第3話
レティシアには魔力があった。
レティシアが生まれかわった世界には魔法というものが存在していた。
しかし誰でも魔法使いになれるというわけではない。
ルルが言うには100人に1人くらいの割合で魔力を持つ人がいて、魔法を扱えるのはその中でも数%の人だけらしい。
魔法を扱える人は魔法師と呼ばれ、とても貴重な存在として扱われるらしい。
魔法を扱えなくても魔力を持っていると魔導具を使える。
城でみかけた電灯のようなものはこの世界の魔導具で、魔力を流し込むと使える仕組みらしい。
あの程度の魔導具なら少しの魔力持ちでも機能するということだ。
ルルの家に魔導具がないのはルルの家族に魔力持ちがいないからである。
魔力を込められた魔導具を買っても、魔力がなくなると使えなくなるのだそうだ。
《魔力って電力みたいなものね》
レティシアはビリビリと電気を垂れ流すデンキウナギを思い出してくすっと笑った。
レティシアに魔力があるとわかってからルルたちはレティシアにあれやこれやと魔導具を買ってきた。
みんな嬉しそうにレティシアが動かす魔導具を見ていた。
「レティシア様、すごいです!かなりの魔力をお持ちのようですよ!」
ルルは目を輝かせて誇らしそうにレティシアを見た。
「ハンナにも見せたいな…」
ルルはそうつぶやいて瞳をくもらせた。
まだハンナについての情報がないのだ。
「ルルぅ」
レティシアはヨチヨチとルルのところまで歩いて行き、にっこりと笑った。
レティシアなりに励ましたかった。
「レティシア様!私の名前を呼んでくださったのですね!!」
ルルは大喜びでその日の夕食には両親に「レティシア様はすごいのよ!」と話した。
とても平和な時間だった。
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「レティシア様、お誕生日おめでとうございます!」
ルルはそう言ってレティシアの首にきれいな青い石のついたペンダントをかけてくれた。
革の紐を短く結び、落ちないようにしてくれた。
きっと高価なものではないのだろうけど、レティシアはとても喜んだ。
「これはまわりの人に魔力持ちであることを気づかれないようにする魔導具です。」
魔力持ちは貴重であり、幼い子供は誘拐されたりするケースが少なくないのだという。
レティシアはその意味をしっかり理解して、ペンダントを外すことはなかった。
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ある日、カイが町から本を一冊買って帰ってきた。
「レティシア様に読んであげなさい。」
「お父さん!ありがとう!」
ルルは本を受け取ると目を輝かせ、すぐにレティシアを見た。
「レティシア様、魔導書ですよ!」
1歳になったばかりのレティシアに、読み書きの本ではなく魔導書を買ってきたというのである。
《字も読めないのになぁ》
レティシアはそう思っていたが魔導書に目をやるとそこに書かれている文字が理解できた。
見たこともない文字なのに、なぜか読めたのである。
『優しい魔法の本』と書かれている。
挿絵を見るとかわいい魔法使いの絵が描かれており、児童用の教科書のような本だなとレティシアは思った。
「魔法には6種類の属性があります。火、水、土、風、そして光と闇です。それぞれ特性があり、光と闇の属性はとても珍しいです。」
ルルはレティシアに本を見せながらゆっくりと読み聞かせてくれた。
魔法については前世の記憶の知識と合致するものが多かった。
《なんてファンタジーな世界なのかしら》
レティシアは興奮しながらこの世界の魔法の基礎について学んだ。
「まだレティシア様にはまだ難しいですよね。」
ルルは苦笑いしていたが興味を示すレティシアに満足そうにしていた。
こうして毎日少しずつルルはレティシアに魔導書を読み聞かせた。
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《思ってたのと違う》
レティシアは前世の記憶を思い返していた。
彼女が知っている転生してファンタジーな世界に行くような話だと主人公は何かしらのチート能力を持っていることが多い。
しかしレティシアは生まれてからまだそれを実感していない。
確かにこの世界の言葉はわかるし文字も読める。
だからといって話せるわけでもないし、すごいスピードで動けたり、飛べたりなんかもできない。
ただ前世の記憶があるだけで普通の1歳児と変わらない気がしている。
ルルは飽きずに魔導書を読み聞かせてくれている。
レティシアは本のとおりに魔法を発動させようとしているが一向に出てくる気配はない。
魔力はあるけど魔法が使えないタイプの人間なのかもしれないと思い始めていた。
《諦めたらそこで試合終了だ》
レティシアは心が折れそうになったがそう思って根気強く魔法の訓練をした。
そうは言っても身体は1歳児だからすぐに疲れて眠ってしまう。
ルルはそんなレティシアを見て愛おしそうにベットに寝かせてくれる。
訪問者もなく、ただ時間だけが過ぎていった。
レティシアは魔法が使えないまま3歳になろうとしていた。
2歳になる頃には魔導書を丸暗記してしまい、ルルは読み聞かせをやめてしまった。
「ねぇルル、どうして私は魔法が使えないの?」
「レティシア様、この世界で魔法を使えるのはほんのごく一部の人間だけなんですよ。魔法が使えなくても不思議ではありませんよ。」
ルルは悲しそうな顔をしたレティシアに笑顔でそう答えた。
ルルはレティシアに魔力があると知ってからというもの、今でもレティシアが魔法を使えるとずっと信じていた。
しかし本人にプレッシャーをかけてはいけないと思い諦めたふりをしている。
そして隠れて魔法の特訓をしているレティシアのことを応援している。
魔法が使えないルルとその家族だから、上手に教えられないせいかもしれないと気がついていた。
本来なら魔法師に弟子入りするのがいいのだろう。
それができない理由があった。
レティシアがいた城は隣国の攻撃によって陥落していた。
国王はしばらく幽閉された後に処刑されたとカイに聞かされていた。
王子がどうなったのかはカイにもわからない。
聞きたくても城にも町にも人がいない。
レティシアにはつらすぎるので話していない。
ハンナも依然として生死が不明だった。
2年以上経った今、城は廃墟と化している。
町も同じように廃墟になっている。
住んでいた人たちは殺されたか、どこかに逃げてしまったのだ。
無邪気に笑うレティシアを見てルルは時々切なくなる。
あの時、あの場所で両親と一緒に死んでしまったほうがこの子には幸せだったのかもしれないとさえ思った。
「レティシア様、今日からあなたのことをレティと呼びますね。」
レティシアは突然ルルにそう言われて目をキョトンとさせた。
「いいよ。様ってなんだか変だもんね。」
レティシアはそう言ってにっこりと笑った。
《庶民として暮らすってことなんだろうな》
レティシアは何かを悟ったようにルルに抱きついた。
「ルルはお姉ちゃんでいいよね?それとも嫌かな?」
ルルはビクッとして返答に困った。
レティシアは泣きそうな顔をしてルルの目を見ている。
「レティがいいなら…私はそれでいいよ。」
ルルがそう言うとレティシアは泣きだしてしまった。
「ルル…。ごめんね…。ありがとう。」
レティシアは消えそうな声でそう言うと声を殺して泣いた。
「謝ることなんて何もないよ…。」
ルルも何かを感じ取ったようでそれ以上何も言わなかった。
ただレティシアをぎゅっと抱きしめて、一緒に静かに涙を流した。
──レティシアはこの瞬間から王族ではなく、ただのレティになった。──
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