第38話
ハンナに剣術大会の本戦のチケットをもらった3人は貴族街の中にある闘技場に行くことになった。
ルルは朝から張り切っていて、着ていく服を選んでいた。
「俺様もつれてけ!」
ケンは朝からピーピーうるさく飛び回った。
「いいけど、今日は本当におとなしくしてよ?まわりは貴族だらけなんだから、みつかったら捕まえられるか首をはねられるわよ。」
レティシアは脅していたが「静かにする!大丈夫だ!」とケンも返し方を学んでいるようだった。
レティシアはポシェットにケンを入れて肩から下げた。
「騒ぎすぎて貴族に目をつけられないようにね。」
ケリーは少し不安そうにそう言った。
「ルルがうるさくしないように結界を張る?」
レティシアが冗談でそう言うとケリーは「いいわね」と本気にしてカイは大笑いをした。
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貴族街の門は混み合っていた。
馬車がぞろぞろと入っていく。
レティシアたちは歩いて門番にチケットを見せた。
すぐに中に入ることができた。
ルルは少し複雑な表情をしていた。もしかしたらマイトを思い出していたのかもしれない。
「いい席に座れるといいね!」
レティシアはそう言ってルルの手をギュッと握った。ルルはハッとしてニコッと笑い返してくれた。
3人は闘技場の方へ行くのは初めてだった。
貴族街はかなり広く、屋敷1軒あたりの面積もかなり広い。
ウロウロして何かあってもいけないので探索はしていない。
広い道には馬車が並び、貴族たちが入場を待たされていた。
「国王も馬車で来るのかな?この行列を全部よけないと入れないね。」
レティシアは金ピカの馬車に乗る王様を想像した。
徒歩のレティシアたちはすぐに闘技場の中に入れた。
前方の貴族たちの席はボックスになっていて立派な椅子にテーブルもついていた。
後ろに行くと椅子が並んでいるだけの座席で、座っている人を見ると執事やメイドもいた。
今日は従者たちも休みにしてもらっているのかもしれない。
「レティ!」
聞き覚えのある声がして振り向くとそこにイチがいた。
「イチ!久しぶりだね!」
イチは貴族のカルダン家で住み込みで働いている。今日は母親のマーサと来たようだ。
「カルダン様がチケットをくれたんだ!」
イチは嬉しそうにチケットを見せてくれた。
「私たちよりいい席みたいね。私たちの席はもっと後ろだわ。」
ルルはそう言って残念そうにした。
カルダンは見栄っぱりだとイチが言っていた。こういう時に従者はおいしい思いができる。
レティシアたちはイチたちに手を振り、自分たちの席を探した。
かなり後ろでルルはがっかりしていた。
まわりは町の人たちが多いように見えた。高いけどお金を出せば町の人たちも観ることができるようだった。
「気楽に観戦できるよ。」
落ち込むルルにレティシアはそう言った。
ルルは「確かに!」と言って元気になった。貴族たちの座る席からはかなり離れている。少しくらい騒いでも大丈夫だろう。
そろそろ始まる時間になりそうだったが最前列中央にある国王の席とみられる豪華なボックス席はまだ空っぽだった。
レティシアは国王とはどんな感じなのかとても興味があった。
急に観客席の中からどよめきが起こった。
みんなはどうやら空を見ている。
「なんか、来る。」
ツキはそう言って空を指差した。
そこにはレティシアの前世の記憶の中にある翼の生えた馬が何匹も飛んでいる。
それらは闘技場の真ん中に着陸した。
白い美しい馬から降りた人物は観衆に向かって右手をあげた。
「国王!!」という歓声が上がり、みんなは拍手で迎えた。
まわりの馬から降りてきた人たちは槍を持ち、防具をつけていた。
「きっとあれが騎士団ね。かっこいいわね。」
ルルはそう言って目をキラキラと輝かせていた。
国王たちはツキの魔法のようにふわっと飛び上がり空いていたボックス席におさまった。
それを待って闘技場の中央に司会と思われる人が出てきた。
「お集まりの皆様、お待たせいたしました。国王ゲルラド・シュ・バラード様より開会の宣言をいただきます。」
国王はゆっくり立ち上がり「これより剣術大会を始める!」と叫んだ。
「やっと始まるわね。」
ルルは国王には興味がないようだった。
しばらく貴族同士のぬるい試合が続いた。
お披露目と言っていたのはコレのことだとすぐに気がついた。
レティシアたちは持ってきていたサンドイッチを食べながらつまらない試合を観戦した。
「予選のほうがよっぽど楽しかったわね。」
ルルは小声で文句を言っていた。
「俺様にも食わせろ!」
ケンも退屈している様子だった。
レティシアは大きなままサンドイッチをかごに入れた。ケンは美味しそうに自分の体くらいあるサンドイッチを食べ始めた。
ツキは気がつくとルルの膝枕で寝ていた。
それくらいつまらない試合が続いた。
前方にいる貴族たちは自分の息子が出てくると大声で褒めたり貶したりしていた。
「予選の勝者たち出てこないね。」
「シード枠らしいわ。こんなつまらない試合に出したら相手が可哀想でしょ。」
ルルの言葉にレティシアは「確かに」と言った。
午前中はそんな試合ばかりで、ルルたちの近くに座ってる町の人たちは試合も見ずに酒盛りをしていた。それはそれで楽しそうではあった。
レティシアたちは完全に飽きてしまった。
ルルはつまらなすぎて観客席の人のファッションチェックを始めた。
「あの人の帽子いいわね!あの羽がついてるところとか、かわいいわ。」
ルルはメモを取りながら絵を描いていた。
「上手だね。」
レティシアがそう言うと、ルルは照れくさそうに話してくれた。
「実は私、洋服を売る店をやりたいの。自分で作って売るのよ。すてきでしょ?」
「わぁ!ルルならきっとかわいい服をたくさん作れるよ!」
ルルは店をやると言っていたことをちゃんと覚えていた。そして何をやりたいのかもみつけたようだった。
あっという間に昼休憩の時間になった。
座席のまわりに食べ物を売る人がやって来た。
ルルは美味しそうな焼き菓子を4つ買った。
ケンに1つ渡すと「ルルは女神のようだ」と喜んでいた。
闘技場の隅で剣を振る金髪の人が見えた。
「セドリック様だわ!」
ルルはいち早く見つけてキャーキャー騒いだ。
どうやら午後の試合から出てくるようだった。
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午後の試合の1番手にセドリックが出てきた。
相手はピカピカの鎧をつけた貴族だった。
立派な剣を持ち、顔は見えなかったが見た目は強そうだった。
セドリックは開始直後からいつものようにヒラヒラと相手の剣をかわした。
「逃げるとは卑怯だ!」
相手は重そうな剣を振り回し文句を言っている。
そしてセドリックに向けて「燃えろ!」と火の玉を飛ばした。
「魔法だよね?」
レティシアがそう言うとルルは顔面蒼白になっていた。
なんとセドリックのマントが燃え上がっていたのだ。
客席からは悲鳴が上がった。
火の玉を出した貴族は笑っている。レティシアたちは「貴族が出てきたらなんでもアリ」という言葉を思い出していた。
燃えるセドリックを見て貴族たちは喜び、盛り上がっていた。
《許せない》
レティシアは憎しみに似た感情が湧き上がるのに気がついた。
その瞬間、セドリックの炎は消え、美しい顔が見えた。
1番驚いているのはセドリックのようだったが、ハッとしていつものように暗殺者スタイルで首に剣を当てた。
「降参する」
鎧をつけた男はそう言ってその場に崩れ落ちた。
ルルはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。
ツキはレティシアを見て「やったでしょ」と言った。
レティシアは「なんのこと?」と、とぼけたがおそらく自分の魔法が発動してしまったと思った。
レティシアがニヤリと笑うとツキもニヤリと笑った。
その後の試合も貴族が魔法でズルをするたびにレティシアとツキも魔法で妨害をした。
貴族たちはいつもなら予選で上がってきた選手たちをいたぶって喜んでいたのに今回はおかしいと怒りをあらわにする人もいた。
そして試合にハルが出てきた。
いつもよりきれいな服を着ていたが相変わらずヨロヨロと危なっかしく歩いてきた。
「そんなボロカスやっちまえー!」とハルに対する怒号が飛んだ。
ハルは気にするわけでもなく、剣を構えて立った。
相手はきれいな顔をした長髪の男で、とても人気のある選手のようだった。
「レクシス様!!」
貴族のご令嬢たちからの黄色い声援が飛び交う。
「私はハルを応援するわよ!」
ルルは聞いてもいないのにそう言い出した。
レティシアは《相手の妨害が当たりませんように》と祈っていた。
「あいつ、すごい魔力だ。」
ツキはレクシスを睨みつけていた。
ハル対レクシス戦が始まる─。
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