第33話
新しい土地に移住してきたレティシアたち。
精霊が出てきたり驚くこともあったが順調に時は過ぎていった。
レティシアの結界がうまくいっているのか、家のまわりは平和で、小さな魔物すら出てこない。
しかしちょっと山の方へ行くといろんな魔物が住んでいるのがわかってきた。
カイは狩りを再開し、獲ってきた獲物をケリーが解体するといういつもの生活に戻った。
レティシアは魔法の特訓をして、ツキはそれを見守った。
ルルは相変わらずタルの町へと通っている。お店を開きたいと言っていたが、まだ何の店にするのかも決めていない。
────
レティシアとルルは少しずつ行動範囲を広げていた。
ツキはときどき一人で遠くまで行って地図を描き足していた。
「この山は本当に大きいみたい。」
ツキはレティシアに地図を見せながら言った。
「地図の半分が山で埋まっちゃったね。」
大きいと思っていたタルの町の何十倍もの大きさがあった。
高さもそこそこあるようだった。人が来ない理由の一つとして登山に向いていないからだろう。
斜面が急なところが多く、道を作ろうとしても難しい。
「ここに大きな穴があるの。」
ツキは地図を指差して教えてくれた。
「カイに教えないとね。」
人の手が入っていない大自然だった。
レティシアはテレビの特集くらいでしか見たことがない大自然だ。図鑑でもあれば楽しく勉強できるのにと思って、本屋に行ってみたが「そんなものない」とあのおばあさんに睨まれて終わった。
ケンが出てきたあの難しい本は少しずつ読みすすめている。いつも読んでいると眠くなってしまってなかなか進んでいないのだが。
「ケンはいつからあの本にいたの?」
レティシアはツキと釣りをしていた。
今日はなかなか釣れなくて暇だった。
「俺様はもともと城の図書館にいたんだ。最後の持ち主はディレンっていう名前の王子だ。その前はディレンの親父で…。とにかく気がついたら城にいた。図書館の本棚はつまらなくて…。あまり思い出がない。」
レティシアはこの本をたくさんの人が読むとは思えなかった。かなり長い間、精霊として城の図書館にいたようだ。
ケンのことを少し気の毒に思った。
「何かしたいこととかあったら言ってみてね。できないこともあるかもしれないけど。」
レティシアがそう言うとケンはとても驚いていた。
「俺様は世界を一周した男だぞ!やりたいことなどやりつくしとるわ!」
ケンはそう言ってガハハと笑った。
「それって前世の記憶があるってこと?」
レティシアは釣りをやめて真剣な顔になってケンにそう聞いた。
「前世とは?」
「精霊になる前は冒険者だったんでしょ?その時の記憶があるってことだよね?」
レティシアが問い詰めるのでケンは困って考え込んでしまった。
「冒険者のときの記憶…。あの本に書かれていることしかわからん…。俺様は一体何なんだ…?」
ケンは一生懸命考えてくれているようだったがその姿は苦しそうだった。
「ごめんごめん。精霊がなんなのか私もイマイチわかってなくて。ケンはケンだよね。前とかどうでもいいよ。」
レティシアはそう言ってケンを撫でた。
丸くてふわふわで見ているだけでも癒やされる。
「何か思い出したら話してやろう。」
「うん、ありがとう。」
ツキが横で大きな魚を釣った。
「ツキやったね!ケリーのところへ行こう。」
ツキは「うん」と笑顔で頷いた。
────
家に帰るとカイがルルと揉めていた。
「店なんてやらないって、お前は一体何をしてるんだ?店をやるのがお前の夢だったんじゃなかったのか?」
「そんなの夢だなんて言ったことないよ。もういいんだよ。ほっといてよ。」
ルルはそこまで言うと泣きだしてしまった。
カイは驚いてルルの背中をさすった。
「あんなに楽しそうに町に行ってたじゃないか。突然どうしたっていうんだよ。何か嫌なことでもされたのか?」
「マイトが…国に帰るって…。」
ルルは泣きながら何があったのか説明してくれた。
カルダン家に執事として入っていたマイトだったが、実は郊外にある貴族の家の息子だった。
親が修行のために執事としてカルダンの家に預けていたのだった。
「実家に戻って結婚させられるんだって…。」
ルルはそう言って号泣した。
ケリーはルルを抱きしめて頭を撫でた。
「ルルはお嫁さんになれないの?」
レティシアはお似合いの二人を思い出していた。幸せそうにする二人を見るのが好きだった。
「貴族ってやつは好きだの嫌いだので結婚できないんだよ。家同士の繋がりが大事とされているからな。結婚は家の存続にかかわる一大事なんだ。」
カイは不本意そうにそう教えてくれた。
レティシアは《政略結婚ね》とドラマか何かで聞いた言葉を思い出した。そんな悲しいことが目の前で起きるなんて。レティシアは悲しくなって号泣してしまった。
「お似合いなのに…。ひどいよ…。」
ルルは泣くレティシアを抱きしめた。そして二人でしばらく泣き続けた。
その日ルルはご飯も食べずに部屋に引き込もった。
ケリーは「今はそっとしてあげましょう」と言って4人で夕食にした。
みんなルルのことが心配でその日の夕食は静かなまま終わった。
────
ルルは数日間部屋に引きこもり、みんなはおとなしくルルの心の回復を待った。
カイとケリーはたまった肉や毛皮をタルの町に売りに行くと言った。
レティシアとツキも一緒に連れて行ってもらえることになった。
家からタルの町へは歩いてでも行ける。
しかし森を通過しないといけないので子供だけで行くのは禁止されていた。
カイは防具屋と肉屋をまわり、持ってきていたものをすべて売った。
鉄やエメラルドほどではないがいいお金になる。
ケリーはそのお金で食料品を買い込んだ。
いつもより騒がしいように感じた。
「町で何かあるの?」
レティシアは馬車から町の様子を見ていた。
「お祭りがあるみたいね。」
数年に一度大きな祭りが開催されるのだそうだ。
町の人たちはそれの準備で大忙しのようだった。
祭りには近隣の町からも人がやってくるようだった。タルの町の北や南にもそこそこの町があり、祭りはとても盛り上がるのだそうだ。
「どうやら国王も来るらしい。」
レティシアは国王と聞いてビクッとした。
レティシアが生まれたのはこの国ではない。
この国の首都はタルの町からもっと南にある。
タルから馬車で半日ほど行くと着くのだそうだ。
「お祭りいいな。」
レティシアは前世の記憶にある、焼きそばやたこ焼きを思い出した。
「みんなで来よう。ルルも誘ってみよう。」
カイはルルになんて言ってあげたらいいのかわからないでいた。
親としては娘の幸せを願いたい。しかし今から貴族になって娘を貴族に嫁がせることなどできない。
ましてやマイトに貴族をやめてうちの娘と結婚しろだなんて言えない。
「俺様も祭りに行けるか?」
ケンは目を輝かせていた。
「どうかな…。人がたくさん来るからなぁ。」
「連れてけ!!うまいもの食わせてくれ!」
ケンは興奮してパタパタと飛び回った。
ツキは「うまいもの」に反応してよだれを垂らしていた。
外から誰かに呼び止められ、カイは馬車を止めた。
そこにはハンナの姿があった。
「ちょっと寄っていかない?」
珍しい誘いだった。
ハンナはみんなを店の中に入れてCLOSEの看板を出した。
ケリーはお茶の用意を手伝いにハンナと2階に上がって行った。
久しぶりに来る薬屋はいいにおいがして落ち着いた。
お茶とお菓子をカウンターに置くとハンナは「ルルはどうしてる?」と聞いてきた。
ハンナも心配していたようだった。
「まだだめみたい。」
「そっか…。」
ハンナの話によるとマイトはルルと結婚したいとかなり頑張ったのだそうだ。
しかし格上の貴族との縁談には勝てなかったのだそうだ。マイトには妹がいたが男は一人で、どうしても家を継がないといけなかった。
「ルルはまだまだ若いから、早く立ち直って次に向かってほしいわ。」
「私もそう思ってるんだけどね…。」
ケリーは思ってても今はそんなことを言えないと苦笑いをした。
「ねぇハンナ、お祭りって何をするの?」
「あぁ、みんなは初めてだったわね。」
ハンナはそう言って祭りの詳細を教えてくれた。
基本的には収穫祭で豊作を感謝するという名目の祭りらしい。
「1番盛り上がるのは剣術大会ね。」
貴族街の中に闘技場があり、そこでやるのだそうだ。
貴族街にあるわけだから庶民向けのイベントではない。しかし庶民にもチャンスがあり、予選のようなものが広場で行われる。
庶民にとってそれが一番盛り上がるのだそうだ。
ちなみに本戦に行くと貴族たちは魔法を使ってくるので勝つことは難しいということだった。
貴族にとって弱い庶民を倒して盛り上がるという言わば道楽のようなもののようだ。
それを国王は見に来る。そして優秀な者を国の騎士団にスカウトしていくのだそうだ。
騎士団はエリートしかおらず、剣も魔法も使える者ばかりなのだそうだ。
ハンナもスカウトされたことがあったが魔法しか使えないのでと断ったらしい。
レティシアはハンナがピカピカの防具をつける想像をしてしまい、笑いが止まらなくなった。
祭りは3日後から始まり、一週間続く。
────




