第26話
レティシアはハンナの元で魔法の精度を上げることに成功した。
今ではキラキラさせずに魔法を使うことができる。
これならまわりに気がつかれることもない。
それと同時に威力も上がったようだった。キラキラを消すためにたくさんの魔力を使った。
どうやら使えば使うほどレティシアの魔法の精度は上がるようだった。
そろそろツキを助けに行きたいとハンナに言った。
ハンナはまだ魔族のツキに敵対心を持っている。魔族は今すぐに滅ぼすべきという考えは変わっていない。
しかしハンナはツキのところへ行くことに賛成してくれた。
レティシアは喜び、ルルはタルを離れることに少し難色を示した。マイトと離れたくなかったのだ。
それぞれの思いはあったが、とうとう帰る日が決まった。
その日は薬屋を休みにすると告知を出した。
往診すべき貴族の屋敷を予め回った。
薬も多めに処方した。ハンナは何かあってもしばらくどうにかなるように環境を整えた。
ハンナは馬で行くというのでルルとレティシアは1日早くタルの町を出た。
乗り合いの馬車は相変わらず荷物がたくさん積まれていた。
二人は戻る前にエメラルドを1つ売ることにした。
カイの言っていた薬屋の近くにある宝石商のところへ行った。
ここは以前、ルルが店内を覗いて女の若い店員に睨まれた店だ。
ルルは負けないようにと身なりを整えてきた。
「いらっしゃいませ。」
店に入ると店員はそう声をかけてきたが、入ってきたのがルルとレティシアだったのですぐに目つきが変わった。
ルルは何か言われる前に「モーリさんをお願いします。カイの娘が来たと伝えてください。」と言った。
店員はダルそうに返事もせず奥に入って行った。
すぐに品のいい老人が現れた。
「カイ様のお嬢様。いらっしゃいませ。」
モーリは笑顔で二人を迎えてくれた。
すぐにさっきの店員が二人にお茶とお菓子を持ってきた。
テーブルにドンっと置いてすぐに奥に引っ込んでいった。
「うちの孫が無愛想ですみません。」
「いえ、ありがとうございます。いただきます。」
ルルは笑顔で返事をしたが少しイライラしている感じがした。
「本日はどのような?」
モーリは宝石を置く上等な布張りのトレーを用意していた。
ルルはその上にエメラルドをポンと置いた。
「買い取りをお願いできますか?」
「やはり!素晴らしい!」
モーリは待っていましたと言わんばかりに革の手袋をしてエメラルドを何かの魔導具を使って観察しだした。
「これは、前回のよりも透明度が高いですな。サイズも申し分ない。」
ルルもレティシアもよくわかっていない。
カイには小金貨15枚以下では売るなと言われていた。
「実はどうしてもエメラルドが欲しいという人がおりましてな。私も困っていたところです。カイ様に連絡できたらよかったのですが、私は連絡先を聞いていませんでした。」
聞かれたところでカイは答えなかっただろう。
「実は定住してなくて、発掘しながら流浪しているんですよ。」
ルルがそんな嘘をついたのでレティシアはおかしくて吹き出しそうになった。
「そうでしたか!それでこのような素晴らしいものに出会えたのですね。」
モーリは惚れ惚れとエメラルドを眺めた。
「小金貨30枚でいかがでしょう?」
モーリは真剣な顔になってルルの前に金貨を積んだ。
「そうですね…。」
ルルは少し悩んで、「それにこれもつけてくださるかしら?」と、以前外から見たあのペンダントを指差した。
「なかなか商売上手な娘さんだ。気に入りました。それでいいでしょう。」
ルルは金貨とペンダントを受け取り、レティシアは急いでお菓子を食べた。
ルルは最後まで凛とした態度で店を出た。
店を出るとすぐにルルはレティシアの手を引っ張り薬屋に向かった。
薬屋の2階まで来るとルルはやっと呼吸ができたかのように深呼吸をした。
「あぁー緊張した!」
「ルル、すごいね。カイが言ってた値段の倍だし、高そうなペンダントまでもらったね。」
「そうね、30枚には驚いたけど…。ペンダントはダメ元で言ってみただけよ。まさかくれるとは思わなかったわ。」
ペンダントには銀貨80枚の値札がついていた。
貴族向けの商品ではなかったがケリーへのお土産には十分だった。
二人はとりあえず荷物をまとめ、部屋を掃除した。
昼になり、ハンナに先に行くと挨拶をして乗り合い馬車へと向かった。
「ルルさん!」
振り向くとマイトが走ってきた。
「マイトさん!」
ルルは喜んでマイトに抱きついた。
「実家に戻るのですよね。これ、よかったらお土産に。マーサが焼いてくれたんです。」
マーサはマイトの勤めるカルダン家の料理人だった。
紙の袋からいいにおいがする。
「わざわざありがとうございます。あの、私、絶対に戻ってきますから。」
ルルは真剣な顔でマイトをみつめた。
「待ってますね。」
レティシアはそんな二人のやり取りがまるで恋愛ドラマのように見えた。
《すてき!》
馬車は無情にも出発してしまった。
ルルは幌を捲りあげ、マイトが見えなくなるまで手を振っていた。
レティシアは我慢できずにマーサの焼いたクッキーを頬張った。
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「ツキのことが解決したらレティシアはどうするつもり?私はタルに戻るつもりだけど。」
ルルはもう戻ることを考えていた。
レティシアはまたみんなであの家で暮らすと思っていたので、そうじゃない選択肢があることに困惑した。
ツキはきっと町での生活は望まない気がする。
狩りや採掘など好きなときに好きな魔法を使いたいと言うに決まっている。
「私はツキと一緒にいようと思う。」
レティシアはどうなるかわからないけど、それだけは決まっているのでルルにそう言った。
「そうね、みんなでタルに引っ越すっていうのもいいわね。」
ルルはそう言って「どこかに土地を買って家を建てて」と楽しそうに想像を始めた。
レティシアもみんなで引っ越すならいいかもしれないと思った。
タルの町の中ではなくて、近くの森とかを探して今みたいな生活をする。
「タルの町の向こうには何があるんだっけ?」
レティシアは地図を思い出そうとしたが思い出せなかった。
「あっ、お父さんから地図を預かってたわ。」
ルルはそう言ってカイの地図を出してくれた。
「タルの西には山があるね。その山の向こうにまた町があるみたい。きっと山が国境になってるのね。」
地図には山が描かれていた。
《山があるということは発掘もできる》
レティシアは山で狩りや発掘をする生活を思い浮かべた。
なかなか楽しそうだと思った。
そんな妄想をしているうちに目的地に到着した。
みんなの家から一番近いこの町は『ニワ』という名前がついていた。
町の名前なんて気にしていなかったので御者に「ニワについたよ」と言われてもピンとこなかった。
外は真っ暗だったけど急げばみんなが寝る前には家に到着できそうだった。
二人は足早にトンネルへと向かった。
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「ただいま!」
ルルは勢いよくドアを叩いた。鍵が閉まっていたからである。
すぐにドアが開き、みんなで出迎えてくれた。
「おかえりなさい!」
みんなで抱き合って再会を喜んだ。
ツキはそれに混ざることなく嬉しそうな顔でレティシアを見ていた。
「ツキ、おまたせ。」
レティシアはツキの両手を握りにっこり笑った。
「おかえりなさい。」
ツキが泣きそうなのを見て、レティシアは先に泣いてしまった。
それを見てツキも泣いてしまった。
二人は手を握ったままわんわん泣いた。
寂しかったのと、心配していたのと、再会が嬉しいのと、いろいろ混ざった複雑な感情が一気に溢れ出た。
その日、レティシアとツキは同じベッドで手を繋ぎながら寝た。
たくさん話したかったのにベッドに入るとすぐに寝てしまった。
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