第21話
うっかり寝坊をしてしまった二人は急いで宿を出た。
隣の店では「まだ朝食やってますよ!」とライが手招きしていた。
二人は恥ずかしそうにそこで朝食をとった。
「お疲れのようですね。」
ライは心配そうな顔で二人を見た。
「寝坊しただけです。」
ルルはエヘヘと笑った。
二人は朝食を終え、薬屋を探すことにした。
カイは貴族街の近くにあると言っていたので、まずは貴族街を目指した。
近づくにつれて街並みはキレイになり、高級そうな店も増えていく。
二人には珍しいものばかりでなかなか先に進まなかった。
「お母さんにおみやげを買いたいわ。」
ルルは装飾品を扱う店のショーウィンドウの前で立ち止まり、キレイなペンダントを見ていた。
中から若い女の店員がこちらを嫌な顔で睨みつけた。
ルルは驚いてすぐに店の前から立ち去った。
薬屋はすぐにみつかった。
二人は恐る恐る中に入った。
「ごめんください。」
「はーい。」
聞き覚えのある声が聞こえて二人は安堵した。
「ルル?!レティシア様も!まだ具合が悪いのですか?」
ハンナは二人を見て驚き、すぐに【CLOSE】の札を出した。
「私はとっても元気です!あのね、ハンナにお願いがあって来たの。」
二人はハンナが帰った後の話をした。
ツキは本当に魔族かもしれないけど、その前に家族であること。
ツキに悪いモノがついているならば取ってあげたいこと。
そのために修行して実力をつけたいということ。
ハンナは一通り聞いてため息をついた。
「魔族と家族とは…。頭が痛いです。本来ならばすぐに息の根を止めるべきです。」
「そんなこと言わないで!ツキは悪い子じゃないよ!」
レティシアは泣きそうになった。
「しかし、その子の魔力はすごいのでしょう?今はまだ自我が残っているかもしれませんが、闇の力が増幅したらどうなるかわかりませんよ?」
「その闇の力を取ることはできないの?ほら、浄化でどうにかならない?」
レティシアが必死にそう言うとハンナは何やら考え込んだ。
「私一人でも、レティシア様一人でも、それは無理だと思います。しかし二人の力を合わせたら…。やる価値はあるかもしれません。」
ハンナが初めて前向きなことを言ってくれて二人は笑顔になった。
「しかし今のレティシア様では確かに力不足ですね。自由に魔法を操れないのでしょう?」
ハンナにはバレバレだったようでレティシアは少し恥ずかしくなった。
《だって中身がポンコツなんですもの》
「なんとかなりませんかね?師匠!」
レティシアは目を潤ませてハンナをみつめた。
「もう…そのつもりで家を出て、ルルまで連れてきたのでしょう?」
「はい、その通りでございます。」
レティシアとルルは顔を合わせてニヤリと笑ってそう答えた。
ハンナはまたため息をついた。
「住むところもないのでしょう?ここまでどうやって来たのですか?お金はあるんですか?」
ルルは住んでいる近くの町から乗り合いの馬車でやってきたこと、お金はたくさん持ってきていること、住むところもそのあてもないことを話した。
「断られたらどうするつもりだったんですか?」
「それはもちろん、いいって言ってもらえるまで粘るつもりでした。」
二人が楽しそうにそう話すものだからハンナは呆れてしまった。
「とりあえず2階に来て。部屋は1つしか空いてないの。二人で一緒の部屋でもいいかしら?」
「わぁ!やったー!」
「屋根裏でも馬小屋でも庭先でもいいです!」
ルルとレティシアは抱き合ってぴょんぴょん跳ねた。
「それでは私もレティシア様ではなく、レティと呼ばせていただきますね。敬語もやめます。レティシア様があの国の王の娘だと誰にも気づかれてはいけません。」
レティシアは「はい」と言って頷いた。ルルも横で頷いていた。
────
薬屋の上は小さなキッチンと部屋が2つあるだけだった。
お風呂とトイレは薬屋の裏の馬小屋の横にあった。
庭にはガラス張りの温室がある。その中で薬草を育てているということだった。
「二人には薬屋の手伝いもしてもらいます。魔法の訓練は店の営業時間外に。いいですか?」
「はい!」
「私はその時間に家事を手伝います!なんでもやります!」
ルルも手を挙げてやる気をアピールした。
「よろしい。食事の支度は私とルルでやりましょう。レティは掃除と馬の世話を手伝ってくださいね。」
「はい!」
ハンナは二人の荷物が少ないことに気がついた。
「生活に必要なものを買いにいきますか?」
「あ、カバンに全部入ってるから大丈夫。」
ルルはツキにカバンをアイテムボックスにしてもらった話をした。
「魔族め…なんて強力な魔法を…。」
「今度ハンナのカバンもアイテムボックスにしてもらったらいいよ。」
ハンナは羨ましそうにしたが、「魔族に頼みごとなんて!」と眉間にシワを寄せて拒否した。
ツキのことを理解してもらうのは、なかなか大変そうだと二人は思った。
ハンナは二人を2階において薬屋に戻って行った。
荷物を整理するように言われたので、二人はカバンから着替えや生活に必要なものたちを部屋に出した。
理由はなんであれ、ハンナにまた会えたことと新しい生活が始まることで二人は少しわくわくしていた。
─こうして二人のタルの町での生活が始まった。─
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薬屋の1日は温室での水やりから始まった。
この家にはレティシアが前世の世界で知っているような上下水道が完備されている。
魔導具によって動いているようで、住む人を選ぶ物件になっている。
魔力を持たない貴族は従者に魔力持ちを雇う必要が出てくる。
執事やメイド長など、従者の中でも良い役職につけるらしい。
この世界では魔力を持っているだけで、持ってない人よりもいい生活ができるようだ。
レティシアは鼻歌まじりで薬草に水をあげていた。
ジョウロは前世の記憶にあるものと似ている。
水のかかった薬草たちはキラキラと輝いていた。
「レティが水をあげると薬草たちが元気になる感じがするわ。」
ハンナは輝いている薬草を1枚採って匂いをかいだ。
レティシアはこの匂いを知っている。ミントと呼ばれる清涼感のある葉っぱだ。
「歯磨き粉のにおいだね。」
レティシアはなんの気なしにそう言ってしまった。
「歯磨き粉?」
ハンナはレティシアを睨みつけるように「それはなに?」と問い詰めた。
レティシアは仕方がなく「歯を磨くときに使うもの」と言った。
「そんなもの聞いたこともないわ。どこでそんなものを知ったというのよ。」
困ったレティシアは乗り合いの馬車の中で旅の商人に聞いたかもしれないと適当なことを言った。
「泡が出てミントの味で口の中に入れても問題のないものってことよね…。」
ハンナはブツブツ言いながら温室を出ていった。
レティシアは変な汗をかいた。そして気軽に前世の記憶にあるものの話はするものじゃないと心に刻んだ。
店に戻るとルルが「朝食できたよ」と2階から声をかけてくれた。
二人は薬屋の2階に上がり、3人でパンとハムだけの朝食を食べた。
この町では新鮮な牛乳が売っていて、手軽に飲むことができる。
そして何よりも冷蔵庫にあたる魔導具がここにある。
ルルの実家では保存食への加工が必要だったが、この家では生鮮食品のキープが可能だった。
朝食を終えるとハンナは店の開店準備に入る。
ルルとレティシアは邪魔をしないように馬小屋に行って馬にブラシをかけた。
「シロメは今日も美人さんね。」
ハンナの所有している馬は真っ黒でとても美しい馬だった。レティシアは黒い馬なのにシロって変なのと思ったが言わなかった。
お得意様の貴族からのプレゼントなんだそうだ。
「ツキ、元気にしてるかな。」
レティシアは青空を眺めてぼそっとそう言った。
「きっと今頃、洞窟でも掘ってるわよ。」
ルルはそう言って笑った。
ツキが悪いモノだなんて未だに信じられない二人だった。
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