第36話
数年に一度タルの町で開催される祭りに屋台を出したレティシアたち。
わたあめは予想をはるかに超えてすぐに売り切れてしまった。
1日を終えて家に帰ってきたみんなは疲れ果てていた。
「明日は設営もないし、少しゆっくりだよ。」
カイはすぐにおやすみと言って部屋に入って行った。
レティシアもお風呂に入り、すぐに寝ることにした。
「おい!暇だったぞ!明日は連れて行け!」
「だから、みつかったら貴族に売られちゃうかもよ?檻に入れられてもいいの?」
レティシアも少し可哀想だとは思ったが、リスクがあるなら連れてはいけないと思った。
「これに入る!」
レティシアの目の前に小さなかごがふわふわと飛んできた。
ケンはその中に入ってみせた。蓋がついていてボタンで止める形になっている。
ケンは蓋を閉め、隙間から外を覗いた。
「ほら、これなら大丈夫だ。首からさげる紐をつけろ。」
レティシアは不覚にもこれならいいかなと思ってしまった。
カバンの中からルルにもらった赤い色の紐を出した。
使いみちに困ってはいたが、まさか精霊をぶら下げて歩くことになるとは思ってもいなかった。
かごにうまく括りつけるとポシェットのようになった。
「わかったよ。明日は一緒に行こう。でも他の人に喋ってるってバレたらだめだからね?」
「まかせろ!俺様を誰だと思ってる。」
「わかったよ。今日は疲れたしもう寝よう。」
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翌朝、レティシアが起きるとみんなはもう起きていた。
「昨日仕入れた砂糖が売り切れたら、閉店にする。多分最終日までには売り切れると思うから。」
カイは昨日の3倍の砂糖を用意したと言った。
タルの町は昨日より人が多いように見えた。
剣術大会は予選の2回戦をやる予定で、ハンナが言うには回を重ねるごとに見応えがあって面白いらしい。
確かに昨日は子供や老人など、本気ではない人たちもチラホラ見られた。
屋台に到着した5人は開店の準備をした。
カバンから魔導具を取り出し、わたあめ製造機に装着した。
カイは人の目を避けてカバンから砂糖を取り出して並べた。
準備が終わる前にお客が並びだしてしまった。
昨日売り切れで買えなかったから朝一番に来たというのだ。
レティシアは前世で推し活している人たちがグッズを買うために並んでいる姿を思い出した。
行列を見ると、たいして欲しくなかったのに欲しくなる現象がここでも起きているのかもしれない。
ルルはすぐにわたあめを作り出した。
昨日より作るスピードが上がっている気がした。
ケリーもかなり慣れた手つきで次から次へとわたあめを作った。
レティシアとツキも売り子の仕事に慣れ、店の回転はかなりよくなったと思われる。
そうして休憩もできぬままずっとわたあめを売り続けて半日が過ぎた。
レティシアはお腹が空いたが言い出せずにいた。
それはみんなも同じようだった。
順番に休憩したらどうかと提案しようとしたとき、ケリーが「えぇ?」と変な声を出した。
「どうした?」
カイが驚いてケリーの方を見ると空っぽになった砂糖の袋を見せた。
そして昼過ぎには完売してしまった。
今日は貴族の家の執事やメイドのような人も買いに来ていたので、もしかしたら貴族の口にも入ったかもしれないとケリーは言った。
カイとケリーは疲れたと言って屋台をたたみ、荷車に乗せると先に帰ると言った。
ルルはレティシアたち二人を任された。
「何かあったらハンナのところへ行くように。」
カイはそう言ってみんなにお小遣いをくれた。
レティシアたちは屋台を回った。
どうやら違う町の人のお店もあり、見慣れないものもたくさん売っていた。
レティシアはスパイス屋さんのところで足を止めた。
ルルは隣のアクセサリー屋さんを見ている。
「何かほしいの?」
ツキはクンクンとしながら顔をしかめた。
レティシアもクンクンとして、あの懐かしい匂いの元を探した。
黄色い粉になっている。レティシアはそれが絶対にあれに必要なものだとわかった。
レティシアが死んでしまった日に、食べる予定だったもの。
《カレー》
レティシアは似たような色やにおいのものをたくさん買った。
お小遣いはすぐになくなってしまった。
「お金足りない?あげようか?」
ツキはレティシアの小袋が空になったのを見てそう言ってくれた。
「大丈夫だよ。欲しいものは買えたから。」
レティシアはそう言ってニコッと笑ってみせた。
ツキは予想通り魚の料理を片っ端から食べた。
レティシアは見ているだけで満腹になった。
ルルは自分のお金を少しだけ足してきれいなペンダントを買っていた。
3人は屋台を楽しみ、昨日と同じ場所で剣術大会の予選を観戦することにした。
2回戦の真っ最中で、昨日より観客が多いように見えた。
ちょうど試合が終わったようで負けた選手が担架で運ばれていった。
木の剣のみ使用可の予選だったので打ち所が悪かったのだろう。
すぐに次の選手たちが出てきた。
一人はスキンヘッドの大男で、もう一人はやせ細った銀色の髪の若い男だった。
銀色の髪の男は中央まで来るとピクッとしてこっちを見た。
レティシアはその男と目が合った。
薄い茶色の瞳はレティシアと同じだった。
ポシェットの中でケンが暴れていた。
「どうしたの?」
レティシアは小声でかごをそっと開いて中を見た。
「わからん。毛が逆立つ。」
ケンはふわふわの毛が逆だってバサバサになっていた。
レティシアは思わず笑ってしまった。そしてそっと撫でてあげると収まった。
カバンからクッキーを取り出して1枚あげた。
ケンは騒ぐことなくポリポリ食べた。
すぐに試合が始まり、スキンヘッドの男が押しているように見える。
レティシアはなぜか負けている銀色の髪の男を応援したくなった。
《銀色の人がんばれ》
銀色の髪の男は一瞬ピタッと動きを止めたかと思うといきなり素早くなった。
相手の振る剣をかわし、腹に峰打ちを食らわせ、痛がってるところを後ろに回り、背中に飛び乗って倒して頭に剣を向けた。
「そこまで!」
レフェリーが試合を止めると大歓声が起きた。
「今の何?速すぎてよくわかんなかったけどすごかったね!」
ルルは興奮してぴょんぴょん跳ねた。
銀色の髪の男はフラフラしながら退場して行った。
レティシアは心がザワザワした。
ザワザワの正体はわからない。
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レティシアたちは剣術大会の予選が終わると家に帰った。
明日は3回戦と決勝戦があって、勝ち残った8人が本戦に出られることになるそうだ。
「本戦は貴族しか観れないよね?」
レティシアがそう聞くと、カイは申し訳なさそうに答えた。
「貴族街の中の闘技場でやるからね。国王が来るから警備も厳重だし、何かあれば逮捕されて首をはねられるとか。そもそもチケットを持ってないとだめみたい。」
その言い方があまりにもハンナに似ていてルルはクスッと笑っていた。
祭りはあと5日ある。
儲かると思って始めたわたあめ屋さんだったが、わずか2日で材料がなくなった。
タルの町ではもう砂糖を仕入れることができず、閉店するしかなかった。
お金は十分稼げたようで無理することはない。
そもそもカイには鉱石を売ったお金がたんまりある。
「俺とケリーは祭りはもういいかなって思ってる。3人はまだ行きたいかい?」
「剣術大会が見たいの!」
ルルは少し興奮気味で応援している選手たちの話をした。
「そうか。行ってもいいがくれぐれも気をつけてくれよ。」
カイはまた3人にお小遣いをくれた。
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レティシアの夢の中に銀色の髪の男が出てきた。
今にも倒れそうなガリガリの体にボサボサの長い髪の毛。
見た目はボロボロなのに剣さばきはすごい。
そしてあの薄い茶色の瞳でこちらを見る。
何かを言っているように口が動いているが聞き取れない。
レティシアはそこで目が覚めた。
まだ真夜中だった。窓から見える湖にはきれいな月が映っている。
心がザワザワした。
得体のしれない感情にレティシアは少し困惑した。
布団をかぶり目を閉じた。
横でケンがいびきをかいて寝ている。
レティシアはその不規則な音に眠気を誘われて眠りについた─。
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