第22話
ハンナの元にやって来たルルとレティシアは、タルの町での生活に戸惑いながらもなんとかやっていた。
ハンナはレティシアが記憶している優しいお母さんというイメージとは違うとても厳しい人だった。
もちろん優しくないと言うわけではなく、愛のある指導であることはレティシアにもわかっていた。
「そんなボヤッとした感じで魔法と言えるの?祈っただけで発動するとか私には理解できませんよ。」
ハンナは「魔法は詠唱して発動するもの」だと言う。
しかしレティシアもツキも無詠唱だった。
今さら詠唱してと言われても全くできない。
「まぁ、いいです。レティは規格外なのでしょう。普通は回復魔法をかけても結界を張ってもキラキラはしません。キラキラさせないで発動させる特訓をしましょう。」
ハンナはレティシアの魔法が派手で目立ってしまうのが気になった。
レティシアにはひっそりと地味に過ごしてほしかったからだ。
「キラキラさせたくてしてるわけじゃないんです…。」
レティシアは汚れた布に対して浄化の魔法をかけていた。
何度やってもキラキラと何かが出てしまう。
ルルは布がきれいになるたびに泥をつけて汚した。
「洗濯屋でもやれば儲かるのにもったいないなぁ。」
ルルがそう言うとハンナはジロリと睨んだ。
「うちは薬屋です!変な商売を始めたりしないでくださいね。」
「はい。」
怒られたルルを見てレティシアはクスッと笑った。
「レティ!笑ってないで真面目にやりなさい!」
魔法の特訓はハンナの温室の中でやっていた。
人目につかない場所なのでハンナがここを選んだ。
レティシアはこの温室が好きだった。
見たことのない面白い植物がたくさんあった。
ハンナの機嫌が良いときには植物の説明をしてくれる。
レティシアはそれをメモ帳にメモしていた。
いつか図鑑のようなものを作れたらいいなと思っていた。
「そもそも光の玉を出そうとするからいけないのです。光の玉のことは忘れなさい!」
レティシアは魔導書に書いていたのに、と言いそうになったが「はい。」と言って飲み込んだ。
《光の玉を出さないで魔法を使うってことよね》
わかっているけどできないという、自分のポンコツさに腹が立ってきた。
「自分の内に魔力を感じるんです。レティ、それではあなたが光ってますよ。やり直し!」
ルルはそれを見ておかしくてたまらなくなった。
ハンナは呆れて「今日はここまで」と言った。
3人は家に戻り、夕食の準備を始める。
いつもならとっくにお腹いっぱいになっている時間だったが、薬屋を閉店後に魔法の特訓をして、夕食はその後とハンナは決めた。
夕食後にも元気なら魔法の特訓をする。
疲れるけどレティシアには充実した日々だった。
ルルは前世の世界でいう焼肉丼のようなものを作ってくれた。
ここでは手の込んだ料理はしていない。
いかに早く美味しいものを作るか、という思想にかられていた。
美味しく食べていると下からドアを叩く音が聞こえてきた。
「二人は上にいて。」
ハンナは少し身構えたように見えた。
二人は上から下の様子を覗った。
「ハンナ様!!旦那様が…。旦那様を助けてください!」
若い男の声が聞こえてきた。
「ロックベリー家のドム?!一体どうしたというのです?」
ハンナは真っ青な顔をしたどこかの従者らしき男を店の中に入れた。
「旦那様がおかしな魔物を飼いたいと言いまして…。まんまと噛まれてしまいまして…。その、苦しそうにしていて…今にも死にそうで。」
ハンナは「すぐに行きます」と革のカバンを手に取りドムと出ていってしまった。
二人は2階からその様子を見ていた。
ハンナとドムは慌てて貴族街の方へ走っていった。
「ハンナはお医者様の役目もしてるのかしら?」
ルルはすごいものを見ているかのように目を輝かせた。
「私のことも魔法で治してくれたもんね。」
光属性の魔法師は少ない。ハンナはさらに宮廷魔法師として国に仕えるほどの実力の持ち主だ。
「私もあんなふうになれるのかな。」
レティシアは自分の不甲斐なさを感じ悲しくなった。
「レティはまだまだ子供でしょ!なれるわよ!ハンナよりももっともっとすごい魔法師になるわよ!だって私がついてるもの!」
ルルは自分の胸を叩いてそう言い切った。
二人はおかしくなってしばらく笑った。
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ハンナは小一時間で帰ってきた。
「バカ貴族には呆れるわ。」
ハンナはプンプンと怒っていた。
「毒のある魔物にでも噛まれたの?」
ルルはニヤリと笑ってハンナに聞いた。
「当たりよ。あんな蛇を放し飼いにするなんて…大量殺人犯と言われても何も言えないわよ、まったく。」
ハンナが行くと貴族の主人に加えて従者たちも数人噛まれていた。
蛇は誰にも捕まえられずにいて、さらに犠牲者を出しそうな場面だったという。
ハンナは一撃で蛇を仕留め、毒に侵された人たちを次々と浄化した。
貴族の主人は蛇の亡骸を残念そうに抱きしめていたという。
「飼いたいなら毒のないものを探しなさいって言ってやったわ。」
そしてお金の入った小袋をテーブルにドンと置いた。
「私は儲かるからいいんだけどね。」
ハンナはそう言ってニヤリと笑った。
「明日の夕食は美味しい物を食べに行きましょう。」
ハンナの言葉に二人は喜んだ。
ここでの食事に文句はなかったが、ついついケリーの作る手のこんだ料理が恋しくなってしまっていた。
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薬屋にはいろんな人がやって来た。
ハンナはどうやら貴族からはたくさんお金を貰い、庶民からはほとんど貰っていなかった。
「本当は小金貨1枚だけど今日は銀貨1枚でいいわ。お金ができたときに払ってね。」
「いつもすみません。いつか必ず払います。」
町の人たちは代金を払えないのがわかっているようで家で収穫した野菜や自分で繕った服なんかも持ってくる。
ハンナは「しかたないわね、これでいいわよ。」と代金の代わりに受け取る。
ルルは「甘すぎるわよ」と商人のようなことを言ったが、レティシアにはそれがとても格好よく見えた。
自分もそんな人になりたいと憧れた。
こんなポンコツでも誰かの役に立ちたい。
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いつものようにレティシアは客のいない薬屋の中で薬草のことをハンナに聞いていた。
前世ではそういう記憶がほとんどなかったのでとても新鮮だった。
《勉強できるときにしておけばよかった》
レティシアは前世ならもっとたくさんの知識を得ることができたのに、と少し悔しくなった。
店のドアがゆっくりと開き、黒い服を着た人が入ってきた。
レティシアはその男の人に見覚えがあった。
冒険者ギルドに馬車を売りますの広告を出しに来ていたあの人だった。
「おじゃまいたします。」
男の人は礼儀正しくハンナに向かって一礼した。
「あら、マイトさんいらっしゃいませ。」
ハンナの様子から彼が常連のお客様だとわかった。
レティシアも「いらっしゃいませ」とペコリと頭を下げた。
マイトはレティシアに気がつき首を傾げた。
「あぁ、カイ様のお連れ様ですね。オルリは元気でしょうか?」
「はい!オルリは少し離れた町の向こうで元気に暮らしています!」
レティシアはどう説明していいかわからず、そう答えた。
「そうですか。安心いたしました。」
マイトはそう言ってニコッと笑った。
その瞬間、レティシアに衝撃が走った。
この世界に生まれてきてからこんな感情になったことはなかった。
少し浅黒い肌できれいなブルーの瞳にサラサラの金髪。
よく見れば見るほどアニメの中の王子様だった。
《なんて美しい人なんだろう…》
レティシアは見とれている自分に気がつき、恥ずかしくなってハンナの後ろに隠れた。
顔から火が出そうなくらい熱かった。
「何かお求めですか?」
ハンナは挙動不審なレティシアを気にしつつ、マイトに用件を聞いた。
「実は3日後に屋敷でパーティが開かれることになりまして…。使用人の数が足りないと旦那様がおっしゃいまして。」
マイトは申し訳なさそうにモジモジとしていた。
「私にその手伝いを頼みに来たんですね?」
「はい、ハンナ様にこんなことをお願いするのは大変恐縮なのですが、旦那様がハンナ様を指名されまして…。」
「なるほど、それは行かないといけないみたいですね。」
ハンナは呆れたように言ったがすぐに笑って「いいですよ」と言った。
「私も手伝います!」
2階からルルが降りてきて「ハイ!」とマイトにアピールした。
「それは助かります!」
「私はルル、こっちのがレティです。」
ルルはレティシアを引っ張りマイトの前に立たせた。
「私なんかに手伝えることなんてないですよね。」
レティシアは両手を振って「私なんかだめです」と言った。
「レティさん、人前に出ない仕事もたくさんあるんですよ。もし都合がつくようならお手伝いいただけますか?」
マイトは優しい笑顔をレティシアに向けた。
レティシアはボーッとマイトの顔をみつめてしまった。
「大丈夫です!この子、こう見えて何でもやりますから!」
ルルは笑顔でレティシアの背中をバンッと叩いた。
レティシアはよろけて転びそうになった。
顔を上げるとマイトとルルはみつめ合ってニコニコと笑っていた。
「みなさん、本当に助かります。前日に段取りをお知らせしに参ります。その時に衣装もお持ちしますね。」
マイトはそう言うと3人を順番に見た。
だいたいのサイズを把握したのであろう。
そして丁寧に一礼して店を出ていった。
「ルルはいいとして、レティは大丈夫かしら?」
ハンナはいまだに挙動不審なレティシアを値踏みするように見た。
「えっ?大丈夫だよ!マイトさんが人前に出ない仕事もあるって!」
レティシアは置いていかれないように必死でハンナにアピールした。
「失敗してやらかしませんようにって祈っておくことね。」
ハンナはそう言って笑った。レティシアは「なるほど」と言い、ルルは「私にも同じのお願い」と言った。
こうして3人は貴族の家のパーティの手伝いをすることになった。
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