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第27話

町とは違うにおいがして、レティシアは早い時間に目を覚ましてしまった。

ツキもすぐに起きてきた。

「ごめんね、起こしちゃったね。」

レティシアが謝ると「違う、私も早く起きたかった」とツキは笑った。


二人はせっかくだから散歩でもしようと外に出た。

レティシアには、いつも見ていた畑の野菜たちもなんだか懐かしく思えた。

「何か変わったことはあった?」

レティシアはツキの前を歩き、振り返ってツキに聞いた。


「うーん…。そうだ!新しい洞窟があったの。そこには魔物がいてね、全部倒したよ!それで、そこにアメジストの大きな鉱脈があってね、たくさん採ったよ。」

ツキは楽しそうに話してくれた。

「アメジストも高く売れるといいな。エメラルドはね、本当にびっくりするくらい高く売れたんだよ!」

レティシアはルルがエメラルドを売ったときの話をした。

ツキは「ルルはすごい」と、喜んでいた。

二人はまたみつけたいねと話しながら家に戻った。


「お散歩してたの?もうすぐ朝ご飯よ。」

ケリーは張り切っているようでたくさん作っていた。

カイは動物たちに餌をあげに行った。ルルは久しぶりの朝寝坊を楽しんでいるようだ。


変わらない朝がそこにあった。

レティシアはなんだか懐かしくて涙が出そうになった。

ツキはそんなレティシアの何かを感じ取ったようで、レティシアの手を握った。

二人は目を合わせてニコッと笑った。


────


昼になるとハンナがやって来た。

ツキは予想通りハンナを見てビクッとし、ケリーの後ろに隠れた。

ハンナは笑顔を作ろうと頑張っていたが、魔族に対する思いが強くて顔が引きつっていた。


一同は食卓に集まり、今後やることを話し合った。

「私とレティでツキを浄化します。浄化すると言っても魔族じゃなくなるわけではありません。」

ハンナは強い口調でそう説明した。

ツキは終始ビクビクしていてかわいそうだった。


「ツキ、あなたの中にあるおかしなものを取るだけだよ。何も怖くないから。私がついてるから。」

レティシアはツキの手を握り、優しくそう言った。

ツキは心を決めたように「うん」と頷いた。


────


家や動物たちに何かあったら大変なのでみんなはトンネルの入り口の方までやって来た。

ツキを座らせてハンナとレティシアでツキを囲んだ。


「私は詠唱するけど、レティはいつものようにやって。」

「わかりました。」


ツキは両手で顔を覆った。よく見ると小さく震えていた。

「ツキ、大丈夫よ。私がそばにいるわ。」

ツキは無言でそのまま頷いた。


「では、始めます。」

カイたち3人は少し離れたところからこちらを見ていた。

呪いが暴れだしたら加勢するようにハンナに言われている。

「加勢ってツキを押さえつけるとかそんなよね?」

ケリーは不安そうにルルに聞いた。

「ハンナの言い方だと息の根を止めろみたいに聞こえたけどね。」

「俺がそんなことはさせないさ。」


「この者の中にある悪しきものよ。今すぐここから立ち去れ。さもなくば聖なる炎で焼き尽くす。」

ハンナはツキを睨みつけ、浄化の魔法を詠唱し続けた。

レティシアは《ツキの中にある悪いモノ消えろ》と祈り続けた。


ツキは顔を上げてニヤリと笑った。

ネズミと戦ったときのツキがそこにいた。


「我を追い出そうというのか?」


ツキはそのまま垂直にスーッと浮かび上がった。

ハンナの目が険しくなり、詠唱する声が大きくなった。

「我は魔王、お前らなど我の魔法で一瞬で粉々にできるぞ。」

ツキは高らかに笑った。

その姿はとても不気味でおぞましかった。


レティシアはツキの目をじっと見つめた。

その黄緑色の瞳の奥にいつものツキが見えた気がした。

《ツキ、負けないで!あなたならそんなモノに負けないわ!》

レティシアはツキを睨みつけた。


さっきまで余裕そうに笑っていたツキの表情が変わった。

苦しそうに歪み、ゆっくりと地面に降りてきて崩れ落ちるように倒れた。


「くそ…。なんなんだ…。我から最強の器を…奪おうというのか…。」


ツキは最後の力を振り絞るかのようにそう言ってレティシアを睨んだ。

「お前は…王家の…娘かっ!!」

ツキの目がカッと見開いてレティシアを睨み、すぐにゆっくりと閉じていった。

ツキはそのまま地面に倒れた。


ハンナはツキをそのまま仰向けにした。

「この物の中に二度と悪いモノが入らぬよう、お守りください。」

ハンナはツキの頭や両手両足を順番に触り、結界の魔法をかけた。


レティシアも《悪いモノが近づきませんように》と祈った。


「終わりました。」

ハンナは汗だくでその場にへたり込んだ。

ルルが駆け寄りハンナに水を渡した。ハンナは勢いよくゴクゴクと飲んだ。

レティシアはツキの手を握り、「ツキ、終わったよ」と声をかけた。


ツキはゆっくりと目を覚ました。

そしてレティシアを見るとすぐに抱きついて泣いた。

「怖かったよ。レティ…怖かったよ。」

レティシアは「がんばったね」とツキの頭を撫でた。

すぐにカイとケリーもやって来てツキの頭を撫でた。


ハンナは立ち上がり、改めてツキを見た。

「もう悪いモノは感じません。結界を張ったのでしばらくは近寄れないでしょう。結界は定期的に張り直すのをおすすめします。」

ハンナの口調がさっきより柔らかくなっているのがわかった。


「ありがとうございました。」

ツキはハンナを見て初めて笑顔になった。

ハンナはそれに驚いて「お礼ならレティにどうぞ」と恥ずかしそうに言った。


家に戻り、ハンナとレティシアは改めて家周辺に結界を張った。

疲れたハンナはカイの家に一泊していくことにした。


────


夕食時にルルが「私はタルに戻る」と言い出した。

カイもケリーもそれには難色を示した。

「タルでやりたいことでもあるのか?」

カイはルルを睨みつけた。

「あるわ、私、あの町で何かお店をやりたいの。」

それはレティシアにも初耳だった。

「店ってなんの?」

ケリーは少し興味のある様子だった。

「まだわからないわ。でもエメラルドを売ったお金で何かできると思うの。」

「それはそうだが。」


「あのね。」

みんなの話を聞くだけだったレティシアが口を開いた。


「みんなでタルの町の向こう側の山の麓に引っ越したらどうかなって思ってたの。」

レティシアはルルに地図を出すように言った。


レティシアはテーブルの真ん中に地図を置いてタルの町の西にある山を指差した。

「ハンナに聞いたらこっちは未開の地で魔物も多いから誰も近寄らないんだって。」

「そこに家を建てるというのか?」

「そう。山には鉱物が眠ってるかもしれないでしょ?魔物がいるなら洞窟があるかもしれないよ。」

ツキは目を輝かせた。

「私、行きたいかも。」


ツキが何かをしたいと言うのはかなり珍しい。

いつも自分の意見をあまり言わない。我慢しているのか、本当に何も考えていないのかよくわからないツキだった。

「ツキは行きたいのか。ケリーは…」

カイはそう言ってケリーを見るとケリーも目を輝かせていた。


「新しい土地に新しい店、新しい鉱脈!なんだか考えるだけでワクワクするわね。それにハンナが近くにいればツキも安心よね。」

1番乗り気に見えるケリーだった。


ルルはそこまで大きな事態になると思ってなかったらしく、オロオロしていた。ルルはただ、マイトの近くに居たかっただけだったからだ。


「大移動になるな。動物たちも連れていけるかな。」

カイは増えつつあるヤギや鶏のことを考えた。

「ヤギたちもカバンに入ってもらおう。」

ツキはそう言ってどこかから大きな革のカバンを出した。レティシアは魔法で出したと気づいた。


「生き物も入るのか?!」

ツキはドヤ顔で頷いた。

「多数決を取ろう。」

カイはそう言って「行きたい人」と聞いた。みんなは手をあげた。

ハンナはそれを見てため息をついた。

「私を面倒に巻き込まないでくださいよ。」と言って笑った。


新たな土地へ、みんなで向かうことになった。


────


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