第35話
タルの町では数年に一度大きな祭りがあった。
それがちょうど今年で、レティシアたちは屋台を出店することにした。
祭り当日、みんな早起きで準備をした。
馬車で行っても置いておける場所がないというのでカイは荷車にわたあめ製造機を乗せた。
砂糖と細く切った木の棒、ルルの作った看板とケリーの作ったアクセサリーを乗せると荷車はいっぱいになった。
「ケンはお留守番ね。人が多いし、万が一精霊だってバレたら面倒なことになりそうだもん。」
レティシアにそう言われてケンは「俺様も連れて行け!ちくしょー!許さん!」とわめいていた。
ケリーは可哀想になったようでケンのために美味しそうなサンドイッチを作ってくれた。
精霊は食べなくても死にはしない。
実際に何年も本に挟まっていたわけだが、元気いっぱいである。しかしケンは食べたり飲んだりが好きなようだった。
「家のまわりだけは自由に行っていいわよ。」
レティシアはそう命令してから家を出発した。
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レティシアとツキはケリーの作ってくれたエプロンをもうつけていた。
「気に入ってくれたのはいいけど、お店が始まる前に汚さないでよ?」
「汚れたら浄化するもん。」
「こら、人前で魔法はだめって言ってるでしょ!ツキもよ!」
ルルはレティシアの頭をペチっと叩いた。
「はーい」二人は良い返事をした。
今日は剣術大会があるので町の外からもたくさんの人が来ると聞いていた。
貴族も集まってくるようなので魔法に敏感な人もいるかもしれない。
魔法が使える子供だと知られてしまえば奴隷商人に捕まってしまうかもしれない。
魔力を封じる魔導具がこの世に存在しているとハンナが言っていた。
ツキなら相手より強いだろうけど、レティシアならすぐに捕まってしまうだろう。
「わたあめっていい名前よね。レティシアが考えたの?」
「えっと、誰かに聞いた。誰なのか忘れちゃった。」
レティシアは前世の記憶だと説明ができないので適当なことを言った。ルルは「カルダン家のパーティのときかなぁ」と勝手に想像してくれていた。
あの時はルルと別行動だったので、ありえなくもない話である。「そうかも」とレティシアは返事をしておいた。
町に入る門はとても混んでいた。
特に通行証などは必要ないのだが、入っていく人の数が多すぎて渋滞している感じだった。
やっとのことで門を通り抜けると、ルルは「お父さんこっち」と混んでいない裏路地のような道に誘導した。
少し遠回りにはなるが、人通りがなくて歩きやすい。空き地を探していただけのことはあるとケリーに褒められていた。
露店は大きな通りに、ずらーっと並ぶということだった。
カイが申し込んだのが締め切りのギリギリ前だったので場所はメインの通りから離れていた。
「ここまでお客さん来てくれるかしら?」
端っこの行き止まりのような場所だった。その代わりとても広い。
「裏に細い道があるよ。馬車とかは通れないけど。」
ルルはここを通れば剣術大会の予選会場にすぐ行けると喜んでいた。
まわりの店はどんどん設営が終わってきていた。
カイも急いでわたあめ製造機を組み立てた。
試運転をして1つ作ってみた。辺りに甘くていいにおいが広がった。
ルルは手早く、きれいに作れるようになっていた。
「うん、かわいくできた。それに美味しいわ。」
ルルは自画自賛でわたあめを食べた。
ケリーはアメジストやツキが拾った何かわからないきれいな石で作ったアクセサリーをきれいに並べた。
どれでもハーフ銀貨1枚。わかりやすいが、わたあめとアクセサリーが同じ金額でいいのか誰にもわからなかった。
ルルの作った看板の設置も終わり、わたあめの屋台が完成した。
少しずつお客さんも歩いているようだった。
しかし昼前ということもあるようでどの店もまだ暇そうだった。
昼から予選が始まるそうなので見物客がわんさかやってくるだろう。
レティシアとツキは荷車に座ってお客が来るのを待った。
ケリーの作ったアクセサリーは安すぎたのか、すぐに売り切れてしまった。
途中で値上げすることもできず、若い女の子たちに囲まれて瞬殺だった。
「嬉しいような、悔しいような、複雑な気分だわ。」
ケリーは苦笑いをして、わたあめを作り出した。
カイにレティシアを肩車するように言い、レティシアにわたあめを持たせた。
「このまま会場を一周してきて。」
ケリーはそう言ってニコッと笑った。
それは効果てきめんだった。
小さい子がレティシアを見てあれが欲しいと言い出した。
一人が言うと他の子もつられて欲しくなる。
どこに売ってるかと聞かれ、カイは「この奥です」と教えて回った。
会場を一周する頃にはわたあめがとけてきて少し小さくなってベタベタしてきた。
「カイの頭につく前に食べていい?」
「そうだな。もう十分だろう。」
ちぎっては美味しそうに食べるレティシアの広告の効果はかなりあった。
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カイとレティシアが屋台に戻ると長蛇の列ができていた。
ケリーとルルがフル回転でわたあめを作り、ツキが売り子をしている。
二人は急いで屋台の中に入り、3人を手伝った。
小さな子どもたちは父親に肩車をせまり、レティシアの真似をして食べた。
「なんだか変なことが流行ってしまったな。」
カイはそれを見て面白がっていた。
混んできた露店の通りでわたあめを食べる親子はとても目立った。
「作ってるところを見られないようにね。」
ケリーはルルにボソッとそう言った。
こんなに手軽に作ることができるとバレたら真似をする人が出てきてしまうとケリーは言った。
いつの間にか広場では剣術大会の予選が始まっていた。
歓声は聞こえるが忙しくて見に行く暇はなさそうだった。
「観たかったなぁ!」ルルは残念そうにそう言ったが、わたあめを作るのは楽しいようだった。
夕方前に材料がなくなり、ルルは完売の札を出した。
「3日分くらいの材料を用意したつもりなんだけど。」
ケリーはそう言って困ったような嬉しいような複雑な顔をした。
「腹ごしらえをしたら砂糖を買いにいかないと。」
ルルが近くの屋台で美味しそうなものをたくさん買ってきてくれた。
みんなはそれを屋台の裏で食べた。
「すごく忙しかったけど楽しかったね。」
レティシアがそう言うとツキも「うん!」と言って笑った。
ケリーは売上を数えてニヤニヤしていた。
「食べたら予選を見に行こう!」
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カイはわたあめ製造機の大事な部分だけをそっとカバンにしまい、あとの部分に布をかけた。
レティシアは《盗まれませんように》と屋台に結界を張っておいた。
裏道から行くとちょうど高い位置から広場が見えた。たくさんの観客に囲まれて屈強な人たちが剣を交えている。
一応ルールでは魔法禁止になっている。
ハンナは「貴族が出てきたら何でもアリになるけどね」と言っていた。
だからこそ、この予選が面白くて盛り上がるのかもしれない。
今日は予選の1回戦なので本当にいろんな人が出てきた。
ヨボヨボのおじいさんや小さな女の子まで様々で、出場することを楽しんでいるようにも見えた。
司会の人もとてもユーモアあふれる人で実況を聞いているだけでとても面白い。
ルルは素敵な剣士をみつけたらしく、「あの人を応援し続けるわ」と目を輝かせていた。
あっという間に日は沈み、真っ暗になった。
祭りの会場は提灯に明かりが入り、とてもきれいだった。
カイとケリーは砂糖を買い占め、明日に備えた。
明日の朝こっそりカバンから出すわ。と疲れていて荷車で運ぶのはやめた。
予選はまだ続いていたがレティシアたちは帰ることにした。
これから1時間位歩くのを考えると無理はしないほうがいい。
町から出て、暗闇に紛れた。
山の麓に住んでいるとバレないほうが都合がいい。
レティシアは"見えているけど見えていない"結界をみんなに張った。
ハンナが言うには見えてても気にならない、興味を引かない、記憶に残らないというような効果があるのだそうだ。
森の中に入り、道もないのでみんなは歩きにくそうにしていた。
ツキが突然みんなの前に立ち止まり、「飛ばしていい?」と聞いてきた。
「なにを?」
「みんなを。」
みんなはよくわからなかったけど、「ツキがそうしたいならいいよ」と、カイが言ってしまった。
次の瞬間、みんなの体が浮き上がった。
かと思うとすごいスピードで湖の方へ飛んでいく。
ツキは後ろからニコニコしてついてきた。
みんなは悲鳴を上げることもできず、息が止まる思いだった。
数分で家の前まで来て、ゆっくりと地面に降りた。
みんな驚きと恐怖で立ち上がれなくなっていた。
「大丈夫?」
ツキは「家の中まで飛ばす?」と聞いてきたので「いや!大丈夫!飛ばさない!」とカイは全力で断った。
普段から木材を飛ばしたりしているツキだから、人間を運ぶくらい余裕だった。しかしそんな発想は誰にもなかった。
「ツキ、ビューンってすごかった!ありがとうね。」
レティシアは歩かずに家に着いたことが嬉しかった。
「明日も疲れてたら飛ばしてあげるね!」
ツキは嬉しそうに笑った。
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