第4話
レティシアは6歳になろうとしていた。
城が廃墟になり、近くに住む人たちは誰もいなくなった。
城下町は隣国の攻撃で破壊され、無残な姿になっているという。
森の中は以前よりも動物も魔物も多くなっていた。
おそらく人間が来なくなったからだろうとカイは言っていた。
隠れ家のようなルルの家だったが、隠れる必要もなくなったようで今では畑を作り、家畜を飼い、まるで農場のようになっていた。
父親のカイは家のまわりにぐるっと柵をめぐらし、魔物が侵入してこないようにしていた。
魔物と言ってもウサギや鹿とそんなに変わらない、かわいいものしかこの辺りにはいなかった。
前世の記憶があるレティシアにとっては、ちょっと見慣れないだけで他の動物と大差ないという感覚だった。
それでも柵の外へは行ってはいけないと言われている。
みんなを困らせてはいけないとレティシアはその約束を守っていた。
「うぅ〜ん。」
家の裏の木陰でレティシアは魔法の特訓をしていた。
魔導書をもらってから5年が経ったが一向に魔法が出てくる気がしない。
それでも懲りずに隠れて特訓をしていた。
ルルはそれに気がついていたが、知らんぷりをしていた。
それと同時に誇らしくもあった。そしていつも心の中で応援していた。
自給自足の生活。
レティシアの前世の記憶にはない不便な生活がそこにあった。
しかしそこには平穏があった。
国が1つ滅んでいたがここは平和だった。
悲しむことはできる。しかし悲しんだところで自分には何も変えられないとレティシアはわかっていた。
だからいつも笑っていた。
《いつかこの家族に恩返しがしたい》
レティシアはいつもそう思いながら過ごしていた。
「レティ!人参を1本採ってきて!」
どこからかケリーの声がした。
「はーい!!」
レティシアは魔法の特訓をやめて大きな声で返事をした。
「にんじんさん!どーこかなっ?」
レティシアはたくさんある野菜の中を鼻歌交じりに歩いた。
「みーつけた!」
レティシアが人参を引っこ抜こうとしたとき、地面がぐらりと揺れた。
《地震だ!!》
レティシアは前世の記憶から咄嗟にそう思った。
この世界で生まれてから一度も地震なんて起きたことがなかったのでちょっと驚いた。
レティシアは急いで人参を1本抜くと家の方へと走った。
「レティ!!来ちゃだめ!!」
ルルの大声が響いた。
お日様がよく当たる畑に黒い影が広がっていた。
レティシアは不思議に思い、ルルの後ろを見た。
そこには見たこともない大きな獣が両手を上げてルルに襲いかかろうとしていた。
カイは狩りに出ていて不在だった。
「このバケモノ!こっちだよ!!」
ケリーが農具を片手に獣に向かって石を投げつけた。
「お母さん!!」
ルルの悲痛な叫び声が響いた。
今にも獣はケリーに襲いかかろうとしている。
「やめてー!」
レティシアは大きな声でそう叫んだ。
その瞬間、大きな雷のような光の稲妻が走り、獣の頭に落ちた。
バタリと獣はその場に倒れた。
ケリーはその場に尻もちをついた。
ルルはすぐに母親の元に駆けつけた。
「お母さん?!大丈夫??」
ケリーは目の前で起きたことが飲み込めずまだ獣を凝視していた。
「ルル…。これ、なんだろう?」
レティシアの手が光っていた。
ルルは母親が無事なのを確かめ、レティシアを見た。
「レティ?大丈夫??」
ルルはすぐにレティシアの元に向かった。
光っていた手はルルが来る前に消えてしまった。
「あれれ?消えちゃった。」
「レティ…。もしかして…、今のレティがやったの?」
ルルは目を輝かせていた。
「わかんない。でもなんか、ビリビリした。」
レティシアは今は光っていないその手を見てそう言った。
「魔法ね?!そうなのよね?!そうでしょ!レティ!!すごいわ!!」
ルルはレティシアに抱きついた。
「魔法…?なのかな?」
レティシアにはその自覚がまったくなかった。
しかしそうだったらいいなと思い、笑顔になった。
ケリーはまだ獣を見ていた。
獣は焼け焦げたようで、その体からは灰色の煙が上がっていた。
「何ごとだ?!みんな大丈夫か??」
青ざめた顔をしてカイが駆け込んできた。
ケリーはまだ無言のまま首を縦に振っていた。
そしてカイに抱きかかえられてようやく立ち上がった。
「レティが魔法を使ったのよ!!それでこの魔物をたおしてくれたのよ!!」
ルルは大興奮だった。
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丸焦げになった獣はこの辺ではめったに出ないゴルという猿のような見た目の魔物だった。
カイは壊された柵を見てどうしたものかと首を傾げていた。
ケリーは魔物を解体して中から魔石を取り出した。
魔物の中には魔石という魔力を含んだ石が入っている。
魔導具に使ったりとこの世界での用途は広い。
小さな魔物から取れる魔石にはそれほど価値がないため、普段は取ったりはしない。
「きれいね。」
レティシアは初めて見る魔石に興味津々だった。
「ねぇレティ、どうやって魔法をつかったのかわかる?」
ルルはまだ興奮しているようだった。
「わからない。ケリーを助けないとって思ったら空から雷が降ってきた。」
「たまたま雷が落ちただけなんじゃないの?」
ケリーはゴルを解体しながら、信じていない様子でルルに言った。
「そんな偶然あると思う?!レティの手が光ってたのよ!絶対にレティの魔法よ!」
ルルがそう言うのでレティシアはもう一度雷を出そうとしてみた。
レティシアは顔を真っ赤にして力を込めた。
しかし何も起こらない。
「ごめんなさい。魔法、出ないです。」
レティシアはルルの期待を裏切るようで悲しくなった。
ケリーはヤレヤレという顔でルルを見た。
「謝らないで!そんなにすぐに使いこなせるなんて思ってないわ!」
ルルは拳を握りしめ、やる気満々の顔つきでレティシアを見た。
「明日から特訓しましょう!」
ルルはレティシアの両肩をポンと叩いた。
「うん!!」
レティシアは純粋にルルと魔法の特訓ができることを喜んだ。
今までこっそり一人でやっていたが、ちょっと寂しかったからだ。
こうしてレティシアはルルと魔法の特訓を始めた。
カイもケリーも、にわかには信じられないという態度だったが何も言わなかった。
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「どうしてできないのかな…」
家の裏の大きな木に向かって魔法を発動させようとレティシアは必死だった。
ルルは魔導書を引っ張り出してきて読み直している。
「焦っちゃだめよ。毎日少しずつやりましょう。」
ルルはそう言って基本と書いてあるページを読んだ。
「まずは自分の中にある魔力を感じましょう。だって!」
「わかった。」
レティシアは頷き、両手で見えない球体を掴むように丸くした。
《魔力があるのはわかってるのよ!出てきなさいよ!》
レティシアはうまくいかないことに苛立ってしまった。
するとレティシアの両手がほのかに光った。
「レティ!すごいわ!次はそれを球体にして目の前に浮かべるようにできるかしら?」
レティシアは言われたとおりにやってみた。
光は小さな球体になり、フラフラとレティシアの目の前に浮かび上がった。
「やった!!」
レティシアがそう言って喜ぶと光はシュッと消えてしまった。
「あぁ!!消えちゃった!!」
「レティ!すごいわ!」
ルルはレティシアを抱きしめた。目には涙がうかんでいた。
「すごくないよ…。もうできないもん…。」
「今日はここまで!また明日やってみようね。」
ルルは涙を拭きながらニッコリ笑った。
「うん!」
レティシアはルルが心の底から喜んでいるとわかり嬉しくなった。
《魔法を使えるようになりたい!》
何よりもルルを喜ばせたいとレティシアは心底そう思った。
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