第32話
レティシアの買った古い本の中から得体のしれない何かが出てきた。
それは片手で掴める程の大きさの2頭身のおじさんだった。
ケン・タク・クァクゥラと名乗るそれは魔法を使ったように見えた。
最初は怖かったレティシアだったが、よく見ると可愛らしい見た目をしていた。
「こんなもの見たことないな。」
帰宅したカイたちはケンを見て興味津々だった。
「貴族に売ったらいいお金になるんじゃない?」
ルルはそう言ってパンの切れ端をかごの隙間から入れた。
ケンはそれを受け取り、パクパクと食べた。
レティシアは逃げられないようにかごをロープで縛りつけた。
そして《ケンが悪さをしませんように》とかごに結界を張った。
ケンは「魔法が使えない」とひとしきり騒ぎ、疲れて今に至る。
「明日ハンナに見てもらおう。ハンナなら何か知ってるかもしれないからな。」
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翌日、カイはレティシアとツキを連れてタルの町に向かった。
森はツキが魔法で切り開いたままになっていて、大きな木が密集しているので上から見てもわからないだろうとレティシアは思った。
そのため、木漏れ日くらいしか灯りがなく、なんとなく暗かった。
レティシアの結界が効いているのか、魔物は1匹も出てこなかった。
「おい!俺様をどこに連れて行く気だ?!まさか貴族に売るんじゃないだろうな?」
「売らないよ〜」
キーキー騒ぐケンが面白くてレティシアはクスクス笑った。
ツキは「魔物ではないと思う。なんとなく。」と言っていた。
タルの町は相変わらず賑やかだった。
「騒いだら貴族に売りつけるからな。」
カイはそう言ってケンを脅し、ケンは静かになった。
レティシアは念のため、町に入る前にかごをカバンに入れた。
「いらっしゃい、あら、レティ。」
ハンナは嬉しそうな顔をした。
レティシアはそれがとても嬉しかった。
「おはようございます。」
ツキもちゃんと挨拶をしていた。ハンナはそれを見てニコッと笑った。
「あのね、これがね、本から出てきたの。」
レティシアは他にお客がいないことを確かめ、カバンからかごを取り出した。
脅されたからかケンはおとなしかった。
ハンナはかごの中をちらっと見て、薬屋のCLOSEの看板を出しに行った。
「またおかしなものをみつけたのね。」
ハンナは不思議そうな顔をしてケンを観察した。
レティシアは出てきた時のことを詳しく話して聞かせた。
「私も見たことはないんだけど、多分これは精霊だと思うわ。本から出てきたのなら本の精霊ね。」
ハンナは精霊はいろんなものに宿る不思議な生き物だと教えてくれた。
「精霊は魔法が使えるらしいの。私も聞いたことがあるくらいの知識だから…。その本を買ったのはこの町の本屋かしら?」
「うん、商店街の外れの本屋だよ。」
「店主に聞いてみましょう。」
レティシアたちはみんなで本屋に向かった。
「精霊って悪いモノじゃないよね?」
「どうかしら?いろんなものに宿るみたいだから個体差はあると思うわ。」
レティシアはケンを気に入っていた。悪いモノじゃないといいなと思った。
本屋は相変わらず薄暗い感じがして入りにくかった。
ハンナは気にせずにドアを開けて中に入っていった。
「ミラーさんいますか?ハンナです!」
カウンターにあのおばあさんが丸くなって座っていた。
「おやおや、久しぶりだね。元気そうで何より。」
おばあさんの名前はミラーというようだ。
ミラーはニコっとも笑わずにハンナを見てからレティシアたちを見た。
「おや、この前来た子たちだね。」
レティシアとツキはペコリと頭を下げた。
「ミラーさん、この子たちが買った本の中から何か出てきたっていうのよ。」
ハンナがそう言い、レティシアはカバンからかごを出してミラーに見せた。
「嫌だ!ここは嫌だ!!」
ケンはミラーを見るとキーキー騒ぎ出した。
「あぁ、忘れとったよ。あの本にこいつがついてたのを。」
ミラーはそう言うと大きな声で笑いだした。
「これって精霊ですよね?魔法が使えたってレティが、この子が言ってたんですが。」
「そのとおり、あの本の精霊だね。魔法ったって物をちょこっと動かせる程度さ。ぎゅうぎゅうの本棚に詰めちまえば動くこともできんかったよ。」
ミラーはまだ笑っていた。
「ちくしょー!ババァめ!許さん!!」
ケンはキーキーと文句を言っている。
「ミラーさん、この子を貰ってもいいですか?」
レティシアがそう言ったのでミラーはお腹を抱えて笑いだした。
「そいつはあの本についてたんだ。とっくにお前のものだよ!」
レティシアはその言葉を聞いて喜んだ。
「かごから出してあげな。今の所有者はお嬢さんだろ。精霊は所有者の言うことに逆らえないからね。遠くに行くなとでも命令しておけばどこにも行けないよ。」
レティシアはそれを聞いて恐る恐るロープを解いた。
「ケン、遠くに行っちゃだめだよ。」
レティシアはそう言ってかごの蓋を外した。
ケンはフラフラと浮かんだ。
よく見ると背中がパタパタしていて小さな羽がついている。
「かわいい!」
レティシアは小さな羽を一生懸命パタパタさせて飛んでいるケンがとても可愛らしく見えた。
「さて、そんなもの連れて歩いてたら珍しさに泥棒に狙われるよ。」
「精霊だって知られたら厄介ですよね。」
貴族の中にはそういうものをコレクションしている人もいるということだった。
「変なことに巻き込まれる前に捨てたらどうだい?」
カイは心配そうにレティシアを見てそう言った。
「そんな!嫌だよ!」
ハンナは「本に戻して閉じ込めておくほうがいい」と言った。
レティシアは悲しくなって泣いてしまった。
「こんなにかわいいのに…みんなひどい…。」
「しかたないね。わしに任せな。」
ミラーは指をちょいっとやってケンを引き寄せた。
ケンは空中でジタバタしてるが動けないようだった。
「この者の姿を変えよ」
ミラーは短く詠唱した。
ケンはポンッといって白い鳥になった。
「なんだい、わしに抵抗するのかい?」
ミラーはケンを睨みつけた。
白い鳥ではあったが、まん丸で不格好だった。
「俺様の姿を変えるなんて許さん!!ババァめ!」
ケンは抵抗し続けて、それ以上鳥っぽくはならなかった。
「すまんなお嬢さん、こんな不細工じゃ連れて歩くのも嫌じゃろ。やはり本の中に…。」
「いいえ!とてもかわいいです!ありがとうございます!」
レティシアは両手でケンを掴み、まじまじと観察した。
ふわふわの丸っこいものは見ているだけでも癒やされる。
ミラーは何か言いかけたが言うのをやめた。
ハンナはお礼ですと言って瓶に入った何かを渡した。
ミラーはまた無愛想な顔に戻り「またおいで」と言った。
レティシアは何度も「ありがとうございました」と言って店を出てきた。
「ケン、他の人に聞かれるような声を出しちゃだめよ。」
レティシアがそう言うとさっきまでキーキー文句を言っていたケンの声が聞こえなくなった。
レティシアはニヤリとして肩を指差して「ここにおいで」と言った。
ケンは不服そうな顔のままレティシアの肩に留まった。
「そうやってるとかわいいね。」
ツキはケンをつついて遊んでいる。
「本当に連れて歩くつもり?悪いものではないと思うけど。」
ハンナはまんまるのケンを見て吹き出した。
「確かにかわいいと言えばかわいいか。」
「責任を持って世話をするんだぞ。」
カイはペットを飼うときの父親のようなことを言った。
レティシアは「はい!」と元気に返事をした。
「しかしそんな鳥、見たことないぞ。それはそれで珍しいからあまり人目につかないほうがいいかもな。」
ケンが心配そうに言うのでレティシアはケンをカバンに入れた。
「おい!ここは嫌だ!」
「ごめん、町を抜けるまで入ってて。」
こうしてレティシアは精霊を手に入れた。
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