第37話
レティシアはルルとツキと3人で剣術大会の予選3回戦目を観に来ていた。
ここまで来ると実力者ばかりでとても見応えがあった。
ルルはどうやら金髪の若い男の選手がお気に入りのようだった。
華奢な体つきだったが剣をヒョイヒョイ避けていつの間にか相手の首に剣を当てていた。
「セドリック様よ。」
ルルはセドリックが出てくると目を輝かせて応援している。
それは他の観客も同じようで若い女性たちの黄色い歓声が響きわたった。
レティシアの横にいたゴツいおじさんは「何だあのヒョロヒョロは」と言って、まわりの女性たちに睨まれていた。
試合が始まるとセドリックはいつものようにまるで優雅なダンスでもしているかのように相手の剣をかわしていた。
そして一瞬のすきをついて相手の首に剣をあてた。
《暗殺者みたい》
レティシアの素直な感想だった。
セドリックが勝つと大歓声があがった。
ルルはツキの両手を握りぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。
ツキは少し迷惑そうだった。
強そうな男たちがぶつかり合い、試合はすごく盛り上がっていた。
そしてあの銀色の髪の男が出てきた。
レティシアの隣にいたおじさんが「あいつ見た目は弱そうなのにめちゃくちゃ強いんだよ。」と褒めていた。
今日もボロボロの姿でフラフラと入場してきた。
「ハル!今日も期待してるぞ!」
隣のおじさんがそう叫ぶと銀色の髪の男はまたこちらを向いた。
レティシアはまた目が合った気がしてドキドキした。
「あの人、ハルって言うんですか?」
「ハルなんとかって長い名前だからみんなハルって呼んでるよ。」
試合が始まり、前回のように相手に押され気味のハルだった。
危なっかしくて会場は悲鳴に近い声が何度も響いた。
《危ない!!負けないで!》
レティシアはまた気がつかないうちにハルを応援していた。
ハルはまたピタッと動きを止めたかと思うと、何をどうしたのかわからないが相手を転ばし、胸元に剣先を当てた。
「そこまで!」
観客も一瞬何があったのかわからず静まり返ったがすぐに歓声があがった。
「ハルの試合は危なっかしくて心臓に悪いわね。」
ルルはふぅーと深呼吸をした。
「決勝戦は昼からよ。何か食べに行きましょう。」
3人は商店街の方へ行ってみることにした。
宿屋の方から聞き慣れた声が聞こえた。
「いらっしゃいませ!お祭り限定商品だよ!」
そこにはライがいて、レティシアの知っている食べ物が売っていた。
棒に刺さった揚げたドーナツのようなもの。
《アメリカンドッグだわ》
レティシアはすぐに駆け寄りそれを一つ買った。
食べるとやはりそれはアメリカンドッグだった。
レティシアが感動しているのを見てルルとツキも食べてみることにした。
「中にソーセージが入ってるのね!甘い生地とソーセージの塩味がうまく調和して美味しいわ。」
ルルはどこかの評論家のようにそう言った。
ライは嬉しそうに「またおいでください!」と笑顔で手を振った。
ツキは熱いのが苦手でまだアメリカンドッグを持ったままふぅふぅと冷ましていた。
「持ち歩きに便利でお祭りには最適の食べ物ね!」
ルルはそう言って感心していた。
「どこかに座って食べる?」
レティシアが心配そうに聞くと「もう冷めた。大丈夫。」と言って2、3口で食べ終わった。
商店街の人たちも店の前に屋台を出している。
いつもは入りにくい店も露店になると見やすい。
レティシアたちは普段見ないものもゆっくりと見て回った。
「そろそろ大会の席を取らないと!」
ルルはハッとして二人の手を掴んだ。
────
3人はいつもの場所に戻り、始まるのを待つことにした。この場所は高台のようになっていて上から見下ろす感じになっている。小さいレティシアとツキにとってはありがたい場所である。
試合は地面に引かれた線の内側で行われる。
線を踏み越えると負けになる。
殺してはいけないというルールもあるようだ。
魔法の使用も禁止されているが、本戦に進むと貴族たちが容赦なく使ってくるとハンナが言っていた。
決勝戦は8組が戦う。
ルルの推しのセドリックはいつものとおり華麗なステップからの暗殺者スタイルで大男を倒した。
ルルは大喜びで一生懸命セドリックに向かって手を振った。
ハルはいつにも増してフラフラとしながら入場してきた。
そのまま倒れたら負けになるのではないかと始まる前からハラハラさせた。
ポシェットからケンが出てきて、試合を見て首を傾げた。
「あいつ、誰かに似てるな。」
ケンがボソボソを独り言を言うのでレティシアは「しーっ!」と頭を叩いた。
ケンは不貞腐れてポシェットの中に戻っていった。
レティシアも思うところがあった。
"誰かに似てる"
心の奥で何かが引っかかっている。
ハルを見るとなぜかモヤモヤしてしまう。
レティシアがボーッと考えているとハルは押されて場外に出そうになっていた。
《押し返せ!》
レティシアが心の中で叫ぶとハルはキッと相手を睨みつけ、押し返した。
相手はそのまま倒れ、ハルは馬乗りになり喉に剣先を当てた。
「そこまで!」
会場から大歓声があがった。
ハルは歓声に応えるわけでもなく、フラフラと選手控室の方へと消えていった。
「あんなにフラフラしてて本戦大丈夫なのかしら?」
ルルはそこまで言って、自分が本戦を観られないということを思い出した。
「ハンナのところへ行くわよ!」
ルルは二人の手を掴んで会場をあとにした。
────
店にハンナはいなかった。
どうやら剣術大会で負傷した人の治療を任されていたようだった。
「関係者テントには行けないわよね。」
ルルはあからさまにがっかりしていた。
「ハンナに何の用だったの?」
レティシアはハンナの店先にある椅子にルルを座らせた。
「それはあれよ。ハンナなら明後日の本戦のチケットを持ってそうじゃない?」
ルルはドヤ顔でそう言った。
「ルルは関係者だからチケットとか必要ないんじゃない?」
レティシアの意見は的を得ていた。ルルは「確かに…」とまたがっかりした。
「試合が終わるまでここで待っててみる?」
試合中はどうせ会えないだろうと思ったレティシアはルルにそう提案してみた。
「そうね。そんなに時間かからないと思うし。聞くだけ聞いてみるのはアリよね!」
ルルは少し元気になってそう言った。そしてカバンからレース編みの道具を出すとおもむろに編み始めた。
「レティとツキできれいな糸を買ってきてくれない?レースにしたらよさそうなやつ。」
「わかった。」
ルルは二人にカイからもらったお小遣いを渡した。
糸を売っている店をレティシアは覚えていた。
雑貨屋みたいな店にきれいな糸やリボンが売っている。
「こんにちは。」
二人が入ると「いらっしゃい」と優しそうなおばさんが出てきた。
「糸を見せてください。」
「糸ならこっちだよ。」
店には刺繍用のカラフルな糸がたくさん並んでいた。
レティシアはレースになりそうな白い太めの糸を探した。
白にも数種類あって、レティシアは真っ白なのを選んだ。
「それはちょっといいやつなんだよ。銀貨3枚だけど大丈夫かい?」
ルルから預かったのは銀貨1枚だった。
ツキはすぐに自分の銀貨をレティシアに渡した。
レティシアは自分の銀貨も足して3枚支払った。
「ツキ、魚買わなくてよかったの?」
「いいの。ルルにあの糸をあげたい。」
レティシアは「私もそう思ったの」と言ってニコッと笑った。
二人はいい買い物ができたとニコニコでスキップをしてハンナのところへ向かった。
お店に行くと店先の椅子からルルが消えていた。
薬屋にはOPENの札が出ている。ハンナが帰ってきていた。
「おじゃまします。」
二人は店の中に入った。するとすぐにルルが飛んできた。
「ハンナがくれたの!本戦のチケット!」
ルルはチケットを握りしめ、ぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
「ハンナはどうしてチケットを持ってたの?怪我人の手当てをするんだよね?」
レティシアがそう聞くと「往診してるとくれたりするのよ」と言って嫌な顔をした。
「闘技場はかなりの広さがあるの。貴族だけでそれを埋めるのは大変なのよ。だからと言って誰でも入れるわけにはいかない。防犯上の問題もあるの。そこで貴族は自分たちでどうにか席を埋めようって暗黙のルールみたいなのができてるのね。それで見栄のために買ったようなチケットを余らせているのよ。チケットをたくさん買った人は偉いみたいな、貴族同士のアレコレがあるみたいよ。」
ハンナは「ヤレヤレよね」とため息をついた。
レティシアは前世での発表会のチケット売りを思い出した。会場を借りるための資金をチケット売りで賄う。売れなかったら自腹で買い取らないといけない。
「ちょうど3枚あったって!やったわね!」
ルルがとても喜んでいるのを見て、ツキはカバンから大きなアメジストの塊を出した。
「ハンナにお礼。」
ハンナは驚いてアメジストをみつめた。
「すごいわね、生きてるみたいに見えるわ。」
アメジストは空っぽの球体の中でニョキニョキと生えてきているように見える。
ハンナは一瞬悩んだがツキにお礼をしてカウンターの端っこにドンと置いた。
「盗まれない結界を張っておくわ。」
ハンナがニコニコしていたのでツキはとても嬉しそうだった。
ハンナのおかげで3人は貴族街の中にある闘技場での本戦の試合を見に行けることになった。
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