。
二人は目を合わせて小さく頷いた。
「悪いやつは倒す」
二人は声に出さずにそう呟いた。
「二人とも何をコソコソしてるのかしら?ご飯よ、手伝って。」
ケリーにそう言われて二人はクスクス笑った。
二人だけの秘密のようで少し楽しくなった。
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ハンナにもらった剣術大会のチケットは2日連続で観戦できるものだった。
3人はケリーが作ってくれたサンドイッチを持って闘技場に来ていた。
試合は昼からの予定なので早めに食べてしまうことにした。
その時、目の前を黒いフードの人が通り過ぎた。
その人は何かを探すようにキョロキョロと会場内をうろついていた。
時々その人は立ち止まりブツブツと何かをつぶやいていた。
レティシアは漠然とこの人に見つかってはいけないと思った。それはツキも同じ考えのようでこっちが見ていることを悟られないように、ときどき横目で見るだけにしていた。
「魔法に敏感な人がいるって言ってたよね。」
レティシアはルルに聞いてみた。
「そうね、魔法が使えなくても魔力を感知する能力がある人がいるみたい。」
レティシアとツキは魔力持ちだとバレない効果のある魔導具を身に着けていた。
これがなかったらツキはすぐに悪いやつに囲まれることになっていただろう。
黒いフードの人はどうやら昨日の女の人のようだった。席についてからも会場を見回しているように見える。
そうこうしているうちに試合が始まった。
第一試合にセドリックが出てきたので会場の若い女の人たちが一斉に歓声を上げた。
相手は年配の男性だった。その人はなぜかレティシアに「武士」という言葉を連想させた。
セドリックは華麗に相手の剣を避けようとしたが避けきれなかった。
ジュウロウと言う名前のその男は魔法で不正している感じはなかった。
まったく隙のない動きで、素早く間合いを詰めていく感じは暗殺者スタイルのセドリックと似ているものを感じた。
セドリックは笑顔で勝者を讃えた。
ジュウロウは無表情で礼をするとすぐに控室に戻っていった。
レティシアは何だかそんなジュウロウに好感が持てた。
ルルは悲しみを抑えきれず、無の表情になりピクリとも動かなくなった。
レティシアとツキはそっとしてあげることにした。
予選を勝ち残ってきた他の二人も続々と敗退していた。
フードの女のように試合中に詠唱している感じの人が何人もいて、レティシアとツキにはどうしていいかわからなくなっていた。
試合をしている二人よりも外野にいる魔法師の方が忙しいようにも見える。
ハルが出てくるとブーイングが起きた。
貴族たちはハルを勝たせたくないらしい。
ハルの相手は筋肉隆々の男で、剣を両手に持っていた。
二刀流ということもあり、ファンもたくさんいるようだった。
レティシアは心がザワザワしているのに気づいた。
これがいったい何なのか、わからないことが不安だった。
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