第20話
ツキが家に帰ってきた。
5人は食卓テーブルを囲み、晩ご飯を食べていた。
「ツキ、今から大事な話をするから、逃げ出さないで最後まで聞いてくれるかな?」
食べ終わった頃にカイはゆっくりとそう話し始めた。
ツキは真剣な顔で小さく頷いた。
「ハンナのことは覚えているかな?この前ここに来た女性だよ。」
ツキは小さく「うん」と頷いた。
「ハンナは昔ね、宮廷魔法師と呼ばれていたすごい魔法使いなんだ。国の偉い人たちを魔法で守ったりするお仕事をしていた人なんだよ。」
ルルもレティシアも初耳だった。ただのメイドだと思っていたからだ。
「その人がツキのことを魔族だって言うんだ。魔族って言うのはとても魔力が高くて魔法もとても上手に使える種族だよ。」
ツキは静かにうんうんと頷きながら聞いている。
カイはツキが理解しているのを確認して話を進めた。
「魔族は魔力が高くて、とても優秀な魔法使いなんだ。人間にはとても勝てない強い存在なんだよ。だからね、人間は魔族を恐れてきたんだ。ツキならわかるよね?自分が望めば町を滅ぼすくらい簡単にできるってこと。」
ツキは「うん」と申し訳なさそうに言った。
「ハンナはそれを知っていて、ツキのことを恐れてしまったんだ。だからツキはハンナが敵みたいに思えただろう?」
ツキは悲しそうな顔になって、また「うん」と小さく頷いた。
「ハンナに悪気がないって、それはわかってほしい。ハンナにはレティが特別なんだ。赤ちゃんのときのレティを育てていたのはハンナなんだ。」
ツキはゆっくりとレティシアを見た。レティシアはニッコリと笑っていた。
「大事なレティの横に魔族がいるっていうだけで、ハンナはとても恐れてしまった。そしてレティはあの洞窟で呪いにかかってしまった。もちろんツキがレティを呪ったなんて思わない。ツキにそんな力はないだろう?」
「ない、と思う。レティを呪いたいなんて絶対に思わない。」
ツキは悔しそうに顔を歪めた。
「うん、それを聞けて安心したよ。ツキ、君は大事な家族だ。問題を一つずつ解決していこう。」
カイがそう言うとツキは嬉しそうに顔を上げた。
他のみんなもうんうんと笑ってツキを見ていた。
「あのね、私ね、ときどき変なんだ。自分が自分じゃないときがあるんだ。」
ツキは苦しそうな顔に戻り、そう話した。
レティシアはネズミと戦っていたときの不気味なツキの姿を思い出した。
「私も、そのツキを見たよ。」
レティシアはツキの手を握りしめた。
カイは一瞬悩み、「呪いがかかっているのはツキなのかもしれないな」と言った。
あまりにも凶悪な呪いで近くにいたレティシアに干渉したのではないかと言った。
みんなその先の言葉を失ってしまって静かになった。
ツキの運命を思うとレティシアは悲しくなった。
《幼くして死んでしまい、生まれ変わることができたのに呪われているなんて…》
レティシアの想像の中のツキの前世は小さな子供で病弱なイメージだった。真相は聞けていない。
「その呪いを解く方法を探そう!」
レティシアはテーブルをバンと叩き立ち上がった。
カイはケリーとルルの手を取った。
みんなはそれに倣って手を繋ぎ、輪ができた。
「俺たちは家族だ。家族は支え合うものだ。一人の問題はみんなの問題。みんなで助け合って解決するぞ!」
「おー!」
みんなは手を繋いだまま両腕を上げた。そしてその姿がおかしくなってみんなで笑った。
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問題を解決すると決意したレティシアたちだったが、具体的に何をすればいいのか、わからずにいた。
レティシアは毎日、《ツキの中の呪いが悪さをしませんように》と祈った。
祈りが効いているときにはキラキラ光り、効いていないときにはキラキラしないとレティシアは最近わかってきた。
だから《呪いを解いて》と何度も祈るがキラキラすることなく、空振りしている感覚がレティシアの中にあった。
《私には呪いを解くことができない》
しかしレティシアは諦めていなかった。
《今の私では、だめだ》
レティシアはもっとすごい魔法を使えるようになりたいと心の底から願った。
「宮廷魔法師ってどれくらいすごいの?」
レティシアは馬小屋の掃除をしながらケリーに聞いてみた。
「そうね、国に一人いるかどうかのすごい魔法使いよ。ハンナはレティと同じ光属性の持ち主よ。確か他にも違う属性の魔法を使えた気がするわ。」
レティシアはそうだろうと思っていたがそれを聞いて確信した。
「私、ハンナに弟子入りしたい。」
昼ご飯のときにレティシアは急にそう言い出した。
カイとケリーは少し悲しい顔になった。おそらくそう言い出すのを覚悟していたのだろう。
「レティが行くなら私も行くわよ。」
ルルはケロッとそう言った。
「私も行きたいけど…」
ツキはそう言って下を向いてしまった。
ツキにとってもハンナにとっても、お互い敵同士のような存在だった。
「ツキはここにいてほしいな。」
カイはにこやかにそう言った。ケリーもうんうんと頷いた。
「ツキ、ここで二人を守ってくれる?修行が終わったら帰ってくるから。」
レティシアはツキの手を握りしめて涙ぐんでそう言った。
ツキも悲しそうな顔になって「任せて」と言った。
そうしてルルとレティシアはハンナに弟子入りするべく、タルの町に行くことにした。
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「ハンナに断られたらどうしよう?」
「そんなの、いいって言うまでお願いするしかないよ。」
「そっか!がんばる!」
ルルとレティシアは徒歩でタルの町に向かうことにした。
旅に必要なものはすべてカバンに入れた。
お金もたくさん持たせてもらったし、エメラルドとアメジストも念のために持たせてくれた。
行く前に自分とルルに思いつく限りの防衛魔法をかけた。
ルルが光りっぱなしでケリーが心配したほどだった。
もちろん残る3人にも同じようにした。何事もないといいのだがと祈るレティシアだった。
ルルは行く途中にいいものがあれば採掘もすると意気込んでいた。
いつものトンネルには何もない。何度も見ているのでルルも期待はしていなかった。
すぐに近くの町までやって来た。
ここからタルの町に行くための馬車に乗る。
馬車はまだ空きがあってお金を払うとすぐに乗せてくれた。
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あの地獄のような馬車移動も2回目となった今回は下準備バッチリで快適に過ごせた。
今回の馬車は荷物が多く、乗客は二人だけだった。
最後方に座った二人は幌の隙間から外を眺めながら移動した。
レティシアにとって、カイとケリーと離れて暮らすのは初めてだった。
悲しそうな顔になっていたのだろうか、ルルはレティシアの手をそっと握った。
《ルルは強いな》
レティシアはニコッと笑って見せた。
夕日が沈みそうな時間に馬車はタルの町に到着した。
二人は御者にお礼を言って宿屋に向かった。
ハンナのところへは明日の朝一番に行くと決めていた。
「おや!お嬢さんたち!いらっしゃい。」
メルラは二人を覚えていた。
「二人なんですが、1泊お願いできますか?」
「はい、2階の3番目の部屋にどうぞ!食事はお済みですか?今日は美味しい麺料理があるらしいですよ。」
メルラはいつものように笑顔で隣の宣伝もした。
「部屋で少し休んだら行ってみますね。」
ルルとレティシアはペコリと頭を下げて部屋に向かった。
部屋は相変わらずきれいに整えられていた。
前回はツキと一緒に寝たベッドを見てレティシアは少し寂しくなった。
「今日はベッドを独り占めだね。」
レティシアはハッとして「やったね!」と言った。
二人はこのままだと眠ってしまいそうなので隣の店に行くことにした。
店は相変わらず混んでいて、ライは相変わらず笑顔だった。
「2名様、こちらへどうぞ!今日のおすすめはトマト味の小麦麺炒めです!」
ライは笑顔で隣の席の人が食べている料理を指差した。
《パスタみたいなやつだ》
「ルル!あれ食べたい!」
ルルはそれを2人前とサラダを注文してくれた。
ベーコンと炒めた玉ねぎやピーマンが入っていてレティシアにはなんだか懐かしい味がした。
《ナポリタンだわ!》
レティシアはツキに食べさせたいと思った。きっと子供の好きな味だから。
ルルも大絶賛で追加でおかわりを注文していた。
二人とも大満足で宿に戻った。
「レティ、しばらく二人よね。きっと寂しいと思うかもしれない。でもね、離れていても私たちは家族よ。帰る場所があるの。だから寂しがらないでね。私たちが頑張るのをみんな応援しているからね。」
ルルはうまく伝えられないやと言って笑った。
「うん。ありがとう、私がんばるね!」
ルルは「えらいぞ」と言って頭をくしゃくしゃと撫でた。
「お風呂に入ってから寝よう。」
ルルとレティシアは宿の大浴場に向かった。
レティシアは前回入りそびれている。
大きなお風呂は前世にあった温泉を思い出させた。
いろんな記憶と気持ちが入り混じった。
レティシアはそれを全部ひとまとめにして箱に詰めた。
《やることは一つ!今はそれだけ考えよう!》
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